心の目を磨く                              二宮茂男

 かなうことなら、句を読んでくださる方の心へ響く川柳を書きたい。そんな私が心がけていることが三つある。
  一つは、真実を映す鏡を心に持つこと。その鏡には、老いても、子どものように、歓び、悲しみ、驚く魂がなければならない。
 私は、魂に子どものエキスを吸収するために、五人の孫以外に、横浜市健民少年団の子ども達と、月二回ほど語り、野外活動で汗を流す。
  二つ目は、その鏡を磨くこと。悪いことをしなくても、この世で暮らすと、心の鏡は一週間でうっすらと埃をかぶる。私は、毎週土曜日に、日の出と同時に、鎮守の森の境内のボランティア清掃をさせて頂いている。
  三つ目は、正しい情報を正確に鏡に映す努力を怠らないことだ。常に、新聞、雑誌などに目を通し時の風を句に呼び込む。つましい暮らしの中で、生きる喜びを味わい、そこでの小さな感動を句にする。激動の時代の中で呼吸する一句一句は私の足跡だ。その句に励まされて更に歩き続けたい。
 川柳と目覚め、川柳、川柳で一日を過ごし、床で川柳の夢を見る私は多作だ。中には出来の悪い句もあるがどれも皆可愛い。その一句を句帳へ書く際に、心し ていることがある。それは、難しい漢字は使わない。従ってルビを振ることはな い。これだけは守っている。
 こんなことを心がけて出来た作品の中に、よい句と評価された課題吟、雑詠、時事吟を一句ずつあげて見た。その句が生まれたときの条件、環境のようなものを探って見た。

ジャンケンに勝って寺まで母背負う 「課題吟」

 課題「運ぶ」と重い体験とががっぷり四つに組んだ。貧しい家庭に、七人兄弟の長男として生まれた私だけの体験を句にした。長男の私は同じ屋根の下で、当然のこととして、頑固な明治生まれの母を看た。それを「ジヤンケンに勝って」と表現した。苦労の連続だった亡き母へのプレゼントだ。

太陽も地球も四つ四人部屋 「雑詠」

 まさかの前立腺ガン手術の体験句だ。四人部屋で四人の患者は、素っ裸になる。ナースなどの会話から、四つの地球は隠すところがない。その地球はまた違う四つの太陽の周りを回っている。誇張が過ぎているようだが、これが事実だった。これも私だけの句だ。

政治家を選べなかった総選挙 「時事吟」

 昨年の衆院選は、総理、党首等がマスコミの前面へ踊り出し、無党派まで動員された。この時事吟は「小泉劇場」「刺客」「チルドレン」「くノ一」など一過性の流行語に乗り多弁になり勝ちの心を抑え、また、小手先のテクニックに翻弄されることなく、異例ずくめで、へんてこな選挙の本質は何かをじっくりと見たつもりだ。
                        (NHK学園 川柳春秋81号から)