先日、いつもお世話になっている野中みどりさんの結婚式に出席した。彼女と知り合ったのは、老人施設で働く菅井さんの紹介だった。9年前、菅井さんが勤務していたところに、野中さんが就職したのがきっかけで、我家に遊びに来たのだ。今でもはっきりと覚えているが、その頃の野中さんはボディービルターのような体つきで、腕が太く半袖Tシャツの袖が、はちきれんばかりにパンパンに張っていた。そんな腕は、男性でも相撲部かプロレスラーぐらいしか見たことがない。女性で筋肉質な太い腕には驚いたものである。それに、気をつけ姿勢がまったくできなかったのだ。普通、気をつけすると両手の内側は体にくっつくものだが、彼女の場合腕やカッパ筋の筋肉がつきすぎて、手が腰の横にくっつかないのだ。大学時代、陸上部でやり投げをしていたらしく、卒業後も現役のような体を維持していて、筋肉モリモリという感じだったのだ。そんな彼女も、今ではスマートになって、細すぎるぐらいになってしまった。やはり、恋をしたせいだろう…。始めは、お互いに大学時代の話に盛り上がり、同じ体育会系とあってすぐに気が合った。それから、彼女と一緒に遊びに行ったり障害者の会合に参加したり、旅行なども一緒に出掛けるようになったのである。そんな彼女と出掛けると、不思議といろんな事件が起きたものだ。ある時は、新横浜駅新幹線用の真っ暗なエレベーターに閉じ込められたり、またある時はホテルで夜中に緊急用のベルが鳴ったりと普段では経験のできないことが体験できるのだ。いろんな事を体験するにつれてハプニングに動じなくなり、楽しめるようになった。彼女がいたお陰で、旅行にも積極的に出掛けるようになって、感謝の気持ちが一杯だ。
 そんな彼女と彼とのなれそめは、“クライミング”という共通の趣味で知り合っている。クライミングとは、素手で岩を登ることである。ジムでは、人工的に作った壁で練習するが、休日にはクライミング仲間と伊豆の岩山を登っている。彼女の筋肉は、やっぱり健在だったのだ。彼を初めて紹介されたとき、あまりにもナイティンナインの岡村にソックリだったので、不覚にも笑ってしまった。彼は、緊張していたようで無口であったが、だんだん慣れてくると優しさがにじみ出て、しっかりしたいい青年であった。彼なら彼女をしっかり岩のようにつかむことだろう。嬉しいことだ。そんなふたりの結婚式の証人になるとは、思ってもみなかった。このゴリラでいいのかと思ったが、引き受けてしまった。
結婚式の当日、愛犬コロンに起こされた。寒い時期は、布団を目の位置くらいまでかぶっているため、コロンが前足ではがし、私のデカイ顔を舐め回して毎朝起こされる。一瞬にして目が覚める。式服に着替えるため、マリちゃんと母に手伝ってもらう。デカイ体だと、ふたりがかりである。リフターで電動車イスに移動し、洗顔と髭剃り、その他もろもろ。父にネクタイを締めてもらったのをつけて、完了。ゴリラにスーツを着せるのは、家族ぐるみで大変な作業である。スーツを着るとピシッと気が引き締まるが、顔の二重アゴが強調されてガックリ!
ボランティアの堀澤さんの運転で、藤沢の教会に出掛けた。教会の式に出席するのは初めてで、緊張しっぱなしだった。突然、オルガンの演奏が成り、バージンロードを新婦と父親が入場してきた。神父さんも外国人でびっくり。しかし、牧師さんの優しい日本語と眼差しに緊張もとけて行った。誓いの言葉が終わり、新郎が新婦のベールをめくったとき、野中さんの顔が見えた。このとき、彼女が初めて化粧をしているのを見た。イキイキと輝いて、とても綺麗であった。式後、花嫁を電動車イスのスケートボードに乗せて走ったが、後ろでは大変なことになっていた。ドレスが汚れないようにマリちゃんがテンテコマイしていたのだ。ウェディングドレスの裾を後ろでずっと持ってついてきていたのだ。私は、まったく知らなかった。式は優しい人達の集まりで、なかなか素敵な手作りの結婚式であり、私の心も温かくなった。これから、ふたりの進む道には、いつも愛につつまれた生活が続くことだろう。たとえ困難にあっても、支えあえば必ず乗り越えられるはずだ。ふたりに、心から声援を送っている。素敵な式に参加できて最高だった。
 今年、私たちは銀婚式を迎える。マリちゃんと知り合ってから29年間。マリちゃんに感謝・感謝・感謝。