藤木ゆりこのホームページ 花遊戯へ/指輪物語TOPへ


ひとつの指輪とスメアゴルのこと



「指輪物語」愛読者の方には、すでにおなじみのお話ですが、ずっと前に読んで忘れてしまったとか、映画は見たけど、本を読む予定はない、という方へ。スメアゴル=ゴクリ(ゴラム)と、「一つの指輪」のお話です。ちょっと長いですが、適当に拾い読みでもしてみて下さい。



おばあさんとの思い出

この箱には、ちょうつがいも、
がぎも、ふたも、ありません。
それでも、中には黄金(きん)の宝物が
かくしてある。なんでしょう

ビルボは、今度は、もっと難しいなぞを思いつくあいだの、時間をかせぐために、こんななぞをだしました。まるでやさしいあたりまえの古くさいなぞだと、思っていました。ところが、じつはゴクリにとって、かえって大変な難問だったのです。ゴクリはシューシューうなりました。それでも答えはでませんので、しきりにぶつぶつつぶやきました。
     〈略〉
ところが、とつぜんゴクリは、むかしむかし、小鳥の巣から何かぬすんだこと、それをおばあさんに教えながら、川岸の下にすわっていた時のことを思いだして、さて、何をぬすんでおばあさんに教えたんだったろう、と考えるうちに、−−−「卵だ!」ゴクリはシューシューいいました。「し、し、卵だぁ!」

「ホビットの冒険 くらやみでなぞなぞ問答」より 瀬田貞二訳

このくだりを読んだとき、思わずぐぐっと来てしまいました。まだ、ゴクリが指輪を手にするずっと前、きっと好奇心旺盛な少年だったころ、おばあさんと無邪気に話している姿が目に浮かびます。そして、指輪の魔力に500年も侵され続けていた彼の頭の中にも、まだその記憶は消えずに残っていたのでした。



「指輪物語」は、中つ国という、ホビット、人間、エルフ、ドワーフ、魔法使い、そしてオーク(ゴブリン)などが生きている世界を舞台にしています。
以下、スメアゴル=ゴクリ(ゴラム Gollum)が持っていて、後ビルボに渡り、フロドが持って旅に出ることになる「一つの指輪」についてのお話です。



冥王サウロン、指輪を作る

指輪については、「指輪物語」の本の始めに詩が載っていますので、読者の方は良くご存じだと思いますが、未読の方のために一応書いてみましょう。

三つの指輪は、空の下なるエルフの王に、
  七つの指輪は、岩の館のドワーフの君に、
九つは、死すべき運命(さだめ)の人の子に、
  一つは、暗き御座(みくら)の冥王のため、
影横たわるモルドールの国に。
  一つの指輪は、すべてを統べ、
  一つの指輪は、すべてを見つけ、
  一つの指輪は、すべてを捕らえて、
    くらやみのなかにつなぎとめる。
影横たわるモルドールの国に。

「指輪物語」より 瀬田貞二訳

この指輪すべては、モルドールの冥王サウロンの意志によって作られた物です。
サウロンも、その先代のメルコールも元々あまり恐ろしい姿で人を怖がらせるよりは、とても感じの良い見た目の姿をとり、耳に快い話をして、人を陥れ、闇に引きずり込むのを得意としていました。メルコールなき後、サウロンはエルフから指輪の作り方を教えてもらったようです。エルフは元々金属細工に大変優れていたのです。
最初のエルフの3つの指輪は、エルフの手だけで作られました。次のドワーフの7つの指輪はサウロンも関わったのでしょうか、人間の9つの指輪は当然サウロンが作ったのでしょう。そして、それぞれの種族の為にと言われた19個の指輪は、実は、サウロンが自分の為に作った「一つの指輪」によって暗闇につなぎとめられるように作られた物だったのでした。また、指輪はそれを持つ者の力を強大にする魔力も備えていたのです。

