皆で横になり、休みながら話していると、ドアをノックする音が聞こえた。観光組の帰りにしては早すぎる。いったい誰だろうと、ドキドキしながら山田さんがドアを開けるのを見ていたが、なんの事はないホテルマンであった。英語でなにかペラペラと言っているのだが、私にはチンプンカンプン。答えていた山田さんに聞くと、冷蔵庫の補充に来たので断ったそうで、ホッと一安心。ハワイに来る前、友人たちから外国は怖い所と聞かされていたので、実は心配していたのだ。身体は大きいが、実はボクは案外気が小さいのである。それにしても山田さんはスゴイ!昔、英会話を習ったらしく、ちゃんと通じる。それ以来、皆山田さんを頼りにした。
 食事は全て自分たちで食べに行く計画だったので、夕方から外に出た。ワイキキの海に面した通りを進む。歩道が広く段差がないので、のびのび行動できる。レストランやお店も段差がなく、気兼ねせず自由に出入りできる。日本では電動車イスで利用できる店を探すのは一苦労だ。日本の街も、早く車イスに優しい街になってほしいものである。食事は、おいしくてボリューム満点。食べ切れない程である。これだけの量を食するのだから、ハワイの人は皆体格がよく、パワーがあるのも当然かもしれない。
 女性はやはりブランドに夢中!皆で買い物に出掛けた時、シャネルの店を見つけて早速中へ…。私も店に入ったが、その途端、女性たちはアッと言う間に散らばり、2階に上がって行った。私ひとり豪華なソファの所に取り残されてしまったので待ってた。と、両目を殴られたような化粧のキツイ大柄な金髪女性が、私に英語で話しかけてきた。『何かお飲み物は?シャンペンはいかが?』ひどく緊張してしまい、なんとか『ノーサンキュ』と答えた。この事を皆に話したら『シャネルの店で、シャンペンをごちそうしてくれるなんて一生に一度あるかないかの事なのに、どうして断ったの?』と言われた。私も本当は飲みたかったのだが、やはり気が小さいのである。
 ハワイの海は透き通っていて、夜明け前から日没まで海の色は変化し続ける。1日中海を見ていても飽きないほどである。 ハンディーキャブで1日の観光した日も運転手のマークさんが来てくれた。日系人ガイドのエミーさんも同行し、総勢10名になった。エミーさんに通訳してもらい、マークさんの事など尋ねた。独身でこの仕事を始めて10年になる事や、昨年お兄さんが後ろから銃で撃たれ、私と同じ頸髄損傷になられたと聞いた。驚くと共にアメリカの銃社会の怖さを感じた。彼は私のチンコントロールの電動車イスを初めて見たそうで、興味を持ったようなので操作方法を教えてあげたりした。
 その日の観光は、買い物と食事で終わったが、最後に行ったタンタラスの丘から見た夜景が素晴らしかった。宝石をちりばめたような輝きに感動した。あのきれいな夜景は一生消える事はないだろう。のんびりとした雰囲気と私に気軽に『元気かい?』と声をかけてくれる明るい人々がとても嬉しかった。どんな人も平等であるお国柄を感じた。
 空港までの送迎もマークさんが来てくれた。別れる時に言おうと、感謝の言葉(英語)を前日から覚えてきたのだが、いざ伝えようとすると胸が一杯になり、なにも言えなくなってしまった。マークさんもだまって頷いていた。
 山田さんたちは、先に帰国していったので、妻のマリちゃんと二人きりになり、急に寂しく不安になった。帰りはマリちゃんがお尻がずれないようにと、サラシで胸をイスの背もたれに巻きつけ固定してくれたので、一度もずれなかった。機内食もよく食べ、よく眠れ、行きに比べると大分ラクになった。帰りの飛行時間が短く感じたほどで、マリちゃんの工夫に頭が下がった。
 無事、成田に着き、先に到着していた皆が出迎えてくれた。山田さんが涙を流しながら『ハワイに行けて良かったね』と抱きつき、私のほほにキスをしてくれた。私も熱いものが込み上げ、感激で胸が詰まり、思わず、涙があふれ出てきた。
 今度の旅行で一緒に行った皆さん、ありがとうございました。その優しさに感謝の気持ちで一杯です。また、旅行に出て、いろいろな事を経験し、勉強したいと考えています。