40池鯉鮒 目次へ | |
広重「池鯉鮒」と「大津」には、以前から、初摺り/後摺りの謎がある。 内田本以来の定説では「山のある方が初摺り」とされているが、伝統的な間違いである。 |
|
初摺り 版画家徳力富太郎氏の本では、これが初摺りシリーズ ※ |
|
後摺り 俗ににクジラ山と呼ばれる黒い山がある。 |
|
※ 版画家の徳力富太郎氏が地方まで出かけて、厳選した初摺りシリーズの大津と池鯉鮒(右上)には山がない。 (東海道昔と今 保育社カラーブックス) 定説をコピーしているだけの広重研究家の説よりも、版画の実務に詳しい版画家としての徳力氏の鑑識力を信じたい。 |
|
江漢図を見れば、山を出したり入れたりした理由が分かる。 クジラ山と同じ位置に、江漢図では山(森?)が描かれている。「江漢図は正確な現地写生だから、山が必要」と考え、山を追加しようとしたが、技術的その他の理由でうまく行かず、結局山の追加をあきらめた。広重は春霞に霞む地平線を描いたのだが、その雰囲気を黒いクジラ山が台無しにしている。 |
追記 江漢図の山は、森のようにも見える。「山ではなく森らしい」ということが分かったので、山を入れなくてもよいことになったのかも知れない。 広重自筆の広重双六(右図)には、クジラ山の位置に、江漢図と似た森が描かれており、謎解きのヒントになりそうである。 広重双六は、別な版元から出した広重自筆の双六で、すべて初版の図柄で描かれているが、この図だけは森らしいものが描き加えられている。 関係者の間に山か森かという議論があって、それが広重の記憶に残ったのではないか? |
クジラ山の位置に細かい人物が描き込まれており、最初は山がなく、後で山が付け加えたことを示す。 | |
大畠説: 初刷りには山がなかった。 江漢図に合わせて山を入れようとしたが、技術的その他の理由でうまく行かず、 結局山を入れることをあきらめた。 ★意外なことだが、後摺りで背景の山を省略した事例はない。 (広重「石薬師」が例に挙げられることが多いが、誤報である。) |
|
石薬師 初刻 |
![]() 石薬師 後刻 山は省略されていない |