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「霧ふり山脈」と「はなれ山の歌」

「ドワーフたちがうたうにつれて、ホビット(ビルボ)は、たくみのわざと魔法によって作られた美しいものを愛する気持ちが、体の中にたぎるのを感じました。……洞穴を歩きまわり、杖でなく剣を身につけてみたいという、気持ちがしてきました。」

「ホビットの冒険 1章 思いがけないお客たち 瀬田貞二訳」より

ガンダルフの計画によって、ビルボの家に集まったドワーフたちが歌った長い歌です。この歌を聞いて、ビルボは冒険の旅に出たくなったのでした。物語を読んでいるときは、早く次の展開に進みたくて、つい読み飛ばしてしまいますが、じっくり読むとまた、ドワーフの技の素晴らしさと、古に起こった悲劇と、旅の必然性がよくわかります。

PJ映画「ホビット」のサントラCDでは、トーリンたちドワーフの歌う曲を「霧ふり山脈 Misty Mountains」、エンディングに流れるニール・フィンの歌うオリジナルの曲を「はなれ山の歌 Song of the Lonely Mountain」としています。メロディは同じですが、歌詞が違います。(2013.JAN.18訂正)


《映画の中の歌の歌詞》

PJ映画の中のトーリンたちの歌では、J.R.R.トールキンの原作から、第5連と第7連が使われています。 (単語が一つ、claim が find に変えてあります)
(予告編では、3,4行目が省略されていました)

Far over the misty mountains cold
To dungeons deep and caverns old
We must away, ere break of day
To find our long-forgotten gold.

The pines were roaring on the height,
The winds were moaning in the night.
The fire was red, it flaming spread;
The trees like torches blazed with light.



ドワーフという種族は、金銀や宝石が好きで、その細工の技術は素晴らしいものがありました。かつてははなれ山の洞窟を掘り、仕事場を作り、素晴らしい細工物を作っていました。今回のドワーフたちのリーダーである、トーリン・オーケンシールドのお爺さんが、この山の下の王でした。人間たちも谷間に町を作って栄えていました。人間はドワーフの細工物にたくさんのお金をはらい、また子供たちを弟子入りさせたりもしていたそうです。
けれども、宝石や財宝が好きなのは、竜も同じでした。スマウグという竜がやってきて人間の町と、ドワーフの山を襲い、人々を殺し、町を焼きつくしてしまいました。金銀宝石は、はなれ山の中に集めてそれをベッドにして、住みついているのでした。
トーリンのお爺さんとお父さんは、スマウグからは何とか逃げ延びることができました。しかしその後、お爺さんは、ロード・オブ・ザ・リングにも出てきた、モリアでゴブリン(小さいオークのような種族)に殺されてしまいます。またお父さんは、しびと占い師ネクロマンサー(ロード・オブ・ザ・リングではサウロン)の地下牢で無念の死をとげます。トーリンのお父さんから、はなれ山の地図と鍵を預かったガンダルフは、トーリンたちをビルボの家に集めて、地図と鍵を渡すのでした。
この集まりで、ドワーフたちはそれぞれ、ハープやバイオリンや笛や太鼓を演奏しながらこの歌を歌います。この歌が、ホビット庄での静かな生活に満足していた、ビルボの心を揺り動かしたのでした。この歌から、ビルボとドワーフたちの冒険の旅がはじまったのです。

◇追記 2012.12.14◇PJ映画では、少し違う展開になっていましたね。ともあれ、ドワーフたちは、スマウグに奪われた財宝とはなれ山を取り返す旅に出るのでした。

《原作の歌:瀬田貞二訳》

前半では、ドワーフの技の素晴らしさが描かれています。細工の技術の巧みさと、出来上がった王冠や剣の眩い美しさが目に浮かぶようです。
後半は、ドワーフの宝を狙った竜に襲われて、ドワーフの山が奪われた悲劇が歌われています。だから、トーリンたちドワーフは、はなれ山を目指すのだと歌っています。


Far over the misty mountains cold
To dungeons deep and caverns old
We must away ere break of day
To seek the pale enchanted gold.

