西加奈子のおすすめ本

  • 「私の好きな本のH.P」へ、中村文則、川上未映子他の作家の小説の紹介をしています。
  • NO.1通天閣 西加奈子 ちくま文庫  


    西加奈子は、とても力のある作家だと思います。
    スナックで働く20代の女性で、スナックでチーフと呼ばれている女性と、
    工場の組立作業をしている40才ぐらいで、工場でリーダーと呼ばれている男が主人公です。
    二人は大阪の通天閣の近くで暮らしています。

    チーフは、マメという男と2年間、同棲していましたが、マメは、映像の勉強をするために
    ニューヨークに3年間の予定で留学します。
    チーフは一人暮らしを寂しく感じています。

    リーダーの住んでいる部屋の向かいにオタクっぽい男が住んでいて、「ジム・キャリーはMr・ダマー」という
    映画のチラシを扉にびっしりと貼っています。
    彼は、ホモなのか、リーダーをじとっとした目で見ます。
    リーダーが塩ヤキソバを食べに行く大将の給仕の太った女が、リーダーに話かけてくるのを、
    リーダーは、うっとうしく思っています。


    チーフが働いているスナックは、変なママとオーナーの男とホステス達がいます。
    チーフがマメにふられて、落ち込んで泣いていると、スナックのママが言います。
    「泣いたらいかん」
    「ふたりで通天閣に登ろう」

    チーフとママは通天閣に登ります。
    ママは何を言うのでしょうか?・・・・・・・・・

    リーダーと一緒に仕事をする事になった新入りの小山内君の仕事が遅いので、リーダーはいらいらします。
    小山内君の奥さんは、妊娠していて、もうすぐに出産予定です。
    リーダーの仕事についていけず、小山内君はおどおどします。

    通天閣の近くの鉄柱に登って身投げをしようとしている男がいて、
    人だかりができています。
    リーダーとチーフもそこにいます。
    身投げしようとしている男は、「ジム・キャリーはMr・ダマー」のオタク男でした。
    そこで、リーダーは意外な行動をとりますが、どんな行動でしょうか?・・・・・・

    物語がぐいぐいと読む人間を引っ張っていきます。

    すぐれた物語の常として、小説の中で、リーダーやチーフそして他の人物達が息をして、動いています。

    私の好きな本でおすすめ本です。



    西加奈子は、擬音やおたけびの声の使い方がうまいと思います。
    「炎上する君」の中の一遍の「太陽の上」では、
    中華料理屋「太陽」の女将さんが、あの行為の最中に叫びます。
    「はああっ、あらっあっ」
    「おほ−っ、おっ、おっ」
    「ああ、もう、そう、あああ、あ」
    「あああ、ああ、あぐう、ぐう、ぐふう、あ」

    命のほとばしりを感じます。本当にうまいです。
    「通天閣」でも、とても感動的なおたけびが出てきます、お楽しみに。

    人間て、しがない存在だと、私は思います。
    西加奈子の小説は、しがない人間を暖かい目で見ている
    小説だと思います。
    それが、私が西加奈子の小説が好きな理由であり、
    本屋で吸いつけられる原因だと思います。(H.P作者)




    NO.2炎上する君 西加奈子 角川文庫     
    西加奈子の短編集です。
    「太陽の上」、「空を待つ」、「甘い果実」、「炎上する君」、「トロフィーワイフ」、「私のお尻」
    「舟の街」、「ある風船の落下」が入っています。

    現実には有り得ないような話を書いてますが、読後感は、ホッとしたり、静かに感動したりする話が多いです。

    「炎上する君」、「ある風船の落下」が特におすすめです。

    「炎上する君」は、足首から下が炎上する男の物語です。炎上する君を見てから、女らしさをすてた女性の
    はずだった私と浜中は、どう変わるのか?
    「甘い果実」は、書店員の私と、作家の山崎ナオコーラの物語です。驚くべき結末が待ってます。
    「空を待つ」は、拾った携帯電話からメールが来て、相手と色々とやりとりする物語です。
     相手は私の事を知らないはずなのに、私の気持ちを知ってるようなメールが来ます。
    「ある風船の落下」は、世間から疎外されていると感じたり、人から大事にされていないと思う人間達が、
     風船のように空に浮き上がっていってしまう物語です。  彼らはどこに行くのでしょうか?

     読んでみてください。
     面白い小説で、おすすめ本です。




    NO.3ふくわらい 西加奈子 朝日新聞出版     
    主人公は、女の鳴木戸 定です。
    定の母親の多恵は、定が5才の時に、腎臓病で亡くなります。
    多恵は、定とふくわらいで遊んでくれました。
    定は、ある人の顔を見ると、その人の眉や目や口の位置を頭の中で自由に配置した姿を
    イメージすることができます。

    多恵が亡くなったあと、父親の旅行作家、鳴木戸 栄蔵は、世界の旅行に定を連れていきます。
    R族と暮らした時に、そのR族の風習に従って、なくなった女性の体の一部を、栄蔵と定は食べます。

    定が12才の時、栄蔵は、アマゾンで、ワニに襲われて亡くなります。
    定は、栄蔵の体の一部を食べました。

    25才になった定は、出版社の文芸書籍の編集者になっています。
    作家の之賀さいこやプロレスラーでエッセイストの守口廃尊との交流が描かれます。

    定の家政婦を長くつとめた悦子や、作家の水森康人とその妻のヨシとの交流が描かれます。

    盲人で、日本人とイタリア人のハーフの武智次郎との交流が描かれ、定が同僚の小暮しずくと親友になっていく
    経緯が描かれています。

    登場人物が、個性的で変った人が多く、面白いです。
    之賀さいこの願いをかなえるため、定は雨をやませる儀式を行います。
    呪文をとなえるのです。「ウルピ、ソンコ、サヤイ」


    小暮しずくが、武智次郎に言います。
    「女神とか言ってますけど、武智さんは、鳴木戸さんの何を知ってるっていうんですか」
    「編集というお仕事をされていることと、美しい人だということだけです」
    「それだけで好きって」
    「いけませんか。一目ぼれなんです」
    「一目ぼれ」
    「目は見えませんが、一目ぼれです。うふふ」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
    「待ちます。でも、待ちながら、僕はずっと言い続けます。
    やりたい。先っちょだけ、それが叶ったら、全部。
    今は先っちょがすべてで、でもいつか、そのすべてが、もっと大きくなればいい」


    しがないプロレスラーで、エッセイストの守口廃尊は、手首を切って自殺未遂をした後に、
    定に言います。
    「誰だって」
    「はい」
    「誰だって、最初は猪木さんになれると思うんだ」
    「ええ」
    「羽生でもいいよ。ピカソでもいいし、マラドーナだっていい。誰だって思うんだ、そうなりたい、なれるって。
    でも気づくんだ、なれない。天才は産まれたときから天才だし、ずっと努力しつづけるから、どんどん差が開いちまうんだ。
    おいらたちは、少なくとも、おいらは、その差を分かった上で、もう猪木さんにはなれねえって分かった上で、その世界を
    生きていかんくちゃならねえ。
    自分なりの、個性っつうか、特においらたちの世界じゃ、キャラを作って、生きていかなくちゃならねえ」
    「はい」
    「でもおいらは」
    「はい」
    「猪木さんになりたい」

    心に沁みてくる小説です。
    登場人物達が、皆変わった人ばかりです。
    でも、西加奈子のやさしい視線を感じる小説です。
    心に力をもらえる小説だと思います。





    「私の好きな本のH.P」へ、中村文則、川上未映子他の作家の小説の紹介をしています。