西村賢太のおすすめ本

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  • NO.1暗渠の宿  西村賢太  新潮文庫


    西村賢太の小説は、文章は平易で読みやすいです。
    男の主人公が、底辺の生活で苦しみながらも、しぶとく
    ふんばっている姿に、共感を覚えます。

    34才の男の私が、28才の女と同棲するためのアパートを探すところから物語は始まります。
    色々と物件探しに苦労しますが、西巣鴨から徒歩15分のアパートを見つけて、同棲を開始します。

    女が中華レストランのウェイトレスをしている時に、男がその店へ客として行き、
    男は女と知り合います。

    男は、女と同棲してから、徐々にその本性を現しはじめ、モラハラ、DVを行うようになります。
    ラーメンをゆですぎたと言って、女を怒り、泣かせます。
    用を足しているトイレのドアを、女が不用意に開けたので、女の頭を張り飛ばしたりします。

    古書展で、男は、他の男と争いをおこしますが、女は、逃げていってしまいます。
    その事を男は怒ります。
    「本当に、ああいうのはもう見たくないな。映画のことじゃないよ。
     あなたのほうの、あいうのだよ」
    「ぼくの方のああいうのって、どういうののことなんだよ。
     第一、おまえはそんなこと言うけど、悪いのはあっちの方だぜ」
    「あれは、悪いのはあなたのほうだよ」
    「だって、あの百姓親父のマナーが悪かったんだぜ。それをちょっと注意したら、生意気にも
     反撃してきやがっただろう、あれだから田舎者とは相容れないよ。
     恐縮するってことを知らないんだから」
    「そんなことないわよ。あなた、あのおじさんに、ヘンなこと言ったじゃない。ジャマだとかなんだとか。
     いきなりああいう風に言われたら、そりゃ誰だって怒りだしちゃうよ」
    「邪魔だったから、邪魔だと言ってやったのが何が悪いというんだよ。それにぼくだって何もお気ちやシャブ中じゃないんだから、
     何の落ち度もない奴に、いきなりそんなことを言うもんか。あの百姓のマナーがいけねえから注意しただけじゃないか」
    「だから、その百姓とか言ったのが悪いっていうんじゃないの」


    男と女の同棲生活はどうなっていくのでしょうか?

    男が、このように、意固地でわがままで、暴力的だと、同棲している女の人はたまりませんよね。
    私小説家を任じる西村賢太のこの小説は、実体験にもとづいた小説でしょうか?
    文章が平易で読みやすく、面白い小説です。
    西村賢太は、実生活でも、同棲していた女性に逃げられたと言っていました。



    NO.2 苦役列車  西村賢太  新潮文庫    
    文章は平易で、読みやすいです。
    19才の貫多は、中卒で、日雇いの港湾人足仕事で生計を立てている。
    日雇いの港湾人足仕事は、冷凍のタコの、30キロ程もある板状の固まりを、延々木製のパレットに
    移すだけの、ひたすら重いばかりで、変化に乏しい、単調な作業である。
    1日の労働で得るお金は5500円である。
    その日に稼いだ金は、次にその会社にゆく為の電車賃だけ残してアットいう間に使い果たし、また同じ
    額を得るべく、どうでもそこへ行かざるを得ない状況に自らを追い込むという、悪循環にはまり、
    人足稼業にはまり込んでしまっている。
    貯金はできず、アパートの家賃の支払いは滞る一方であり、追い立てをくらうケースはすでに慣例と化している。
    友人も恋人もいない貫多は、一人で居酒屋に行き、ビールと日本酒を飲み、肉野菜炒めとモツ煮込みを食べる。
    貫多は小学生のころは、友人もいたのだが、小学校5年の時に、父親が性犯罪者として逮捕され、母親が父親と離婚して
    貫多をつれて引っ越し、学校を転校したころから、人付き合いを避けるようになった。
    また生来の片意地で協調しない性格もあって、友人ができない人生を歩んできた。
    そんな貫多が、人足仕事の現場で、同学年の専門学校生の日下部正二と知り合う。
    日下部は、陽気な性格であり、貫多にも親しく話かけてくる。
    貫多は日下部と飲みにいく仲になり、日下部をさそって、ソープやファッションマッサージへしばしば連れ込むようになる。
    貫多と日下部は、うまくやっていけるのだろうか。そこへ日下部の彼女の鵜沢美奈子もからんできます。
    一体、どんな展開になっていくのでしょうか。


    今頃、日下部は恋人と濃密な行為に及んでいるのかと思えば、これが何とも羨ましくってならなかった。
    久しぶりの邂逅と言っていたからには、それはさぞかし本能の赴くままの、欲情に突き動かされるままの、
    殆どケダモノじみた熱く激しい交わりに相違なく、しかもその相手というのは素人である。
    素人の、女子学生なのである。
    適度に使い込まれている、最も食べ頃のピチピチした女体を、彼奴は今頃一物を棒のように硬直させた上で、存分に
    堪能しているのであろう。
    それに引き換え、この自分は心身ともに薄汚れた淫売の、30過ぎの糞袋ババアに1万8千円も支払って、「痛いから指、やめて」なぞ、
    えらそうにたしなめながらの虚しい放液で、ようやっと一息ついている惨めこの上ない態なのである。
    「理不尽だ」独りごちた貫多は、次にふいと最前の糞袋の口臭が、腐った肉シューマイみたいだったのを思い出し、ブルッとひとつ、
    身震いをはらう。

    中卒で港湾人足をしている貫多の青春小説です。鬱屈し、屈折した心情を持つ、貫多の青春小説です。




    私も、大学生の頃、1か月、肉体労働のバイトをした事があったな。重い箱を運ぶのですが、肩にかついで、肩で運べとアドバイスされました。
    若いからできたけど、今ならすぐ腰とかを痛めそうです。
    バイト帰りに、貫多のように、安いコップ酒をあおったりしました。
    肉体労働をしているおじさんが、仕事のあとのビールがなんともうまいんだと言っていたのを思い出しました。
    私も若い、独身の頃は、ホテトルとか、風俗を利用しました。
    ホテルから電話して、ホテルで女の子が来るのを待っている時間が、わくわくしていいんですよね。
    腐った肉シューマイみたいな口臭の女の子とした経験はないですね。(H.P作者)