偉大なる戦い〜エルフ・人間連合軍、サウロンを破る

さて、サウロンを倒すべく、エルフと分別のある人間(サウロンの仲間になった人間も沢山いました)達が大きな戦をしました。エルフのギル=ガラド、エルロンド、人間のエレンディル、イシルドゥアなど(スランドゥイルやホビット達も参加していたということです)偉大な戦士達が参戦し、多くの勇者がたおれるなか、ヌメノールの王の息子イシルドゥアがその父の剣ナルシルでサウロンの手から指輪を切り落とし、サウロンは霊体となってモルドールへ逃げて行きました。(一部の伝説では滅びたとされたようです)

イシルドゥアの禍(わざわい)

イシルドゥアは、サウロンの指輪を戦勝の記念として、家宝にするべく、ゴンドールへ持ち帰ります。そして、その指輪に彫られた文字を記録しました。というのもそれはだんだん薄れていったからでした。
しかし、この指輪は本当は、この世に残して置いてはいけない物だったのです。この指輪自体が、まるで意志を持っているように、所持者に影響を与え、また所持者を取り替える事さえするのでした。
指輪にとって、主人の仇の所有物となっているのが不本意だったのでしょうか、イシルドゥアは指輪を持って、大河アンドゥインのほとり、あやめ野を歩いているとき、オークに待ち伏せされ、ほとんどの従者もろとも殺されてしまいます。指輪はイシルドゥアを離れ、大河の底に沈みます。命辛々戻った従者の話によって、指輪は「イシルドゥアの禍(わざわい)」と呼ばれるようになりました。それも、それから約2500年のあいだには、伝説となり、ほとんどの人からは偉大な戦いも指輪の存在も忘れられていました。



スメアゴルの故郷

偉大なる戦から2500年の後、大河アンドゥインのほとりに、ホビットのストゥア族が住んでいました。その中に、スメアゴルというホビットが、家族や親戚と暮らしていました。彼はそれほど「善良」ではなかったようですが、特別悪いというわけでもなく、ただ旺盛な好奇心は明るいほうよりは、草の根本やトンネルのような暗い方に下に向かっていたようです。
ある日、友達のデアゴルと釣りに行くと、デアゴルが川底から綺麗な指輪を見つけました。それが欲しくなったスメアゴルは、今日は誕生日だから、自分にくれと頼みます。断られうると、奪い取ろうとしてもみ合いになり、とうとう彼を殺してしまったのでした。
それ以来、スメアゴルは指輪を「誕生日の贈り物」と呼びます。誰に話すにも、誕生日にもらった物だと言うようになりました。

そうして指輪を手に入れたスメアゴルは、指輪をはめると誰にも見えなくなることを知り、いたずらや盗みをするようになり、人から見えるときは、ぶつぶつ独り言を言って、ゴクリゴクリ(ゴラムゴラム)と喉をならすので、みんなから「ゴクリ(ゴラム)」と呼ばれ嫌われるようになってしまいました。彼の悪事が手に負えなくなったので、とうとう、村の実力者であった彼のおばあさんは、彼を追放してしまいます。
そうして彼は、大河を遡り、太陽を嫌い、霧降山脈のオークの住む山に洞穴を見つけて、住み着くようになったのでした。そして彼は、友達もなく、ただ指輪だけに話しかけ「いとしいしと(ほんとは、ひと)」と呼んで、一心同体のようになり、ついには自分のことも「わしら」と呼ぶようになってしまったのでした。

スメアゴルは、指輪を愛していました。でもそれと同時に憎んでもいました。自分がこんな惨めな姿になり、友達もなく、家族のもとから追い出され、洞穴の中で暮らさなければならなくなったのが、指輪のせいだとわかっていたからです。
しかし、指輪を手にした者は、決して自分から手放すことは出来ません。むしろ、何よりも大切に思うようになってしまうのでした。



