私は22年前、私立高校の保健体育の教師をしていた。マット運動の失敗で首のを脱臼骨折。それ以来、首から下は麻痺し、手足が全く動かなくなった。針で刺されても痛みを感じない。
 大学病院に緊急入院し、すぐに手術。そして、ICUから病棟の個室へと移される。鼻から管が取れ、呼吸器が取れ、だんだんと元気を取り戻してくるのに、手足が動かせない自分にいらいらし、看護婦さんに当たり散らしていた。
 大学病院に7ヶ月間入院していたが、せめて手が動くようにと、リハビリ専門の病院の神奈川交通総合リハビリテーションセンターに転院した。
そこで1年間、手が動くように願いながら一生懸命リハビリに専念したのだがついに手足は動くことはなかった。
 しかし、リハビリセンターで、私に希望と勇気を与えてくれたものが、チンコントロールリクライニング式電動車イスであった。今でもはっきりと覚えているが、その日、ベッドを起こしてもらい座っていると、廊下からジィージィーと電気音が聞こえ私の部屋に入って来た。大きなチンコントロールの電動車イスである。何だろうと思い乗っている人に聞くと、私と同じように手足が動かないので、アゴで操作する電動車イスに乗っているとのこと。あれほど驚いた事はなかった。その時、目の前がパッと明るくなり、心臓がドキ ドキした事をよく覚えている。それまでは、車イスを誰かに後ろから押してもらうため、行きたい所に自由に行けずいらいらしていたのだ。
 早速、自分に合わせたチンコントロールの電動車イスを作ってもらう事にした。できあがった電動車イスの大きさに驚いた。最初に乗ったときは、嬉しくて病院中を走り回ったりもした。チンコントロールの電動車イスの操縦は、呼気とアゴで操作する。呼気でできる事は、電源を入切し、背もたれを起こしたり倒したりすると、ベッドのかわりになったり、アゴで操作するレバーを内外と移動する。アゴの操作は、レバーにアゴをのせ、手前に引くと前進、前に押すと後進、右に倒すと右回り、左に倒すと左回りする。操縦が難しく十分練習してから、病院の外を散歩した。外は、気持ち良く、空気や風、草花の香が、こんなに新鮮に感じられるとは…最高の気分!ひとりで自由に移動出来る事が、落ち込んでいた私を明るく積極的にするとは思ってもみなかった。
 それ以来、友人がたくさん出来た。今では、チンコントロールの電動車イスが私にとってかけがえのない友人のひとりになっている。