私の好きな本、おすすめ本

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  • NO.44 かけら 青山七恵 新潮文庫    
    24才の時に「ひとり日和」で芥川賞をとった青山七恵さんが、26才で、最年少で
    川端康成文学書をとった作品です。

    20才の大学生の桐子が主人公です。
    家を出て、一人暮らしをしています。
    桐子は、父と一緒に、日帰りのサクランボ狩りのバスツアーに行くことになります。
    入っている写真サークルから「かけら」というテーマで写真をとるように言われているので、
    バスツアーにもカメラを持って行きます。

    父は子供の扱いがうまいほうではないし、口数も少なく冗談などは口にしない人だった。
    年頃になったわたしが父を「お父さん」でなく「遠藤忠雄」という人間として観察してみようとしても、
    「遠藤忠雄」は一定の間隔でふよふよと逃げてしまうようだった。

    「で、何を撮るんだ」
    「テーマがかけら」
    「かけら?」
    ・・・・・
    「たぶん、世の中はかけらであふれてるって言わせたいんじゃないの」
    「そうか。難しそうだな」

    サクランボ狩りバスツアーのエピソードが、色々と書かれていきます。

    「あたし、そんなに疲れてるように見える?」
    「今、疲れてるって言っただろう」
    わたしは意味ありげな沈黙を作ってから、少し強い調子で言った。
    「お父さんて、ほんと話しがいがないね」
    は、は、と乾いた声で父は笑った。
    「なんか、ただ水に石を落っことしてるみたいなんだよね。
     お父さんと話してると」
    「そうか」
    ・・・・・・・・
    「お父さん、そんなふうだとそのうち全部忘れちゃうよ」
    「ああ、そうだな」
    「それに、もっと主張しないと、あたしたちからだって忘れられちゃうよ」
    「いいよ。お父さんは実際、いないようなものだ」
    「何それ」

    短編小説ですが、とてもうまい小説だと思いました。
    日帰りのバスツアーの一日が描かれているだけですが、桐子とお父さんが
    活き活きと描かれています。
    不思議な味わいのある小説です。
    おすすめ本です。

    NO.45 恋愛中毒 山本文緒 角川文庫    
    山本文緒さんが書いた恋愛小説です。
    水無月美雨が主人公です。

    藤谷という男と結婚しましたが、数年で離婚しました。
    なぜ藤谷が冷たくなったのか、水無月には、わかりませんでした。
    結婚していた時は、幸せを感じたのに、一人になってしまった。

    ただひたすら歩きながら、いつしか私は祈っていた。
    これから先の人生、他人を愛しすぎないように。
    愛しすぎて、相手も自分もがんじがらめにしないように。
    私は好きな人の手を強く握りすぎる。
    相手が痛がっていることにすら気がつかない。

    水無月は、離婚した後、弁当屋で働きます。
    そこへ芸能人の創路攻二郎が弁当を買いにきます。
    水無月と創路は親しくなり、水無月は、創路の愛人になります。
    創路には、複数の愛人と正妻がいます。
    正妻の、のばらは、全くのお嬢様育ちです。
    水無月は、弁当屋をやめて、創路のアシスタントの仕事をするようになります。

    水無月は、創路を独占したいと思いますが、それはかないません。
    水無月、のばら、創路、複数の愛人達の激しく、緊張感のある物語が進行していきます。

    どうも水無月は、好きな男を独占したくなるようです。
    創路は、テレビ番組に出たり、エッセーを書いたりする、芸能人ですが、
    手当たり次第に女を軟派します。
    正妻より古いつきあいで、スナックをやっている美代子、創路のアシスタントを
    やっている陽子、タレントの卵の千花、皆、創路の愛人です。
    水無月は、愛人バトルを勝ち抜いていけるのでしょうか?

    それにしても創路はすごいです。
    私なんて、1人の女性への対応でアップアップしてるのに、
    創路は、5人の女性と同時につきあっているのですから。(H.P作者)

    水無月は、別れた夫に執着しています。
    なぜ別れることになったかが、わからなかったのです。

    けれど今、夫がどのくらい子供だったかが改めて分かった。
    それは創路功二郎が年齢的に二十あまりも上だということもある。
    けれどやはり、夫は子供っぽかった。
    ・・・・・・・
    ただ先生は自分の気持ちから決して目をそらしたり逃げたりしない。
    それに比べると、夫はいじけて背中を向けた子供だった。
    それでも。私はそれでも子供だった夫が好きだった。
    何の特徴もなく才能もない平凡な男に、どうして
    私はいまだに執着しているのだろう。
    いくら考えても分からなかった。

