神奈川総合リハビリテーションセンターに入院した時に、障害者にもスポーツが出来ることを知ったのである。当時の体育課に、大学の先輩(偶然でビックリ!)渡辺先生が働いていた。検査、検査の毎日で訓練もなく、部屋でひとりベッドに座っている時、突然渡辺先生が現れた。『伊藤さん?日体大の相撲部にいたんだって?私も日体大のOBで、伊藤さんより2級上かな?』と言われた途端、緊張からか『はい!』『いいえ!』と答えてしまった。体育会系のせいか敬語になってしまう自分に驚き、おかしくもあった。どう見ても2級以上(髪が少し…)に見えなかったが…。渡辺先生は、大学の相撲部の先輩の友人で、『相撲部の合宿所で、よく飯を食わせてもらった。相撲部のカレーはうまかった』と話され懐かしく思った。いろいろ話していると、『今度、車イスバスケットボールを見に行こう』と誘ってくれたのである。車イスバスケットボール?その時初めてこの言葉を聞いた。障害者にスポーツができるとは…。

 ある日曜日に、渡辺先生と車イスバスケットボールの試合を見学に行った。体育館に入ると試合はすでに始まっていて、声援や歓声で熱気ムンムン。渡辺先生の説明を聞きながら見学していると、選手の動きや迫力に驚いてしまった。車イスの操作が抜群にうまく、小回り、ダッシュ、パス、シュートとリズミカルに動き、ボールさばきがこれまたうまい。選手の腕は、大腿部のように太く力強さを感じた。試合を見ていると夢中になり、肩に力が入るほど面白く、車イスバスケットの虜になってしまった。ルールは、健常者とほとんど変わらないが、ゴール下の3秒ルールが5秒に、ボールを持ったまま車イスを2回までこげるが、3回以上こぐとトラベリングの反則を取られる。車イスの高さもマットをいれて64pと決まっている。パスやシュートの時に、尻をマットより浮かすとバイオレションの反則を取られる。座ったままのシュートは大変難しく、健康な人でもリングまでボールが届かないはず、皆さん1度試してみてはいかがですか。車イスは軽量に作られ、キャスター(前輪)が他の車イスより小さく小回りしやすいようになっていても形もカッコイイ。私が、手を動かせていたら全日本の車イスバスケットのエースとして活躍していただろうと思う。だって胴が長いから有利のはず…。

 他にも多くのスポーツがある事を知った。車イスでもスキーやヨット、テニスやアーチェリー、ダイビングなどをやる気があれば何でもできる。楽しみながら練習すれば試合にも出場できる。ハンディキャップによって、クラス分けされ、県大会、全国大会、そしてパラリンピック(障害者のオリンピック)へと続く、希望と夢がある。また、多くの人達と知り会え、友人も増やす事ができるのだ。四肢マヒだとそこまでは無理だが、それなりのスポーツの楽しみ方はある。神奈リハの体育のリハビリでは、いろいろな工夫をしたスポーツを体験した。テニスボールを使った野球はとても面白く、ハンディキャップによってそれぞれのルールがある。皆は手でボールを打つが、私はヘディングでボールを打った後、1塁まで電動車イスで走るが、足の不自由な人や車イスで手が不自由な人、電動車イスの人は、1塁ベースの半分まで行けばセーフとなる。守りは、車イスや電動車イスのタイヤにボールが当たればアウトになる。みんな真剣で、週1回の野球の日が楽しみだった。 スポーツを通して、機能回復や精神的苦痛を和らげ、皆と一緒に汗を流し、ストレスの発散ができる。スポーツをしている人は皆、瞳が輝き生き生きして見えた。