「ん。正直言って、やんなった。人生って双六で、次のますにどんなことが
 書いてあるのか、さいころ振ってみなきゃ判んないなら―神ならぬ身が、
 二手先、三手先を読むことは、まず、不可能じゃない。
 したら……なにかいいことがあったら、ああよかったって素直に喜んで
 何か悪いことがあったら、これはいいことの前兆なんだって納得した方が
 よっぽど精神衛生にいいわ。 あとでこじつければ、大抵の悪いことは、
 何らかのいいことの前触れになるんだから。
 たとえば、うちが不幸だったことだって……今、幸せをより深く味わう為に、
 人生にコントラストつけたんだって思えば思えるし。」

 −<あなたにここにいて欲しい>− 2012/10/19



「それが正解だよ。俺がおまえの立場でもそうするだろう。
 おまえの人生の主役はおまえだからな。
 俺はおまえの人生における最重要登場人物にはなれても、
 主人公に決してなれない。
 ・・・・・おまえがこれから先、山崎太一郎の恋人、とか、水沢事務所の所員、
 みたいな誰かの被保護者として一生を終えるならともかく、
 森村あゆみっていう一人の人間として一生を過ごすつもりなら、
 まず、どこにだしても恥ずかしくない、余計な罪悪感も、
 自分は自分のするべきことをしなかったって後悔ももっていない、
 ちゃんとした森村あゆみって人間を作らなきゃいけないしな」

 −<そして、星へ行く船>− 2004/5/18選者:ぶるぼんさん


「あたしは、絶対、傷つかないし、くじけてなんてあげない、
 何故ならあたしは、
 人生に終わりがあるということを最初っから知っていて、
 それでも、
 この人生を生きることを選んだのだから。
 すべてのことがお終いになるのを知っていて、
 それでも生きることを選んだのだから。」

 −<チグリスとユーフラテス>− 2002/6/1


「この人生、俺の勝ち!
 そう思える人生を過ごしたのなら、それは、その人の、勝ちだ。
 うん、少なくとも俺はそう思うよ。
 短い上に、意味づけのできない人生だ、なら、好きなことして、
 『ああ幸せだった』って思った奴が、勝ちなんだよ。
 ・・・・・だから、俺は、宇宙飛行士やってんの。
 これが、『俺にとって勝ち!』の 人生だと思うから。
 ・・・・・なんか、反論、ある?」

 −<チグリスとユーフラテス>− 2002/6/1


「だけどね!今帰ったら、あたし絶対後悔する!
 これじゃあたし、まるっきり負け犬だわ。
 夢が破れて泣いて帰るなんて」
「実際負け犬なんだから仕方ねえだろう!」
 太一郎さんも、あたしにつられて大声をだす。
「あんたの夢は破れたんだろうが!」
「何のために手があるのよ!」
「手?」
「夢が破れたら、それをつくろうために、手があるんじゃないの!」
「・・・・・・そんな理屈初めて聞いた」
「うん、あたしも初めて言った。
 とにかくあたし、もう一回やり直してみるわ。
 リターンマッチよ」

 −<星へ行く船>− 2001/9/7(選者:mamazouさん

*選者のコメント*

これを推薦する理由は、もう単純に太一郎さんのセリフ通り
「そんな理屈始めて聞いた」からですね。
「破れた」から「つくろう」、まさに女性ならではの発想ですよね。
こういう前向きさを幾つになっても持っていたいと思います。


「そういうことだよ。
 肉体の生と、精神の生は、違う。
 肉体の生は、いわば精神の生のゆりかごなんだ。
 普通の個体は、ゆりかごである肉体の生が壊れると、
 同時に精神の生も死んでしまう。
 が、その個体が、真実成熟していれば、
 ゆりかごが壊れた後も、その精神は死にはしない。
 ゆりかごなしでも生きてゆける。
 成熟した想いとなって、この星に満ちるのだ。
 ・・・・前にちょっと言ったと思うな。
 我々には、『幽霊』についての禁忌はないって。
 それは、こういうことなんだ。
 肉体が滅んだあとに残った精神は、おまえ達−人間が言う、
 世の中に恨みを遺して死んだものの恨みや憎しみの塊ではない。
 完全に成熟したが故に、肉体というゆりかごなしでも
 生きてゆける想いのことなのだから」
                
 −<緑幻想>− 2001/8/26(選者:mamazouさん)

*選者のコメント*

 実は私は最近幼い娘を病気で亡くしました。
 もう娘に触れることが出来なくなった今、私にはこの文章で
 娘の死を前向きに考えることが出来て凄くありがたかったのです。 
 娘は本当に短い命だったけどこれが天寿だったんだろうし、
 勿論一生懸命病気と闘ったのだからきっとこの星に満ちることが出来るだろうと。
 きっと娘は何時までも私たちを見守って愛してくれると。



「人間って−人生って、どこかちょっと喜劇なの。
 でも、喜劇−コメディなら。少なくともそれは、
 悲劇の一生なんてのに較べればずっと明るいし、楽しいもんじゃない?
 こうして咳きこみながら、必死に背中さすってくれる山科の手なんか
 感じると−しあわせですらある。
 優しくて、みえっぱりで、ちょっと莫迦で、いじらしくて、健気な連中に
 囲まれてんなら、そしてこの先何度でもやり直しがきくのなら−生きるのって
 案外、楽しいもんなのかも知れない。
 本気でやるだけの価値のあることなのかも知れない。
 かも知れない−いや多分、きっと。」

 −<二分割幽霊綺譚>− 2001/8/26


「知識や知恵は、確かに教えることも教わることもできます。
 でも、その人間がどういう人であるのか、もっとも根本的なことは、
 決して誰も教えることはできないし、そもそも教わることではないんです。
 自分で、自分に教えてやらなきゃいけないことなんです。」

 −<そして、星へ行く船>− 2001/8/19


「きりん草の黄色い夢。
 人の心の優い処を刺激して、 たまらなく弱い気分にさせる。
 そう。 こで逃げたら、結局負けたのはあたしってことになるんだ。
 そして、人間ってのは、誰かを犠牲にして勝つより戦わずして
 悲劇の主人公演ずる方が 楽な精神構造してる、確かに。
 だから−−だから、あたしは、悲劇のヒロインなんかにならない。
 なるもんですか。」

 −<雨の降る星 遠い夢>− 2001/8/19
 


「すごく不遜な考えだろうけど、すごくけわしい道だろうけど、
 あたしは自分で舵をとってここへやってきたんだ。
 それを証明する為にも、あたしをあやつる神さんの存在、
 否定してやる。それに。引き返そうったって、うしろ海だもの。
 前へ進むしかないじゃない。」

 −<いつか猫になる日まで>− 2001/8/19