    藤谷とは復縁できず、創路を好きだが、ライバルは多く・・・
    水無月の心はじわじわと壊れていき・・・・・
    そして最大のライバルが現れ・・・・・

    女性でないと書けない小説ですね。
    読んでて、本当に、こちらも中毒になりそうでした。

    私の好きな本でおすすめ本です。



    NO.46 なぜお金の貯まる人は時間の使い方がうまいのか 田口智隆 PHP文庫    
    田口さんは、マネーカウンセリングで個別に相談に乗る一方、日本全国でお金に関する
    講演を行っています。
    その田口さんの書いた、お金と時間の本です。

    お金と時間の使い方について、含蓄の有る文がたくさん有ります。
    タイトルの一部を紹介すると下記です。

    あなたの財布はなぜいつも淋しいのか?
    3年後になりたい自分は?
    時間の使い方が変われば、お金は面白いように増えていく。
    周りの人から、決してケチと思われてはいけない。
    貯まる人の住宅についての考え方。
    あなたは、月の「食費」「光熱費」などを即答できるか?
    楽しいことの年間計画を立てよう
    年間の貯金計画を立てよう
    人と深くつきあう
    貯蓄体質の人はみな、朝型生活をしている
    時間の使い方のうまい人は満員電車には乗らない
    テレビを娯楽にしてはいけない
    安いものを遠くまで買いにいくな
    1日15分の習慣は、百円玉貯金と同じ効果
    期日はつねに前倒しにする

    内容の一部を紹介します。

    「あなたの財布はなぜいつも淋しいのか」
    お金が貯まる人は、時間の使い方が非常にうまく、ムダがない。
    あなたの時間の使い方にムダがないか考えてみよう。
    毎日のように仕事帰りに立ち寄る飲み屋での時間はどうだろう。
    わずか1時間だったとしても、5日間立ち寄ったとすると、1週間で
    5時間になる。そこで、何か生産的な営みがあるならよいが、
    おそらく代わり映えのしない会社の同僚と、日々仕事のグチを
    言っているだけではないだろうか。
    これでは、1週間に5時間もの時間とお金をドブに捨てているのと
    同じことになる。
    お酒を飲むのは、せいぜい月に1回程度にして、ストレスが貯まった時は
    体を動かして発散する。そうすれば気分がスカットするだけでなく
    体も鍛えられて一石二鳥だ。
    今すぐに変えられることが有る。
    それは時間の使い方だ。
    将来に向けて、あなたがお金を貯められる体質になるように、
    時間の使い方を変えることは今すぐできる。
    「時間にルーズであることをやめる」
    「人に流されないようにする」等々、今すぐお金をためるために
    必要な時間管理を始めよう。


    「貯まる人の住宅についての考え方」
    自己資金が貯まるまではマイホームなんて買わない方がいいですよ。
    賃貸で十分。もしどうしてもマイホームが欲しいなら、中古物件を
    買ってください。
    賃貸であれば、収入の変化に応じて、臨機応変に住まいを
    変えられる。
    今は勤めている会社がいつ倒産の憂き目にあうかもしれない。
    住宅ローンで30年ローンなどを組むのは危険だ。
    30年先の未来をあなたは的確に予見できるだろうか?
    中古なら、良い物件が2000万円ぐらいである。
    頭金を1000万円ぐらい貯めて、残り1000万円を10年ローン
    ぐらいで返済するようにするのが理想的だ。


    「貯蓄体質の人はみな、朝型生活をしている」
    お金を貯めている人には、間違いなく朝型人間が多い。
    私も夏場なら、4時頃に、冬場でも6時頃には目覚めている。
    そして、頭が1日のうちで1番さえているうちに、重要な仕事は
    すべてすませてしまう。
    夜10時頃にはベッドに潜りこんでいる。
    夜更かしの生活を続けていると、
    生活習慣病にかかり、かえって出費が増える。
    1日24時間は、誰にでも平等に与えられた時間。
    最も頭がさえている朝の時間を活用することで、
    仕事の成果が上がり、仕事や健康までも手に入れることが
    できるのだ。


    「1日15分の習慣は、百円玉貯金と同じ効果」
    15分間は、物事に集中するにはちょうど良い時間だと思う。
    毎朝の早朝にやるラジオ英会話等を、毎日15分、勉強すると良い。
    「15分くらい勉強しても効果はないんじゃないか」と思っている人も
    いるかもしれないが、1日15分の英会話学習を1年365日続けたら、
    5475分間、つまり91時間も学べることになる。
    1日15分間の継続は、やがてあなたの大きな糧となるはずだ。


