中村文則のおすすめ本

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    「遮光」と「土の中の子供」を紹介します。

    中村文則の小説を読んでいると、心がひりひりとしてきます。



    NO.1遮光  中村文則  新潮文庫     


    喪失について、書かれている小説です。

    主人公の男は大学生です。
    恋人の美紀は17才です。
    デリバリーのファッションヘルス嬢として、主人公の男の家に来て
    知り合い、付き合うようになります。

    主人公の男と美紀との付き合いは順調でしたが、数か月後に
    美紀は、交通事故で死んでしまいます。

    主人公の男は、美紀の死体から小指を切って持ち帰ります。
    小指を瓶に入れて、ホルマリンづけにして、いつも持ち歩きます。

    紐を解いて瓶を取り出し、しばらく眺めた。
    人がよく愛着のある物に対してそうするように、敢えて
    キスをした。
    これはもう、私にはなくてはならないものであり、
    私の中心であり、私の未来だった。


    主人公の男は、美紀の死を受け入れることができません。
    友人に美紀のことを聞かれて、アメリカのシアトルの学校に
    留学したと話します。



    主人公の男は暴力衝動を感じます。
    また自分が狂気に近づいていくことも感じています。


    男が足を押さえていたので、多分棒はそこに当たったのだろうと
    思った。私はそこを狙ってもう一度降りおろし、男が悲鳴を上げるのを待って
    また振りおろした。
    私は多分怒りを感じていなかったし、この男のことなどどうでもよかったが、
    私は棒を振りおろす行動に突き動かされていた。


    今では、もうこの瓶に対してあれこれと悩むことは少なくなった。
    時折、といっても今までに二回ほどだったが、この指を激しく
    求めたくなる瞬間があった。
    これを眺めている最中の、あるふとした瞬間、この指の中に
    美紀を感じることがあった。


    主人公の男は、女友達の郁美のマンションに行きます。
    そこで郁美に告白します。

    「美紀は、死んだよ」
    「え?」
    「だから、美紀は、死んだんだ。
    俺は、ずっと嘘をついていたんだ。
    俺は、あいつを幸せに、できなかったからさ、
    だから、俺はあいつを、幸せにしようと思ったんだ」
    私はそれから、ごそごそと、バッグの中から瓶を
    取り出した。
    「ほら、これ、美紀の指なんだ。
    美紀の、左の、小指だよ。
    お前はイモ虫みたいだって言ったけど、
    これは、美紀の指なんだ。
    俺はさ、あいつが死んだことに、何ていうか、
    抵抗したかったんだよ」


    物語は、強熱に満ちたラストへ疾走していきます。
    どうなるのでしょうか?
    主人公の男が、恋人の美紀を失い、ひどい喪失感を感じます。
    暴力衝動が起こります。
    美紀の指に語りかけ、美紀の指に美紀の存在を感じると、
    主人公の男は、発狂するのではないかとの恐怖を感じます。

    作家の中村文則は、自作の遮光について語っています。

    どうしようもない事項、というものがある。
    いくら平和な国で生活しているとはいっても、乗り越えがたい
    苦しみは、確かに存在する。
    苦しみから一定の距離を置くのではなく、その中に入り込んで
    何かをつかみ、描き出そうとすること。
    たとえそれが悲しみにまみれた小説だったとしても。
    僕が目指したのは、そのような小説であると。




    NO.2土の中の子供  中村文則 新潮文庫        
    暴力と再生の物語です。

    主人公の男は幼い時に両親に捨てられ、親戚の家に
    あずけられます。
    親戚の夫婦から殴る蹴るの暴行を受けます。
    親戚の夫婦の暴力はエスカレートします。

    彼らは叫び声が聞きたいという理由だけで、私を殴り、
    蹴ることもあった。
    私は蹴られることよりも、殴られる方を好んだ。
    そちらの方が、まだ相手との近さを感じられるような気がした。

    主人公の男は、親戚の夫婦にも捨てられて、
    施設に預けられます。
    施設に預けられた時の主人公の男は、恐怖依存症だと、
    精神科医に診断されます。

    精神科医は冷たく言います。
    「恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、
    血肉のようになって、彼の身体に染みついている。
    今の彼は、明らかに、恐怖を求めようとしています」

    「死ねばいい。お前みたいな奴なんて、死ぬのが筋なんだよ。
    神がいるとしたら、神から見れば、お前は予定外、誤差なんだ」

    施設長のヤマネさんは、尊敬できる人間でした。

    現在の主人公の男は、タクシーの運転手をしています。
    仕事に意欲が湧いてこず、よく休みます。
    同棲している女の白湯子は、不感症でアルコール中毒です。

    白湯子が言います。
    「私の母親は・・・父親がどんなことをしても
    別れようとしなかった。
    女つくっても、お酒飲んで暴れても、お金を全部使い果たしても
    最後までしがみついていたのよ。
    母親が大嫌いだった。ああいうふうにはならないって、心に
    決めたのよ」

    子どもの頃から、主人公の男は、高い所から物を落とすのが
    好きでした。
    ビン、カン、石、トカゲ、カエル等。
    主人公の男は、マンションの上の階から自分の身体を落とします。
    どうなるのでしょうか?

    「土の中の子供」とは何でしょうか?小説を読んでください。

    社会の底辺にいるような主人公と白湯子が、絶望から再生へと
    歩いていきます。
    是非、小説を読んでください。


    中村文則の小説は、平易な文体で、読みやすいです。

    中村文則の小説を読んでいると、心がひりひりと痛みます。
    暴力衝動、暴力描写が大きなテーマになっています。
    「遮光」は、暴力から哀しい結末になっています。
    「土の中の子供」は、暴力から再生と希望へと向かっていきます。
    作者の心境に何か変化が有ったのでしょうか?

    主人公の男は、カフカその他の作家の小説を読むようになります。
    先人の書いた物語を読みながら、この世界が何であるのか、この表象の
    奥にあるものが、一体何であるのかを探ろうとします。

    白湯子と主人公の会話です。
    「俺が持っている本は暗いやつばかりだぞ」
    「何でそんなの読むの」
    「何でだろうな」
    私はそう言い、小さく笑った。
    「まあ、救われる気がするんだよ。色々考えこんだり、
    世界とやっていくのを難しく思ってるのが、
    自分だけじゃないってことがわかるだけでも」

    私も「土の中の子供」の主人公と同じような理由で
    色々な小説を読んでいます。

    私はウィリアム・フォークナーの「響きと怒り」という小説が
    とても好きです。いやになるような物語、うんざりするような会話の
    連続ですが、そこには、いつの世も変わらぬ普遍的な物語が
    語られていると思います。人間の正体が語られていると思います。
    小説の中に、「女とは淫奔なものだ」という言葉がありました。
    いつの世でもそうなのでしょうね。女性の方、反論されますか?(H.P作者)



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