私は、多くの心優しい人達に支えられ生きている。元気だった頃には、分からなかった事、あたり前だと思っていた事が、実は大変な事だったと今わかるようになった。私は、障害者になって初めて人の痛みや苦しみがわかり、優しさを肌で感じられるようになったと思う。もし、私が障害者にならなかったら、どんな人間になっていただろう?人間、それともただのゴリラ?
 妻や両親には感謝しても感謝しきれないくらいだが、その他の多くの人々にも助けられている。さくら苑(特別養護老人ホーム)の桜井里二苑長にも、大変お世話になっている。先日、夜7時からのステーキパーティーに出席させていただき、おいしいお肉を腹一杯食べ、お酒や踊りで盛り上がり、久々に楽しい夜を過ごすことができた。私にとって夜の外出は10数年ぶりだった。また、月2回の入浴サービスも受けている。送迎してくれるので、お殿様気分!。ゴリラの王様としては大満足である。さくら苑は、普通の老人ホームとは、ちょっと違う。ホームの廊下は、大きなラブラドールレトリーバー雌犬2匹(ヘレンとマリ)がいて、その後ろで小さなダックスフンド(チャリー)が遊んでいる。妻のマリちゃんは、犬達を見つけるとすぐにじゃれあう。犬好きの私にはとても羨ましい。私も犬達のそはに行って、感覚のない手で頭を触らせてもらい満足している。ネコや小鳥などもいるし、日曜日には催しが多いので、近くの小学生たちが遊びに来ていて、とても賑やかである。ご老人も私の大きな電動車イスを見て、声を声をかけてくれ、何回も行くうちに顔見知りになる。ところが再び行くと、また初めて会った人になってしまう。忘れられてしまうのカナ。浴槽は、寝たままで入れるのでラクで安心。たっぷり入ったイオウ入りのお湯につかり、気泡が出て、温泉のようだ。入浴させてくれる職員の方が元気で優しい。マリちゃんは、『いいわね、若い女性に身体を洗ってもらって、王様気分でしょ!』と、冷やかすのである。まさに入浴している時はそんな気分だ。お酒でもあるともっといいのだが…?職員の方達と楽しい話しをしながら、いつものんびりと入浴させてもらっている。元気であったらきっと、こんな優しい人々との出会いもなかったのにちがいない。
 緑園都市にある『花の生活館』でも、遊びに行くと家庭的な雰囲気で、職員の皆さんのやさしく暖かい歓迎をうける。食事も素晴らしくおいしくて。何日でも花の生活館にいたくなるほどだ。
 若い人達の中に福祉の仕事をしている人が多いのに感心してしまう。他人の助けをしている人達こそ素晴らしい人であり、なかなかできないことだと思う。職員の待遇をもっともっと良くすることが、福祉の発展にもつながるのだと常に思っている。
 入浴の帰りに月1回位、我家の近くの床屋『いこい』に立ち寄って、スポーツ刈りにする。夫婦で仲良く働かれていて、ここでも親切にしてもらっいる。店の出入口の段差をスロープにして、電動車イスで利用出来るようにしてくれた。こんなことはなかなかできることではない。頭が下がる思いである。スポーツ刈りをすると床屋の腕が分かると言うが、ここの御主人はハサミだけで実にうまい。スポーツ好きな御主人で、話しも合う。マリちゃんは、『ボウズでいいじゃない』と言うが私はオシャレにはうるさいのだ。やはり、若い女性達との出会いもあるし、キレイにしないといけないのだ。ゴリラ王様としては、カッコがつかない。
 今、私はワープロを口で打っているのだが、これも近くの今井電気店でワープロを購入したときに、使かいやすいようにと今井さんが斜めにできる台を作ってくれたおかげだ。棒を口にくわえて1つひとつ打つので、2つのボタンを同時に打つことができなかったが、これも工夫してもらった。とても親切でやさしくしてもらっている。今井さんがいなければ、このエッセイも書けなかったのである。大変ありがたい。以来、何か困ると今井さんに聞いたり助けてもらっている。
 障害があるから…というだけでなく、人間健康であってもいろいろな人々に支えられ、助けられて生きていると思う。ただ、健康だとあたり前だと思う事が多くて、ついつい感謝の気持ちを忘れがちになるのではないだろうか。