今年の全国頸髄損傷者連絡会の総会は、食い倒れの街大阪であった。今回は、友人の渡辺さんと出掛けた。新横浜駅からのぞみで新大阪へ。新横浜駅を出てすぐ、後ろのデッキから“さんしん”の演奏が聞こえてきた。沖縄の民謡のようで、弦を弾く音が心に沁みこんで来る。瞼を閉じると沖縄の透き通った海が広がり、波が打ち寄せる景色が目に浮かんできた。(まだ、沖縄に一度も行った事がないのだが…。)心地よい気分に浸っていると突然、次の停車駅の車内放送で打ち消されてしまった。のぞみは、揺れが少なく乗り心地はいいのだが、車両の空気が悪すぎるのが欠点だ。車イス用のオープン座席は禁煙席でないため、各座席から狼煙のように上がってくるタバコの煙で気分が悪くなる。私の電動車イスは座面が高いので、車両の一番後ろから前までよく見える。その分、煙も多く吸っているかもしれない。いつも、タバコの煙で目が沁みるし食欲もなくなり、吐き気までするからデッキへ移動している。喫煙席だと言っても車両の人が交代で休みなく吸われたらたまったもんじゃない。何とか、車両内の換気を良くして欲しいものである。(元気だった頃は、私もタバコばかり吸っていた…)
 新大阪で、福岡と広島から来た友人と一緒になった。各付き添いの方たちと6名で、会場の堺市国際障害者情報センター“ビッグ・アイ”に向かった。地下鉄と電車の乗り継ぎで、1時間半もかかった。ビッグ・アイは、障害者の社会参加を促進するための施設で、多目的ホールや研修室、レストラン、宿泊施設まで完備されていた。部屋は広く、天井走行のリフト付もあり、セキュリティー対策も万全であった。この施設で、一番驚いたのがエレベーター。私のように手が動かないとエレベーターの呼び出しボタンや何階に行くかのボタンが押せない。いつも、誰かにお願いしてボタンを押してもらっているが、時にはなかなか誰も来ないときもある。しかし、ここのエレベーターは画期的だった。手が動かなくても自由に呼び出せ、どこの階にもひとりで行けるのだ。エレベーターの呼び出しボタンが下の床近くに大き目のボタンがあるのだ。電動車イスで近づき、そのボタンを靴で押すとエレベーターが来てドアが開く。乗ると各階に止まりドアが勝手に開くのである。呼び出しボタンは、車イスのステップの高さにあるので誰でも自由に押しやすい。素晴らしいエレベーターに感激した。横浜の施設にも、ぜひ導入して欲しいと思った。
 総会の1日目は、「スタート後の支援費制度、当事者の自立生活はどう変わったか?」と「障害者のセクシャリティ、当事者はどう感じている?」の講演会が行われた。その後、レセプションが始まり、食事をしながら多くの仲間と知り合いになり、大いに楽しんだ。2次会は、なぜかいつも私の部屋で行われ、午前2時まで飲みながら皆と話し込んでしまう。実は、総会より2次会での話の方が日常の生活には、とても役に立つ情報が多く得られるのだ。
 2日目は、総会をサボって、友人たちと天保山ハーバービレッジに行った。そこは、同行してくれた渡辺さんのお勧めレジャースポットであった。大観覧車や海遊館、マーケットプレースなどがあり、マーケットプレースの中の“なにわ食いしん坊横丁”に行ってみた。横丁の入口に、子鮫にまたがった子猫??“えべっさん”の銅像が建てられていて、何故か皆は“えべっさん”の足の裏を触っていた。後で判ったのだが、子猫と子鮫は、実は"海運と商売繁盛の神様「えべっさん」の化身で、足の裏を触ると幸せが訪れるといわれているらしい。触れないゴリラは、幸せがこないのだろうか…?横丁は、昭和40年前後の大阪の街並みを再現し、その中に「食い倒れの街」といわれる大阪を中心とした選りすぐりの店が一堂に集められていた。早速、イカ焼きの元祖「桃谷いかやき屋」とオムライス発祥の店「北極星」、たこ焼き、餃子、ワラビ餅を食いまくった。あまりにも美味すぎて食欲が止まらなかった。
 次に“海遊館”に行った。ここは8階建てのビルで、8階から3階までに15の水槽があり、580種類30000点の生物が見られる。7階から、緩やかなスロープ中心の構造で車イスでも安心して観覧できる。特に、「太平洋」(深さ9m最大長34m)水槽には、世界最大の魚類ジンベイザメやサメ、エイやまぐろなどが遊泳していて迫力満点だった。デカイ魚もいいのだが、小魚の「チリの岩礁地帯」は、マイワシ、カタクチイワシ、ベヘレイなどの魚は、大きな群れを作って回遊しているのを見ていると美味しそうに見えてくるから不思議であった。ゴリラは、何でも食べ物になってしまうなぁー。
 大阪にいる2日間、地下鉄や電車の移動だけでエレベーターを20回以上も利用した。ちょっとエレベーター恐怖症になりそうになったが、地下鉄・電車の職員の方がとても親切であった。どこへ行っても、ホームと電車の段差にスロープ板を置いてくれ、乗り換えの場所まで案内してくれた。阪神タイガースが好調のせいか市民も親切で、とても楽しい旅だったが、ひとりで自由に乗れた“ビック・アイ”のエレベーターのように、電車の乗り降りも自由気ままにできるようになるともっと最高だ!