我らが、ビルボ・バギンズ氏登場

さて、そのまま500年が経ちました。偉大なる戦からは3000年後です。ちょうど、「ホビットの冒険」の頃です。
ずっと昔の戦争で指輪を奪われ、弱くなっていたサウロンも、少しずつ力を取り戻していました。彼の影はモルドールを出て「闇の森」まで伸びて来ました。闇の森は元は「緑森大森林」と言ったのですが、その影のためにとても恐ろしい場所になってしまったので、呼び名すら変わってしまっていました。
闇の森は、レゴラスの住んでいるところですが、彼はホビットの冒険には出てきませんね。そのお父さんの、スランドゥイル王たち「森のエルフ」が、守っていたので、なんとかエルフの住んでいるあたりは大丈夫でしたが、広い森のほとんどは恐ろしい生き物が幅を利かせていたようです。
影の首謀者はそのころは「死びと占い師(ネクロマンサー)」と呼ばれ、怖れられていました。ガンダルフは調査のために、その牢獄まで忍び込み、囚われていた瀕死のドワーフのスライン二世から、地図とカギを預かります。これが、トーリン・オーケンシールドたち13人のドワーフと、ガンダルフの推薦で、ホビットのビルボ・バギンズ氏が、竜のスマウグ退治の旅に出るきっかけになったのでした。もちろん、ガンダルフはこの時には、ビルボがゴクリに出会うことも、それよりゴクリの存在もまだ知りませんでした。

実はこのスライン二世は、ドワーフの七つの指輪のうち、最後の一つを持っていました。それがサウロンに捕まり奪われてしまったのです。ドワーフの指輪は四つは壊され、三つはサウロンが取り戻したと、言われています。
サウロンは、はじめ「一つの指輪」はエルフが処分してしまったと思っていたようですが、簡単にはあきらめずに、捜索を続けていたようです。

くらやみでなぞなぞ問答

さて、ゴブリン(オークのような種族)の住む洞穴の中で、ゴクリ(ゴラム)はまだ生きていました。洞穴の湖で魚をとって生のまま食べたり、時には指輪をはめて姿をかくし、子供のゴブリンを捕まえて食べたりしていたようです。「一つの指輪」を持った者は、ずっと生き続けるというのもその魔力の一つだったのです。ただ、500年も暗闇の中で生きているゴクリは、真っ黒で臭くてぬるぬるした不気味な生き物になってしまってはいましたが。

闇の森に伸びてきた影に、気づいてか、指輪はゴクリの元を離れようと考えたようです。ゴブリンにでも拾われて、そのまま闇の森のご主人の所へ戻ろうとしたのでしょう。しかし、本当にだれも予期していなかったことに、洞穴の地面に転がった指輪は、善良なホビットのビルボ・バギンズ氏に拾われてしまったのです。
この時、ビルボはゴブリンから逃れたものの、仲間のドワーフ達からは、はぐれてしまって、とても困っていました。真っ暗闇を手探りで歩いていましたが、指に触った指輪を無意識にポケットに入れてそのまま歩き続けて、ゴクリに出会ったのでした。ゴクリは、たまたま、お腹が空いていませんでした。もし空いていたら、なぞなぞ問答は省略してがぶりという事になっていたかも知れません。
見知らぬホビットに出会ったゴクリは、なぞなぞ問答に誘います。そして成り行きから、ゴクリが勝ったらビルボを食べる、ビルボが勝ったら出口を教える、という賭なぞなぞになってしまいました。