寒き霧まく山なみをこえ、
古き洞穴(ほらあな)の地の底をめざして、
われらは夜明け前に旅立たねばならぬ、
青く光る魔の黄金(こがね)をさがし求めて。

The dwarves of yore made mighty spells,
While hammers fell like ringing bells
In places deep, where dark things sleep,
In hollow halls beneath the fells.

そのかみドワーフたちは強き呪文を唱え、
その槌音は鐘のようになりわたった、
万物ねむる地の底深く、
山々の下に口をあけた大広間で。

For ancient king and elvish lord
There many a gleaming golden hoard
They shaped and wrought, and light they caught
To hide in gems on hilt of sword.

いにしえの王やエルフの殿のために、
ドワーフたちが作り仕上げた、
きらめく黄金の宝ものや、
剣のつかにちりばめた宝石はおびただしかった。

On silver necklaces they strung
The flowering stars, on crowns they hung
The dragon-fire, in twisted wire
They meshed the light of moon and sun.

ドワーフたちは銀の首飾りに、
星の花々をつづり、
冠の上に竜の火をかかげ、
かがる鉄線には月光と日光をまぶした。

Far over the misty mountains cold
To dungeons deep and caverns old
We must away, ere break of day
To claim our long-forgotten gold.

寒き霧まく山なみをこえ、
古き洞穴の地の底をめざして、
われらは夜明け前に旅立たねばならぬ、
忘れられたわれらの黄金を手にいれるため。

Goblets they carved there for themselves
And harps of gold; where no man delves
There lay they long, and many a song
Was sung unheard by men or elves.

われを忘れて刻みあげた大さかずきや、
黄金のハープが、まだ人間に掘られずに、
長の年月、うずもれてきた。
人にもエルフにもきかれぬ歌がうたわれてきた。

The pines were roaring on the height,
The winds were moaning in the night.
The fire was red, it flaming spread;
The trees like torches blazed with light.

あの日、松林は山の背にうめき、
風は夜のやみになげいていた。
火は赤々と、炎をあげてもえ広がり、
木々がたいまつのようにかがやいた。

The bells were ringing in the dale
And men looked up with faces pale;
Then dragon's ire more fierce than fire
Laid low their towers and houses frail.

鐘は谷間に鳴りわたり、
人々は顔青ざめて空を見上げた。
竜の怒りはすさまじく、
その火が、塔も家もやきほろぼした。

The mountain smoked beneath the moon;
The dwarves, they heard the tramp of doom.
They fled their hall to dying fall
Beneath his feet, beneath the moon.

山は月あかりにかすんでいた。
ドワーフたちは、ほろびの音をきいた。
そして住居(すまい)の穴からにげるうちに、
月光の下、竜の足にかかって死んだ。

Far over the misty mountains grim
To dungeons deep and caverns dim
We must away, ere break of day
To win our harps and gold from him!

お暗き霧まく山なみをこえて、
古き洞穴の地の底をめざして、
われらは夜明け前に旅立たねばならぬ、
竜からハープと黄金をとりもどすため。

「The Hobbit or There and Back Again 1. An Unexpected Party」より
「ホビットの冒険 1章 思いがけないお客たち 瀬田貞二訳」より



アマゾンjp.へジャンプ(別窓) 読むと聴きたくなると思うので、youtubeなどをリンクしておきます。参考までに。

◆トーリンたちの「霧ふり山脈」
http://www.youtube.com/watch?v=McwXxJ54t30

◆エンディングのNeil Finnの歌う「はなれ山の歌」
http://www.youtube.com/watch?v=UJwyW9ngLNg

◆ニール・フィンの「はなれ山の歌」歌詞ありと、ドワーフたちの歌
http://www.youtube.com/watch?v=iIy5zvSpF1E



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このページの背景は「Angelic」さんから頂きました