暗室:吉行淳之介:講談社文芸文庫 | |
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吉行淳之介は、男女の関係を、性を切り口にして 描く作家です。 暗室は、完成度の高い作品だと思います。 主人公の男の中田は、43才の作家です。 妻の圭子は、10年前に車の事故で死亡して、現在は 独身です。 中田には、多加子と夏枝という二人の愛人がいます。 バーでマキという若い女性と知り合います。 マキはレスビアンの女性です。 男の隣に座ると吐き気がするはずなのに、 中田の隣に座っても、吐き気がしないとマキは 言います。 中田とマキはホテルでSEXします。 SEXできた事にマキは驚きます。 マキは妊娠した事を中田に告げます。 アメリカでインテリアデザインの勉強を 4年間するため、マキは旅立ちます。 アメリカで子供を産み、育てると中田に言います。 多加子は、他の男と結婚することになったと言って、 中田から去っていきます。 残った女性は、夏枝のみです。 中田と作家Aの対談が紹介されます。 A:意志が薄弱で、睡眠薬がやめられないんだよ。 女とは切れても、薬とは切れないとはどういうわけ だろうな。 中田:薬の場合、相手に自由意志がないから、 男女関係とは比較できないよ。 女性が生殖器だけで、脳味噌がないという 状態が、薬ということになる。 A:つまり、薬から与えられるものは、快感だけなんだ。 こっちから何もする必要はない。 中田:君は白痴の女なんぞと付き合うと、長引くかも しれないね。 中田には、女性の生殖器は醜悪なものに見えます。 生殖器に花を見るのが、中田の夢です。 中田は画集でゴーギャンの絵を見ます。 絵のタイトルは「われら何処より来たり、何処にあり、 何処に行くや」です。 中田には「すべてが虚しいと分かるために、生きている」 反射的にそんな言葉が浮かびました。 夏枝は「O嬢の物語」の序文が好きだといいます。 そこにはこう書かれています。 「女を扱う時には鞭を手にしなければならないというのは たしかに本当だわ。鞭が何本もあればもっといいわ。あなたには、 罪人を打つ紐鞭が必要でしょうよ」 中田は、夏枝を裸にして、うつ伏せにさせて、ベルトで 夏枝の尻を叩きます。 夏枝の口からは悲鳴がでます。 夏枝は「もう、やめて」と、 細い声で言います。 中田は「あたしの涙が好きになりさえすればいいのよ、か。 どうも、こういう涙は好きになれそうもないな」と思い、ベルトを 手から放します。 そのとき、夏枝が言います。 「やめては駄目。かまわずに、叩きつづけるものなのよ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 夏枝はうつ伏せになり、啜り泣きに似たちいさな声をたてている。 「痛いのか」 「痛いの」 「いい気持ちもあるんだろう。女の体にはマゾヒズムが 染みついているからな」 「中田さんだって、いい気持ちでしょう」 「一度だけはね。しかし、二度しようとはおもえない。 おれには、そういう趣味はないようだな」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 中田が言います。 「そうですかね、ははあ。女の体には誰も厭といえない落とし穴が ある。お釈迦さまでも、片足くらいは踏み込んでしまいかねない、か」 中田は久ぶりに、ベルトで夏枝の体を叩きます。 なまなましい呻き声が、夏枝の口から出た。 一方、可憐にみえる顔になってきた。 この表情も、このごろになって現れてきた。 夏枝がこの顔になると、やがて可憐さが不意に崩れ、 成熟した女の悦楽の表情に変わり、さらにそれは烈しく歪んでゆき 絶頂に達する。その変化を、夏枝は幾度も繰り返す。 「夏枝のほうは、鞭で間に合うわけだ」 それで済ますことができれば、私の体は疲労から免れる。 しかし、幾度も鞭打ちを繰り返しでいるうちに、倦きてくる。 「これはソンしているな」 中田は、生殖器の夢を見ます。 美しい花を見たのでしょうか? 中田は思います。 「これから、どういう具合になるのだろう」 いろいろの考えが、私の頭に浮かんで消えた。 一つだけはっきりしているのは、今日もあの薄暗い 部屋へ行くことだ。 挿入されている多くのエピソードも素晴らしいです。 大変苦労して創作した小説だと思います。 男女の関係とはどのようなものかを描いた、 完成度の高い小説だと思います。 吉行淳之介も道元禅師も中村うさぎも、 人生とは何か、他者とどのようにかかわれば良いのかを 知りたいと、追い求めている気持ちは同じようなものだと思います。 追い求める方法、アプローチの仕方が違うだけだと思います。 人生とは何か、何のために生きているか、一生の課題ですね。 吉行淳之介は、公序良俗には反する小説を書き続けたので、 世間から受けた非難や反発も多かったと思いますが、 自分の小説世界を追い求め続けて、小説の高みに達している 吉行淳之介は、すごい作家だと思います。(H.P作者) |