不思議な指輪

とにかく命がかかっているし、だんだんタネがつきてくるし、焦ったビルボが無意識にポケットに手を入れると、指輪が手に触れます「おや、ポケットの中にあるのは何だ?」と思わず口に出して言ってしまいました。ゴクリは、それをなぞなぞと勘違いし、ずるいと言いながらも、三つ答えさせてくれ、とそのなぞなぞを受けます。もちろん、当たるはずもなく、ビルボが勝って、出口を案内してもらう事になります。しかし、昔の事を思い出していらいらしていたし、だんだんお腹がすいてきたゴクリは、約束を破ってしまおうと考えたのでした。
指輪をはめて姿を消して、ビルボを捕まえようと自分の住みかにもどると、指輪がありません! 恐慌を来したゴクリは、大騒ぎでキーキーと騒ぎ、ぶつぶつと独り言を言いながら、きっとビルボが盗ったのだと思いつきます。追いかけて来るゴクリから逃げる途中、ポケットのなかに入れたビルボの手に、指輪はするりとはまります。すると、ゴクリはビルボを飛び越えて、行ってしまいました。ゴクリの独り言の内容から、ゴクリが魔法の指輪をなくしたこと、それを使ってビルボを食べるつもりだったことを知ったビルボは、出口へ向かって急ぐゴクリの後を追いかけます。
そうして出口を発見したビルボは、持っていたエルフの刀「つらぬき丸(スティング)」で殺してしまおうかとも思いますが、暗闇で一人で生きている惨めな様子を思うと、気の毒になって、そのまま逃げるだけにしました。

こうしてビルボは、姿が消える指輪を手に入れ、その力を駆使して、ゴブリンから逃げ、他の冒険も切り抜けて、ドワーフたちと、竜のスマウグ退治を無事成し遂げる事になるのですが、そのお話はまた別の機会にしましょう。

ビルボがドワーフ達といる間、ガンダルフは姿を消していた事がありました。それは、サルマンたち「白の会議」の力で、闇の森から「死びと占い師(ネクロマンサー=サウロン)」を、追い出すという仕事をしていたからだったのです。このころはまだ、サウロンの力も、それほど強大ではなかったようです。



指輪はホビット庄へ

竜のスマウグから取り返したドワーフの宝物の分け前をもらったビルボは、ガンダルフと一緒に、ホビット庄に帰ります。この時は、ガンダルフはまだ彼の指輪が「一つの指輪」だとは、気づいていません。途中、裂け谷に寄って、エルロンドの所にしばらく滞在しているのですが、彼も気づかなかったようです。もちろん、ビルボも見せびらかすような事はしませんでした。

こうして、指輪はモルドールから遠く離れた、ホビット庄へ運ばれました。善良なホビットのビルボには、指輪も悪影響を及ぼしようがなかったようで、彼は歳をとらない事以外は、何の変化もありませんでした。(これが、同じホビットでも、サックビル・バギンズや、テド・サンディマンだったら、また違う結果になったかも知れませんが)

何しろ、ビルボには野心もなく、好きなことといえば、近所のみんなとの他愛もないおしゃべりや、庭でのんびりとパイプ草をふかす事でしたし、自分を殺そうとした者さえ、助けるという、情け深いホビットだったのです。たった一つ、指輪の影響で彼がした悪さといえば(それを悪さと言うのならば)、指輪を手に入れた理由について嘘をついた事です。ビルボは、なぞなぞ問答に勝ったのでゴクリに「指輪をもらった」と、ドワーフやガンダルフには、説明していました。これはまさに、スメアゴルが、誕生日の贈り物に「指輪をもらった」と言ったのと同じように、自分の所有権を正当化させる行動なのでした。

ゴクリ、洞穴をあとにする

さて、収まらないのは、ゴクリの方です。まさか、指輪が自分で彼を捨てていったとは思いませんから、バギンズが指輪を盗んだ、と思い込み、彼を追いかけるため、500年慣れ親しんだ洞穴を出て、大嫌いな太陽も物ともせずに、ビルボを追いかけます。
まず、人間の町に行って物陰に潜んで人々の話を聞くと、まだ、スマウグ退治や五軍の戦の話で持ちきりでしたから、ビルボがホビット庄(シャイア)から来たということは、知ることが出来ました。そうして、一歩一歩進んで行こうと思ったのでしょうけれども、何故か、彼の足は反対のモルドールの方へ向かってしまいます。長年持っていた指輪の影響だったのでしょうか、それはわかりません。
どちらにしろ、ずいぶんと年月がかかっていますが、広い中つ国です。道がわかっていて、小馬に乗っても何ヶ月もかけて行く所です。迷いながらの旅は、きっと大変だった事でしょう。



