私の好きな本、おすすめ本

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  • NO.39 K 三木卓 講談社    
    詩人で作家の三木卓が、妻であった人の事を回想して書いた作品です。
    妻の名は佳子で、佳子自身も、三木卓も、Kと呼んでいました。
    これが、本の題名になっています。
    小児麻痺で左足が不自由な、貧乏編集者の三木卓もとに
    切羽詰ってとびこんで来たK。
    二人の生活が始まりました。
    女の子も一人生まれます。
    三木卓は、やがて出版社をやめ、作家、詩人としてやっていく事を決意して
    実行します。
    Kも、詩を書く女性で、主婦が向いている女性ではありません。

    小説を考えて、書くのは、家以外にしてくれとKは言い、
    三木卓は、別の場所で、自炊しながら、小説を書くことになります。
    長い別居生活の始まりです。
    Kは、娘との閉鎖空間を作り、三木卓は、そこからはじきだされた格好です。
    しかし離婚はせずに、夫婦としての形態は続けられます。

    やがて、Kは病気(大腸ガン)になり、闘病生活に、三木卓もかかわることになり・・・・・


    手術が終わった夜、ぼくは娘と町へ出て、古い洋食屋へ行って、
    焼きたてのジュージューというハンバーグを、冷えたビールでやった。
    すると、とつぜん涙があふれてきた。
    涙はいつまでもとまらず、ぼくは、焼きジャガイモにバターを溶かしこみながら
    泣き続けた。
    「Kが、Kが・・・」
    とやっとぼくはいった。
    Kは自分勝手でわがままで、心がせまくて、他人をおそれることはなはだしく
    内に対しては横暴なやつだった。
    そんなやつのために、なんで泣いてやらなくてはならないのか。
    おまえはどうかしている。


    夫婦について考えさせられる本です。
    心に沁みてくる本です。
    おすすめ本です。

    NO.40 ひっ 戌井昭人 新潮社    
    主人公の俺と、伯父のひっさんの物語です。
    伯父のひっさんはあやしい人です。
    フィリピンで、拳銃の密輸にかかわったりして
    危ない橋を渡り、殺されかかって、命の危険を感じて、日本に
    帰ってきました。
    日本に帰ってきて、通信教育で作曲の勉強をし、カルチャーセンターで
    ギターを習い、それから売れっ子作曲家になって、銀座で豪遊できるまでになります。

    ひっさんの口ぐせは「テキトーに生きろ」でした。
    俺は、外回りの営業中に車にはねられて、足を骨折してからは、
    仕事をやめて、家庭内乞食のようになっていました。

    俺はひっさんの家に行って、話ます。
    「だいたい、なにやってんだよ毎日、おまえは」
    「ぷらぷらしてんだけど」
    「ぷらぷらしてるのは構わねえけど、なんにもしねえで家に居るってのは、どうにも
    良くねえんじゃねえのか」

    ・・・・・・・・・
    ひっさんはあきれた調子で、「どうするんだよ本当によ」と言った。
    「まあ、なんとなく生きてくつもりだけど」
    「なんとなく?」
    「テキトーに」
    「テキトーでもなんでもねえよ、おめえは」
    「ひっさんいつも言ってたろ、テキトーって」
    「おれの言ってたのは、そういうテキトーじゃねえよ。
    生きるためのテキトーさだよ。
    お前のは、テキトーが死んでる」
    ひっさんんは、怒りだします。
    テキトーの意味が違うと言います。

    面白い物語が続いていきます。
    登場人物も、個性的で面白いです。
    才気を感じさせる小説です。

    好きな本で、おすすめ本です。

    NO.41 プラナリア 山本 文緒  文春文庫    
    山本 文緒の連作短編小説集です。
    「プラナリア」「ネイキッド」「どこかでないここ」「囚われ人のジレンマ」「あいあるあした」が
    収められています。
    「プラナリア」と「あいあるあした」がおすすめです。
    「プラナリア」について紹介します。

    主人公は女性の春香です。
    次に生まれてくる時は、プラナリアになりたいというのが口癖です。
    きれいな水にすんでいるヒルみたいな生き物で、3つに切ると、再生して3匹になる
    生き物です。
    「何も考えなくともすむし、再生するのが良い」と、春香は言います。
    「プラナリアなら、乳の再建手術なんかしなくても、再生するし」と春香は言います。
    春香には、大学生のボーイフレンドの豹介がいます。
    春香は乳がんになって、手術を受け、乳の再建手術を受けました。
    月に1回受けるホルモン注射のせいで、めまいや吐き気がします。