    時間を粗末にする人は、お金を貯めることもできないのですね。
    会社の同僚と仕事のグチを言い合うだけの飲み会に参加するのを
    断わって、自己の将来に向けての勉強をしなさいという事ですね。
    夜は10時ぐらいに寝て、朝は4時ぐらいに起きて、頭をすっきりさせて、
    効率良く仕事をする。
    ラジオで15分の英会話の勉強等を続けると、2年、3年と続けると
    大きな進歩につながっていくのですね。
    時間もお金も、意識していないといつのまにかなくなってしまう。
    時間もお金も、断わり切れない人との付き合いで失われてしまう。
    時間にルーズな人は、お金にもルーズである。
    お金を貯める体質にしようと思うなら、まず、毎日の時間を大切にして、
    朝型の生活にして、小さな努力を毎日続けなさいという事でした。
    貯蓄体質になるために、参考になるおすすめ本です。(H.P作者)

    NO.47 嵐のピクニック 本谷有希子 講談社    
    ありそうでありえない、不思議で、少し不気味でもある世界を描いた
    短編集です。

    収録されている短編は、下記の通りです。
    「アウトサイド」「私は名前で呼んでる」「パブリカ次郎」「人間袋とじ」
    「哀しみのウェイトトレーニー」「マゴッチギャオの夜、いつも通り」
    「亡霊病」「タイフーン」「Q&A」「彼女たち」「HOW TO BURDEN THE GIRL」
    「ダウンズ&アップス」「いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか」

    どの短編も面白いですが、私は、「アウトサイド」と「Q&A」が特に好きです。

    「アウトサイド」
    やる気のない中学生の少女が主人公です。
    主人公は、ピアノも全くやる気がないのですが、ピアノの個人レッスンに
    通っています。
    30代半ばのおだやかな女性が先生です。
    主人公は、ピアノの練習を家では全くしないで、レッスンに行きます。
    ある時、先生の家で、主人公がヘタクソに弾いていると、先生が、先を尖らせた鉛筆を、
    主人公の手首のすぐ下にもってきます。
    へたをすると、鉛筆の先が手首に刺さってきそうです。
    主人公は、驚きと緊張で、初めて真剣にピアノを弾きます。
    初めて、ピアノをうまく弾くことができました。

    それ以来、主人公は眠りから覚めたようになり、

    まじめな学生になり、家でもピアノの練習をするようになり、
    異様な速さでピアノが上達していきますが・・・・・
    主人公とピアノの先生は、その後、どうなるのでしょうか?



    「Q&A」
    モデルをしていた主人公の女性は、いい女性の代表とみられ、
    女性誌でもQ&Aの回答をしてきました。
    80才を超えた主人公が、女性誌読者のQ&Aに回答をしています。

    Q:暴力をふるう彼氏とどうしても別れられません。(看護師 28才)
    A:決闘を申込みましょう。夜中の河原に呼び出して、徹底的に殴りあうのです。
      理性から解き放たれたあなたの本気のパンチに、彼はきっと我慢できず、石をつかむでしょう。
      痛くても、我慢のしどころです。あなたなら耐えられる。生死の境をさまよってみてください。
      なるべく生きている気配を消して。彼はきっと怯えて、ろくに確かめもせず、とりあえずその場を
      立ち去るはずです。
      彼がいなくなってから、思いきり喜びに震えましょう。

    Q:いつも彼からの連絡を待ってしまいます。(家事手伝い 23才)
    A:私たちはそんなものを待つ前から、もうずっと別のものに待たされているはず。
      目の前の何もかもが一瞬で消え去って、誰かにハイと手を叩かれ、「今までの人生は全部嘘だった。今からが本番」と
      言われることを待ち続けているはず。だからあなたが本当に放っておかれている相手は、彼ではありません。

    本谷有希子の不可思議ワールドが全開しています。
    こんな変な話が、心の深くに入り込んでくるなんて、大きな才能がないと無理だと思います。
    私の好きな本で、おすすめ本です。
    NO.48 ひとり日和 青山七恵 河出文庫    
    青山七恵さんのひとり日和を読んでいると、思わず
    「本当にうまい」と、つぶやいてしまいます。
    簡単な描写や会話で、主人公やまわりの人の気持ちが
    豊かに伝わってきて、さらに人生が心に沁みてきます。
    この小説で、青山七恵さんは、2007年に、24才で芥川賞を
    受賞されました。
    青山七恵さんの生い立ちや人生に、とても興味があります。
    どういう人生を送れば、弱冠24才で、このように心に沁みる
    小説を書けるようになるようになるのでしょうか。