待ちに待った誕生祝い〜「指輪物語」の始まり

さて、ビルボが戻ってから60年近くが経ち、彼の111歳の誕生日パーティーが、盛大に開かれることになりました。(やっと「指輪物語」の始まりです)
彼は生涯独身でしたが、両親を亡くした甥っ子のフロドを養子として引き取り、仲良く暮らしていました。フロドの誕生日も、ビルボと同じ9月22日です。ちょうど33歳で、ホビットの成人になる日でした。
ガンダルフも、花火を持ってお祝いに駆けつけます。前の夜、ビルボはガンダルフに、旅に出ることを告げます。あの、ドワーフとの旅以来、長く生きて来たけれども、なんだかパンに塗ったバターみたいに、薄く引き延ばされているような気がする、というのです。もちろん、それが指輪のせいだとは、気づいていません。ビルボは持ち物のほとんどを、フロドに譲って、旅に出ることにしました。

誕生日当日、ビルボは余興のつもりで、集まった大観衆の前で指輪を使って姿を消しますそれを見たガンダルフには、一抹の不安がよぎります。出ていくビルボに、指輪もフロドに残すように、強く勧めます。しかし、長年指輪を持っていたビルボには、なかなか手放すことは出来ないのです。かなり、強くガンダルフに言われて、やっとビルボは封筒に入れた指輪を置いて、出ていくのでした。
こうして、ビルボは自分の意志で指輪を手放した、唯一の指輪所持者になったのです。

ビルボから指輪を譲り受けたフロドですが、彼は本当の話を知っていました。でも、危険は感じてはいませんでした。ときどき、姿を消せるのは便利だなあ、位に考えていたようです。実際ビルボも、会いたくない親戚の、サックビル・バギンズを見ると、さっと指輪をはめたりしていたようです。
でも、パーティーの後、ガンダルフは指輪を使わず秘密にしておくように言い置いて去っていきます。
そうして、フロドは袋小路屋敷の(お金持ちの)バギンズ氏として、平和なホビット庄で暮らすことになるのでした。



ホビット庄の平和

ガンダルフは、何故か指輪研究の権威である、白のサルマンには相談せず、自分の力で調査を始めたようです。
何故、それまでガンダルフがビルボの指輪に注意を払わなかったのか、不思議な気がしますが、白の会議の長であるサルマンが、指輪の研究に関しては専門家であったのです。そして、彼は指輪は大河アンドゥインを流れて大海に沈んでしまっただろうと、言っていたのでした。
ガンダルフが協力を頼んだのは、北方の野伏(のぶせ)、つまりアラゴルンとその仲間(ドゥネダイン)達でした。彼らは、ガンダルフの調査に協力するとともに、それと知られず、ホビット庄を守っていたのです。

このようにして、また17年間が平和に過ぎて行きました。フロドは、ビルボがいないのはとても寂しかったけれど、かといってそれほど強く旅に出たいという気持ちもありませんでした。
ビルボはエルフ語が出来るほどのインテリで、フロドも彼から習っていました。フロドはときどき一人で森へ散歩に出て、エルフの姿を見ることはあったようですが、あって話をするほどでは、なかったようです。
それよりも、若い従兄弟のメリーとピピン、でぶちゃんボルジャーや、出入りの庭師サムたちと、楽しく暮らす方が、彼にはずっと良かったようです。

さて、ビルボの誕生祝いから、ときどき来ていたガンダルフも、このごろは滅多に来なくなっていました。ところが、ある夜10年ぶりにやって来て、とても深刻な話を始めたのです。ただし、夜話すのはあまりにも恐ろしい話なので、朝になってからにしよう、ということで、翌朝、サムの庭仕事の鋏の音を聞きながら、長い話が始まりました。