    むしゃくしゃして、ボーイフレンドや両親とぶつかる春香。
    体調不調を理由にして、働かずに、プータローをしています。
    そんな春香が、病院に入院中に知り合った女性の上原さんの下で、アルバイトを始めますが・・・・・

    鬱屈し、すなおになれない春香に、とっても共感を覚えます。
    面白い小説です、おすすめ本です。

    NO.42 豚の報い 又吉栄喜 文春文庫    
    神話と土俗の場所、沖縄の真謝島に、豊饒な物語が現出しました。
    スナック「月の浜」に豚が闖入しました。
    スナック「月の浜」のママのミヨ、ホステスの暢子と和歌子は、豚の厄を落とす事を
    大学生の正吉に頼みます。
    3人の女達は、過去の罪や悩みを抱えています。
    3人の女達の魂の救済のため、正吉は、3人の女と一緒に、真謝島へ行きます。
    不慮の死をとげたため、12年間、風葬になっていた正吉の父の骨を拾い、共同墓地へ
    納骨するのも、正吉が真謝島に行く目的の一つです。

    正吉が3人の女達の魂を救済する事ができるのでしょうか?
    苦しむ3人の女性に、共感を覚えて来ます。

    「あんた、赤ちゃん、いたの」
    暢子が口をはさんだ。
    「いたのよ、亡くなったのよ」
    和歌子が暢子に向いた。
    和歌子は正吉を見つめた。
    目に涙がにじんでいた。
    「あんたの赤ちゃん、もうどこにもいないんだね」
    暢子がなげやりのように言った。
    和歌子は暢子をにらんだ。
    「どこかにはいるよ」
    「どこに?あんた知っているの?」
    「知らないけど、今までいたのがいなくなるなんて、おかしいよ。
    私たちが探せないだけよ、かくれんぼしたまま出てこないのよ」
    「なぜ?なぜ出てこないの?」
    「出てこれないのよ、ね、正吉さん」


    暢子は正吉を見つめ、言う。
    「・・・人をだましたら、神様は願いを聞いて聞いてくれないの?
    私たちがだますと言ったってて、何もひどい目にあわすわけじゃないのよ。
    ただ、私たちの年を若く言ったり、彼氏はあなただけと言ったりするだけよ。
    禿には禿と言わないし、でぶにはでぶと言わないし、平らには平らと言わないだけよ。
    お酒を飲ませたり、またお店に来てもらったりするためには仕方がないのよ。
    何でも正直に言ったら、どうなるの?
    生きるためよ。
    神様もわかってくれるでしょう?」

    スナックの女性って、優しんですね。
    私も近所のスナックを開拓しようと思います。
    「あなた、やせているわね?栄養失調?」なんて事は、
    スナックの女性は言わないでいてくれるようなので。(H.P作者)

    正吉は女性達を救いたいが、荷が重いです。
    風葬になっている彼の父親は、どのようになっているんでしょうか。

    豊饒な物語世界が展開していきます。
    「ギンネム屋敷」でデビューした又吉栄喜が、小説の高みに達した作品だと思います。
    おすすめ本です。

    NO.43 炎上する君 西加奈子 角川文庫    
    西加奈子の短編集です。
    「太陽の上」、「空を待つ」、「甘い果実」、「炎上する君」、「トロフィーワイフ」、「私のお尻」
    「舟の街」、「ある風船の落下」が入っています。

    現実には有り得ないような話を書いてますが、読後感は、ホッとしたり、静かに感動したりする話が多いです。

    「炎上する君」、「ある風船の落下」が特におすすめです。

    「炎上する君」は、足首から下が炎上する男の物語です。炎上する君を見てから、女らしさをすてた女性の
    はずだった私と浜中は、どう変わるのか?
    「甘い果実」は、書店員の私と、作家の山崎ナオコーラの物語です。驚くべき結末が待ってます。
    「空を待つ」は、拾った携帯電話からメールが来て、相手と色々とやりとりする物語です。
     相手は私の事を知らないはずなのに、私の気持ちを知ってるようなメールが来ます。
    「ある風船の落下」は、世間から疎外されていると感じたり、人から大事にされていないと思う人間達が、
     風船のように空に浮き上がっていってしまう物語です。  彼らはどこに行くのでしょうか?

     読んでみてください。
     面白い小説で、おすすめ本です。