    21才の主人公の女性の三田知寿は、埼玉の実家を出て、東京で
    暮らすことにしました。それまでは、母親との二人暮らしでした。
    東京では、親戚の71才の女性の荻野吟子さんの家で同居します。
    吟子さんは、ダンス仲間の老人のホースケさんとつきあっています。
    知寿は、吟子さんと仲良くする時もあれば、ぶつかることもあります。
    女対女でぶつかります。


    吟子さんは、やはりあのおじいさんと恋をしているらしい。
    吟子さんは化粧をしている。色が白いので、ピンク色の口紅など
    よく似合う。
    ・・・・・・・・・
    どこにも出かけない一日があっても、吟子さんはおしゃれしていた。
    ・・・・・・・・・
    「誰も見やしないのに、よくそんな気合い入れるね」
    「いいじゃない、きれいにしたって」
    「うん。吟子さんはきれい」
    「そう・・・・・」
    ときどき、自分の意地の悪さとかひがみっぽさにびっくりする。
    「あのホースケさんて人、なんなの。ダンスの相手?」
    「そう。ダンスの相手」
    「あの人がダンスするの。なんかよれよれだけど。
    髪もぼさんぼさんだし」
    「ダンスはうまいのよ」
    「ふうん。ひとりみ同士、手に手を取り合って、けっこうでございますね」


    知寿の母は、高校の教師ですが、中国の学校で教えることになって、
    中国に行っています。
    たまに日本に帰ってくると、知寿と会って、話をします。
    知寿は母と愛憎相半ばする関係で、やはりぶつかり合います。
    「あんたねえ、大学へは行っておいたほうがいいよ。
    あのとき勉強しとけばよかったって後悔しても遅いよ」
    「興味もないのに無理やり行くなんて、お金がもったいないよ。
    大学なんて行かなくったって、どうにかなるもん」
    「そりゃ、そうかもしれないけど」
    「あのね、あたし、勉強嫌いなの。それより働きたい。
    自分の力で食っていきたい」
    「そのために、大学行くんじゃない。あそこんちはお母さん一人だから、
    行きたくても大学に行けない、って言う人もいるんだからね・・・」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    夕食後、母にホテルの最上階にあるバーに誘われた。
    夜景を見つめる彼女の横顔は、いつになく化粧が濃い。
    私は、吟子さんのそれとは微妙に違う、母の老いを見つめた。
    そして、遠ざけたいと思った。
    「お母さん、老けたね」
    声をかけると、あきらめたように呟く。
    「子どもを持つって大変」
    「何?それ、あたしのこと?」
    母は何も答えない。
    窓の向こうには、新宿駅東口のネオンがけばけばしく光っていた。
    母は疲れていて、どこかつまらなそうで、わたしはそれを自分のせいのように
    感じていた。
    「ねえ。ほんとうは帰りたいと思ってるんでしょ」
    「どこに?」


    知寿は、コンパニオンのバイトと、キオスクの売り場のバイトをします。
    恋人の陽平と別れ、藤田君が新しい恋人になります。
    藤田君とSEXする関係になります。
    知寿と藤田君は、吟子さんのダンスの発表会を見にいきます。

    「いいなあダンス」
    「うん」
    「あたしもやりたいな」
    「・・・・・」
    「やったら、一緒に踊ってくれる」
    「やだ」
    客席にいるあいだ中、わたしはずっと藤田君の手をにぎっていた。
    消えないでね、と念じながら。
    藤田君は何度もあくびをした。
    途中からは眠っていた。
    知寿と藤田君の関係は、どうなっていくのでしょうか。

    吟子さんは、ただものでないと、小説の後半を読むとわかります、
    お楽しみに。

    知寿の人生は、どんな人生になっていくのでしょうか?

    おそるべし、青山七恵と、私は思います。
    弱冠24才で、これだけの小説が書けるとは。
    「美の巨人たち」というテレビ番組を見ていたら、
    中川一政という画家が主役で、56才に一人で真鶴に移り住んで、
    それから20年間、毎日、堤防から風景画を描いていたそうです。
    中川一政の願いは、唯一つ、生きた絵を描きたいとのことだったそうです。
    「ひとり日和」の中では、知寿も吟子さんも、知寿のお母さんも、藤田君も
    そこで生きて、息をしているようです。
    描写が簡潔で、うまく、人間洞察が深くて、会話が生きています。
    うまいだけで、つまらない小説を書く作家は多いですが、この小説は
    うまくて、そして心にグットくる小説です。
    小説としての高みに達している小説の一つだと確信しています。
    私の好きな本で、おすすめ本です。(H.P作者)