ガンダルフとアラゴルン〜指輪の謎を探る

ガンダルフは、アラゴルンの協力を得て、ゴクリを見つけました。捕まえたのは、アラゴルンです。ぬめぬめしていて、臭くて、話し方はめちゃくちゃで、かなり大変だったようです。そして、彼はすでに、モルドールで捕らえられ、拷問を受け、逃げてきた(もしかしたらわざと放された)あとだったのです。
怯えているし、まともに話をしない(できない)ゴクリから、ようやくいろいろと聞き出して、ガンダルフは、そのあと彼を、闇の森のスランドゥイル王に預けます。
ガンダルフはゴンドールへ向かい、古い文書を調べます。そしてとうとう、遙か昔に、イシルドゥアが指輪について残した記録を見つけたのでした。そこには、指輪に刻まれた文字の写しと、炎によってそれが読めるようになるということが記されていました。

ビルボにもらった指輪が、それほど恐ろしい物だったと知ったフロドは、なぜ壊してしまわないのだと、ガンダルフに聞きます。そこでガンダルフは、ならば暖炉の火に投げ入れてみろ、と言います。そして、そうしようとしたフロドですが、なぜか、彼は指輪を手から放すことができませんでした。ただ、指輪をかくして保管していただけのフロドでさえ、すでに指輪の魔力によって、自分では捨てられない状態になっていたのです。
一方サウロンは、モルドールでの拷問によって、ゴクリから、指輪を持っていたこと、ホビット庄(シャイア)のバギンズに盗まれた事を聞き出して、知っていました。そして、力を付けてきたサウロンは、自分の力をさらに強大な物にするために、指輪を手に入れようと動き出していたのです。
それを聞いたフロドは、ホビット庄を出る事を決意します。ただし、ガンダルフのアドバイスにより、ビルボのように急に姿を消したりせず、しかも誰にも行き先を知られないように、旅の準備をするのでした。

九つの指輪〜黒の乗り手

こうして、ビルボとフロドの誕生日に、フロド、サム、ピピンの三人で、メリーの待つバック郷に買った新しい家へ、「引っ越す」という名目で旅にでます。ガンダルフも一緒に行く約束でしたが、彼は現れませんでした。その途中、フロドたちは黒ずくめの大きな人間(?)が乗った真っ黒な馬が、彼らを捜していることを知ります。
実は、この「黒の乗り手」こそ、サウロンが作って人間の王に与えた九つの指輪、その指輪をもらった故に、サウロンの手下「指輪の幽鬼」になってしまった、かつての人間の王たちだったのです。彼らは、サウロンの命令で、指輪をフロドから奪おうと、執拗に追いかけて来るのでした。

ガンダルフは、魔法使いの仲間、茶色のラダガストから、白のサルマンの伝言を聞きます。そして、サルマンを訪ね、彼がサウロンの側に寝返った事を知ります。ガンダルフは、サウロンと手を組む仲間に誘われますが、断ったので、サルマンの塔アイゼンガルドのてっぺんに、2ヶ月間幽閉されてしまっていたのでした。

旅の仲間、裂け谷へ

さてそのころ、ゴクリを預かった闇の森では、エルフたちはあまり危険だと思っていなかったのか、彼を外で遊ばせたりしていまいした。そこをサウロンの手下に襲われ、ゴクリはまた逃げ出してしまいます。
闇の森の王、スランドゥイルの息子レゴラスは、ゴクリが逃げた事を報告すべく、裂け谷(リーベンデール)へ向かいます。

同じ頃には、ゴンドールの領地も襲われるようになりました。ボロミアとファラミアが、屈強の仲間をほぼ全滅させられるほどの苦戦を強いられています。サウロンが、本格的に動き出していたのです。
ゴンドールはエレンディルの子孫である王の家系が途絶えたのち、長い間王がいませんでした。王に変わって国を治めていた執政、デネソールの息子ファラミアは、このころ、何度も同じ夢を見ていました。その夢の中で聞こえる歌の意味は、彼にはわかりませんでした。

