本谷有希子のおすすめ本

  • 私の好きな本、おすすめ本のH.Pへ
  • 本谷有希子のおすすめ本を紹介します 本谷有希子の小説世界は、熱とエネルギーと狂気に満ちた、シュールな世界です。
    その熱に、読者はぐんぐんと引っ張られます。
    「生きてるだけで、愛」と、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を紹介します。





    NO.1生きてるだけで、愛 本谷有希子  新潮文庫


    25才の女の板垣寧子が主人公です。

    フリーターで、小さな出版社の編集長をしている、
    男の津奈木景と同棲しています。
    寧子は、そううつ病で、うつの時は、午後の遅い時間にならないと、
    起きることができません。

    津奈木とは、同棲生活3年目を迎えて、マンネリになっています。
    同棲しているマンションは、こたつをつけて、エアコンを入れて、
    電子レンジのスイッチを入れると、必ず、ブレーカーが落ちます。

    津奈木は、仕事が忙しく、会社に泊まり込んで、帰ってこない
    ことも多いです。

    津奈木の元彼女の安堂が、津奈木とよりをもどしたくて、
    マンションにやってきて、寧子を喫茶店につれだします。
    安堂は言います。

    「無職で二十四時間ずっと家にいるのに家のこと何も
    していないってどうなの。
    あなたってなんで景と一緒にいるの?
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    あなた、女としてどうとかいう前に人間として
    どうしようもないわよね。
    なんのために生きてるんだか分からないし」

    寧子は、イタリアン・レストランのラティーナで働き始めますが、
    続くのでしょうか?
    ラティーナのオーナーは、元ヤンキーの熱血漢で、
    店のトイレには、相田みつおの「不器用だっていいじゃない、
    人間だもの」の句が額にかざってあります。

    津奈木は、事なかれ主義で、自分のことしか考えないと寧子は
    思っています。
    怒りが限界に達した寧子は、雪の降る日の夜に、
    津奈木をマンションの屋上に呼び出します。

    寧子は津奈木に言います。
    「あたし、楽されるといらつくんだよ。
    あたしがこんだけあんたに感情ぶつけてるのに、楽されるとね、
    元取れてないなって思っちゃうんだよね。
    あんたの選んでる言葉って結局あんたの気持ちじゃなくて、
    あたしを納得させるための言葉でしょ?」

    そして、物語は、クライマックスに向かって疾走していきます。
    是非、読んでください。
    男と女の感動的な愛の物語になっていると思います。
    表紙の葛飾北斎の富士山の絵が、物語の重要なキーポイントに
    なっています。

    女の人って、どうして男に、重たい感情を
    ストレートにぶつけてくるんでしょうね。
    男と女は、精神構造自体が違うと思います。
    感情の発生の仕方も違うし。
    男も、働いていると、仕事のストレスで、心身ともに疲れていて、
    余裕がないし。
    「あたしがエネルギー使ってんのと同じくらい
    振り回されろ」なんて女から言われてもねー・・・・・
    男女の愛って、結構疲れるんだよね。
    斎藤一人さんが言っていました。
    「結婚生活を送るのは、修行です。
     結婚生活をすると、永平寺で3年修行生活するより
     ずっと修行になります」
    全く、同感です。(ブログ作者)


    NO.2 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ 本谷有希子  講談社文庫     
    両親が事故死したので、18才の女の清深と兄の宍道の
    ところに、清深の姉の22才の澄伽が戻ってきました。
    宍道は、待子と結婚しています。

    清深と澄伽の母親と宍道の母親は違います。
    異母兄弟です。
    澄伽は、自分が選ばれし者だと思っています。
    女優として成功すると確信しています。

    清深は、姉の思考方法に興味を持ち、姉の日記を
    小学校3年生の時から、盗み見るようになります。

    普通なら自信をなくす場面で、姉のプライドは一層強められ、
    自意識はますます強められていった。
    だから姉が社会に出ていくことは「姉の超自我と現実との
    闘いなのだ」と、清深は思った。

    高3の時、女優になるために東京に行くことを父に
    反対され、俳優の才能などないと言われた澄伽は、狂乱して、
    ナイフで父親に襲いかかります。
    止めに入った兄の宍道の眉の上を、はずみで切ってしまい、
    宍道の顔には、大きな傷跡ができてしまいます。

    清深は、気持ちをはきだしたいと思い、姉の事を漫画にして、
    ホラー雑誌に、当選しないと思って投稿したのですが、
    これが当選してしまいます。
    故郷の村に、この漫画が回覧されました。
    澄伽は東京に行くための資金かせぎのために、同級生の男に
    体を売っていたのですが、これも漫画で明らかになってしまい、
    宍道の顔に傷をつけてしたことも明らかになってしまい、故郷の
    村にいれなくなって、18才で、女優になるために、東京に行きます。

    澄伽は、東京で、劇団員になり、女優を目指しますが、なかなか
    成功しません。
    戻ってきた22才の澄伽は、18才の清深に復讐を開始します。
    風呂に入っている清深に、熱湯をどんどん入れ、熱い湯を飲ませます。

    「こんなことで許されるなんて思うんじゃないわよ」
    ぞっとするほど低い声が頭上から降り注いだ。
    これがずっと続く。このまま。一生。永遠に。なくならない。
    死ぬまで。
    散乱した思考が清深に黒々とした半狂乱の穴の深淵を垣間見せた。

    宍道の妻の待子は、コインロッカーで産み落とされたところを
    発見されて、人生は常に「一番最悪のちょっと上」という状況の連続です。
    宍道と結婚して暮らしていますが、セックスレスで、宍道から
    DVを受けています。暴力を受けています。

    澄伽が待子に聞きます。
    「ねえ、待子さんて、なんで生きてるの」
    「理由ですか?私が生きてる?」
    手を止めた待子は鼻息を荒くしながら眉を寄せ、
    しばらく宙の一点を睨んだ後、
    「・・・あ、ない」とショックを受けた。

    澄伽は、映画監督と文通で知り合い、主演女優として
    使ってもらえることになります。
    いよいよ大女優への道が開ける。

    どんでん返しが待っています。
    読んでください。

    澄伽は咆哮します。
    「唯一無二の存在。あたしじゃなければ駄目だと。
    あたし以外は意味がないと。あたしだけが必要だと。
    誰か。あたしのことを。あたしを。
    特別だと認めて。
    他と違うと。価値を見出して。
    あたしの。あたしだけの。あたしという存在の。
    あたしという人間の。意味を。価値を。理由を。
    必要性を。
    今すぐ。今すぐに。じゃないと。
    終わる。消滅する。終わる。終わる。」


    熱と狂気とエネルギーに満ちた小説です。
    面白い小説です。
    読んでいると、こちらの心も熱くなります。
    書き飛ばしているように思いますが、ストーリー構成は
    良く考えられている、完成度の高い小説だと思います。
    なんと言っても、澄伽のキャラクターと、待子のキャラクターが面白いです。(ブログ作者)