羊飼いたちが小屋で子山羊の肉を食べているのを狼が見た。近づいていって狼はこう言った。「もし、ぼくが同じことをしたなら、どんな騒ぎになるのだろうかね」(イソップ)
コロンブスは西洋人としてアメリカ(大陸ではない)を発見したとは言えるが、先住民族がいたので人類としての発見とは言えない。それは西洋史的な見方であって、西洋人に感情移入してこその思い込みである。
同じようなことは日本史にもあり、最近では半世紀前の南京大虐殺事件がある。事実は伝える立場によって有ったり無かったりする。有ったということになると、今度は虐殺された人数が増えたり減ったりする。フランス革命より百五十年は新しく、生き証人が日中両国に存在する歴史的事実でさえ、このありさまである。
他国から見れば侵略戦争にしか見えないことでも、国内では検定教科書に〈侵略戦争〉と載せるか〈武力進出〉と載せるかで裁判となる深刻な問題に変わる。その中で、侵略を主張する側が南京大虐殺事件を持ち出せば、武力進出を主張する側はできるだけ事実を極小化しようとする。