「折れたる剣を求めよ。そはイムラドリスにあり。
かしこにて助言を受くべし、モルグルの魔呪より強き。
かしこにて兆(しるし)を見るべし、滅びの日近くにありてふ。
イシルドゥアの禍は目覚め、小さい人ふるいたつべければ。」

ファラミアは何度も、この夢を見、兄のボロミアも一度見ました。そして、伝承に詳しいデネソールは、裂け谷(イムラドリス)の半エルフのエルロンドに訊くようにと言います。そして、父の反対を押し切ってボロミアが、裂け谷に向かったのでした。

一方、ドワーフの住む「はなれ山」には、黒の乗り手がたびたびやってきます。「ホビット」のことを尋ね、ビルボから指輪を取り上げてサウロンに渡すよう、要求をしてきていました。そうすれば、失われたドワーフの指輪のうち3つを返すとさえ言いました。もちろん、ドワーフは大切な友達を売るような事はしませんが、サウロンの驚異に抵抗し続ける事も困難です。そこで、昔ビルボと一緒に旅をしたグローインとその息子ギムリが、エルロンドに相談するため裂け谷にやって来ます。

フロドとサム、メリー、ピピンは、ホビットの農夫マゴットさん、エルフのギルドールやグロールフィンデル、不思議なトム・ボンバディル、そして人間の、馳夫(はせお)とあだ名されるアラゴルンなどに助けられながら、何とか指輪の幽鬼の手を逃れ、裂け谷にたどり着きます。
そこには、アイゼンガルドを逃れた、ガンダルフの姿もありました。
そして、裂け谷のエルロンドの会議が開かれたのでした。



滅びの山へ

エルロンドの会議で、指輪が現在フロドの手にあるいきさつが語られます。そして、ファラミアの夢の謎も見えてきます。「イシルドゥアの禍」とは、まさにサウロンの「一つの指輪」であること、「小さい人」とは「ホビット」であること、そして「折れたる剣」とは、遠い昔にサウロンとの戦いで折れたものの、その手をイシルドゥアが切り落とし、指輪を奪う結果になった「ナルシル」という、ヌメノールの王家伝来の剣であり、その末裔であるアラゴルンが所持している剣であること、などがわかります。
夢で聞こえた『イシルドゥアの禍は目覚め』というのは、一つの指輪自身が、その主(Lord)であるサウロンのもとへ戻ろうとしている、ということを示しているのでしょう。一つの指輪が冥王サウロンの手に渡れば、中つ国は闇の支配する世界になってしまうのです。

指輪の恐ろしさを知らない、人間のボロミアは、指輪の力を使って、サウロンを滅ぼせばいいと、提案します。しかし、この指輪は、力の強い者が手にすれば、たちまちその力が強まり、もし善のためだと言っても、他の者たちの自由を奪ってしまうような結果になってしまうのです。ガンダルフやエルロンドが、指輪を持ちたがらないのはそのためなのです。
そこで、現在の『指輪所持者』であり、力の弱い善良なホビットであるフロドが持って、唯一指輪を葬り去る事のできる、モルドールの「滅びの山」まで運び、亀裂に投げ込む事になりました。旅の仲間には、エルロンドが各種族の代表を選び、敵である黒の乗り手の数とおなじ9人としました。人間のアラゴルン、ボロミア、エルフのレゴラス、ドワーフのギムリ、魔法使いガンダルフ、ホビットのメリー、ピピン、サム、そしてフロドです。



このようにして、「一つの指輪」を滅ぼすための旅が始まります。指輪を取り戻したいという思いだけで生きているゴクリは、モリアの洞窟で彼らの姿を発見し、指輪に吸い寄せられるように、後をつけて行くのでした。



 上に戻る  指輪物語TOPへ  SITE MAP  HOME 

このページの背景は「Little Eden」さんからいただきました