機内の座席は、ビジネスクラスでもゴリラには、やはり小さすぎたようだ。身長は184pだが、褥創(床ずれ)予防のロホクッションをお尻の下に敷くため、座高が6pは高くなってしまう。頭ひとつ皆より出ているので、後ろの人達は前にあるテレビ画面が見づらかったと思う。申し訳ない、デカすぎて…。足も長いせいか?座席の下の足乗せに足が乗せられなかった。日本人の体格も立派になりつつあるのだから、座席は大きくしてもらいたいもの。
 座っていると左隣りの眼の大きなかわいい女性が、私の肩をポンポンとたたいた。なにやら身ぶりで『自分ではできないので、荷物を上にあげるのを手伝ってほしい』と言っているようなのだが、よく分からない。マリちゃんが気がついて、スチュワーデスに頼み荷物をあげてもらった。彼女は耳が不自由なので、身ぶりで訴えていたのだ。それがわからなかったとは情けない。動揺していたのかな?マリちゃんが身ぶりで『夫は、身体が動かない』と伝えたら、彼女はほほ笑みながら頷いた。そのほほ笑みの中に、お互いのなにかが理解しあえるような温かさを感じた。機内食時などで、スチュワーデスが手話が分からず焦っていたのを見て、これからのスチュワーデスには手話も必要ではないかと感じた。
 17年ぶりの飛行機は、緊張と不安の連続。初めての機内食も喉を通らず、眠ることもなかなかできない。マリちゃんも枕が変わり、眠れなかったようだ。座っているうちに段々とお尻がずれ、背もたれから頭が隠れるほどずっこけた為、大津さんと石岡さんに頼んで2度も座り直してもらった。怪我をしてはじめての経験で工夫すらできず、普段は汗など全くかかないのに、首や肩に汗をかき、苦しみに耐えながらハワイに着いたのである。
 ホノルル空港に無事着いて、飛行機の扉を開いた途端、熱風でムーッとした。電動車イスに皆で乗せてもらうと、ホーッと気持ちが落ち着いて元気が湧いてくるようであった。やはり私の電動車イスは座り心地が良い。なんと言っても自分の足だから…。入国審査や税関を通り抜け、あっと言う間に空港の外に出た。入国審査で色々聞かれると聞いていたので、英会話の練習をしていたのに笑顔だけですんだ。嬉しくもあり、残念でもあった。
 外に出ると、解放感でハワイの風が心地良い。思っていたより暑くない。“空港からホテルへ直行組”4名と“観光組”4名に別れ、私たち直行組(私とマリちゃん、山田さんと大津さん)でハンディーキャブを探した。ハワイのハンディーキャブは大きなバンで、横から出入りし、座席のない助手席に電動車イスを固定するのである。助手席に固定して乗ったのは、これが初めて。眺めがとても良く、スピード感が実感できて大変気持ちが良かった。ワイキキのホテルに向かう途中、カーラジオから流れてくるハワイアンの曲を聞き、高速道路から見えるやしの木を眺めながら、『とうとうハワイに来たか』とつぶやく。後ろの座席では山田さん達が大声ではしゃいでいた。運転手のマークさんは、筋肉隆々の立派な体格で顔もゴツイ!そんな中にも優しさが感じられる人だった。
 ホテルの中に入り、ふかふかのカーペットに電動車イスのタイヤをとられながら行くと中庭があった。滝が3階から流れ落ちて、涼しい風が吹き抜ける。『なんと心地よい歓迎だ』と感激!また3階にプールがあり、水着姿で歩いている人達が見られる。嬉しいのだが、なにか違和感を感じる。それにしても日本人の多いこと。
 豪華なホテルの2階でチェックインして、皆で23階に行った。部屋に入るととても広くて窓の外にはバルコニーがある。そこから青く透き通った海が一望でき、皆で『きれいね!』の連発。山田さんの『ミチカズ、ハワイに来れて良かったねェ』の言葉に、思わず胸が一杯になった。本当にハワイに来られて良かった。ホテルもカッコイイし、23階から見る海も素晴らしい。周りには美人がいっぱいだし、勇気を出して挑戦して良かったと思う。何事も経験しないと分からない。
 海で波乗りや泳いでいる人を眺めていると羨ましくなってしまった。昔は水泳が得意だったので、ワイキキの海で一度は泳いでみたかった。ゴリラの王様、少々感傷的気分…。
 観光組が帰るまでひと休み…。と、その時、ドアのノックする音が…。