うわァー、高い!車が小さい!足がすくむ。昔から高いところは苦手だ。その私が横浜ランドマークタワーへ行った。地上2階から69階の展望フロア(273m)まで昇るのにかかった時間の短かかったこと。実に速い。40秒たらずで(分速750m)揺れもせず昇ってしまった。エレベーター内に立てたタバコが倒れなかった…という話を聞いた事があるが、乗ってみるとなるほど実感できる。素晴らしい技術である。到着した展望フロア、スカイガーデンからの眺めは想像を絶するほどの大パノラマで興奮した。夕日が沈み、点々とライトがつき、またたく間に光り輝く夜景と変わった。素晴らしい夜景に見とれている間に、私の周りはいつの間にかアベックで一杯になっていた。
 最近、私の外出が多くなった。近くの老人施設さくら苑で、特別入浴サービスの時に知り合った職員の人達や、施設を辞められて違う福祉関係の仕事についている人達から、『どこかに行きましょう』と声をかけてくれる。とても自然に…。はじめは、『せっかくの休日にいいんですか』と遠慮していたが、今では『行きましょう、行きましょう』と私も積極的になっている。有り難いことである。
 私が絵を描いている事もあり、元気だったら絶対に行かなかったであろう、横浜美術館に2度も連れて行ってもらった。洒落た建物内にはエレベータがあり、もちろん車イスでも利用できるようになっている。土曜日だったが、常設展しかないためか館内はガラガラ。シーンと静まりかえり人の声もしないので緊張してしまった。ルーブル美術館の展示のときは大違いである。このときは平日に行ったが、人が多くて電動車イスで人の足を踏むのではないかとヒヤヒヤ。絵を見るより人の足元ばかり見ていたようである。無事に見て回るとドッと疲れがでてしまった。
 金沢八景島シーパラダイスにも連れて行って貰った。潮の香りと若い女性達に囲まれ、久々に童心にかえって楽しんだ。水族館のガラスの大きさや、熱帯魚たちの鮮やかさにはびっくりしたが、その中で不自由そうに泳ぐシロクジラの姿が、私とダブって見えた。自分と同じ体型だし、まるで私だ。トドも似ている?遊園地、レストラン、ショッピングと素晴らしい施設だったが、水族館だけはもう少し車イスで利用しやすくして欲しかった。一般の入口から入場できないことはじめ、下の階に降りるには、エレベーターを利用して非常扉から入ったり出たり…。一般の人の流れに逆らいながら移動するのは大変だった。エスカレーターを降りながら海底気分を楽しむ…どころではない。新しくできた施設なのに設計段階で車イス利用者の事など考えなかったように思え、寂しくもあり、また、腹立たしくも思った。
 そうそう、焼肉屋にも行った。外食をする機会が少ない私にとって実に嬉しい誘いである。やはり、お店に入る第一条件は、段差や階段がないこと。岡津町の『ファースト』とは合格点である。食べた、食べた〜と言いながら皆ワイワイ!。マリちゃん(妻)は、私の顔を見て『お肉が足りなかったらゴリラ(私?)のおなかの肉も食べて!』と皆に大声で言った。なんてひどいことを言うんだと思ったが、自分の腹を見ると納得…。最近は、私の顔はブルドックに似ていると言って大声で笑う。『ブルゴリ』と別名が新しくついてしまった。おなかも満腹、心も満腹、幸せだ。まるで普通の友人のように私を誘ってくれる。暖かい…これが最高なのである。素晴らしい友人達に感謝、感謝、感謝。
 身体に障害があるが、中身は皆さんと同じだから、自然に普通に一緒に生活したい。私にとって、今の四肢完全麻痺の状態が普通の健康な状態なのであるから…。こちらが車イスだと、どうしても健康な人は、『何て声をかければ良いのだろう。かわいそうだけど声をかけにくい』私も元気な時はそうだった。人間はやはり、経験してはじめて分かることの方が多いから、仕方ない事かもしれないが…。これからは、老人も増える。医療の発達から障害者も増え、車イス社会が全盛となるであろう。皆、同じ仲間として生活して行きましょう。