「ウオー。」足が…足がすくむ!「ゴリラが怖いはずないよネー」とマリちゃんが叫ぶ!藤城君と佐々木君とマリちゃんで一泊旅行したのが、運のツキだった。以前一度、皆と伊豆高原旅行に行ったとき、私は城ヶ崎海岸の吊り橋に行かなかった。当時、皆で伊豆海洋公園を見学した時に、マリちゃんに、「ここから、吊り橋まですぐ傍だから(地図では)、皆で行ってくれば」と言った。この私の一言が大変なことに…。吊り橋までの道は、電動車イスでは無理なので、2人の友人が残り、マリちゃんたち4人は、喜んで吊り橋に向かった。1時間経ってもなかなか帰ってこない。2時間近くなって、やっと吊り橋に向かった道と別の道から帰ってきた。皆は、疲れた表情でクタクタになっていた。話を聞くと、吊り橋までの道は、山道のようにデコボコで歩きにくく、とにかく遠かったらしいのだ。その時、吊り橋の傍に駐車場あり、車イスでも行けることが分かったのだ。私は、高い所が苦手なので、その時は吊り橋に行けなくてよかったとホッとしていた。
 しかし、そのことを覚えていたマリちゃんが、今回の旅行では最初に吊り橋に行くことにしていた。電動車イスでは行けない所と思っていたら、スロープにまでなっていた。「バリアフリーも迷惑になることもあるんダナー。」吊り橋は、幅が狭まく、床が電動車イスの重さで割れるのではないかと心配しながら、ゆっくり進んでいるとマリちゃんが「人が通るから、端を走りなさい。」と言う。その日は、台風の余波で風が強く、端に寄ろうとすると、そのまま横に倒れて海に落ちそうに感じるのダ。「こわい…」波も荒く、岩から飛び散るしぶきの音が迫力満点で、泣きたい気持ちを抑えながら進んでいると、観光に来ている若者に吊り橋を揺らすヤツがいて、本当にビビリまくった。(本当は、マリちゃんが後ろでピョンピョンと跳んでいたらしい…今まで知らなかった!!)
 今回の旅行は、“かんぽの宿”に天井走行のリフターが設置されたというので、伊豆高原のかんぽの宿に宿泊。ここは、食事が美味しく豪華で、バリアフリー化も進んでいる。館内や大浴場には段差がなく、手すりが設置され、ベッドは背もたれが上がる電動ベッドの設置まで。また、ハード面だけではなく、心のバリアフリー化を目指して、全職員にホームヘルパーの資格を取得しているらしい。職員の方たちの対応もよく、とても人気があり、なかなか予約が取れない状態である。夕方チェックインして、ハンディキャッブルームに案内された。部屋には、3台のベッドと畳み四畳くらいの和室もあり、4人で宿泊するには十分の広さ。リフターは、ベッド上の天井からトイレ・浴室へと移動ができるように設置されている。しかし、浴槽が小さすぎて入れない。せっかく設置されたのに、利用できないとは本当に残念であった。(大きく作ってあれば…。)
 皆が入浴後、食事に行った。高台に建てられている3階からの眺めは最高で、初島が見えていた。食事は、ボリューム満点の会席料理。お刺身に伊勢海老のお造り。アワビの踊り焼やしゃぶしゃぶ。もう、デザートが来ない前に満腹状態。そんな中、ひとり黙々と食べている佐々木君には驚かされた。何と、おひつに入っていたご飯をひとりでペロリ、おかわりをしているのだ。久しぶりに、食べっぷりのいいやつを見て、高校の相撲部時代のことを思い出していた。夏合宿の食事で、“ホルモン”を「食え!食え!」と言う先輩がいた。「もう、食べられません」と言うと、その先輩は必ず、「口を開けてミー、ホルモンが見えチョラン!」と言って、自分の手でのどを指しながら、「ここまで食わなきゃ元気でんぞー!」と、何度も同じことを言われていたことを思い出した。懐かしい思い出にひとり浸っていた。
 翌朝暑い中、河津七滝めぐりに出掛けた。電動車イスで初景滝まで行った。まじかで見た初景滝は、高さ10m幅7mと小さいが水量が多くて迫力があり、しぶきが太陽の日差しを浴びてキラキラと輝き、気分上々。帰りに、七滝茶屋へ。ここで、“いちご三昧”を食べた。いちごの生ジュースとクラッシュド・ストロベリー、いちごのシャーベットの3種類が1度に味会えるのだ。本当に、美味しかった。ただ、入口に段差があったのが残念。
 つい最近までは、バリアフリーの宿泊施設を探すのが大変であった。現在は、旅館やホテルなど、バリアフリーが当たり前となっており、障害者や高齢者が宿泊しやすくなってきている。いつになったら、ゴリラはお風呂に入れるのだろうか!