夏だ!海だ!夏になると海に会いたくなる。子供の頃から泳ぐのが得意で海が大好きだった。私は、夏休みになると直ぐに海のそばにある親戚の家に居候する。親戚の家は、海岸の砂地の上に建てられ、周りは砂山や松林である。
 私は、朝から海水パンツひとつで、砂山でソリをしたり、松林で木登り、海で泳いだり、毎日、飽きずに楽しく遊んでいた。ただ、ひとつ嫌だったのは、家に入る前に、井戸水で全身を洗わないと家に入れて貰えない事である。一度、遊び疲れて髪や身体についた砂を落とさず、家の中に上がり、畳や床が砂だらけになった事があったのである。井戸水は、心臓が止まるのではないかと思うほど、とても冷たく頭から水をかけるたびにハァーハァーと大声を出していた。また、近所の農家のスイカ畑やイチゴ畑があり、そこを通るたびに大きくて真っ赤になったイチゴを1つ摘んで食べていた。ある日、いつものように大きくて真っ赤になったイチゴを取って食べていたら、突然、後ろから農家のおじさんに『なん、だまって食べようと!(九州弁)』と怒られ、驚いたのである。罪悪心から、すかさず『ゴメンナサイ』と頭を下げた。おじさんは、『よかよか、いただきますと言ってから食べんしゃい』と笑いながら言ってくれたのである。私は、怒られるとばかり思っていたので、おじさんの優しい気持ちがとても嬉しかった。それからも、イチゴを1つ摘んで『いただきます』と大声で言ってから食べていたものである。おじさんの顔は忘れてしまったが、おじさんの優しい気持ちが今では良い思い出となって心に残っている。小学生2〜3年の出来事であった。
 中学生の時は水泳部に入部。プールの消毒剤で、眼は真っ赤、霧のように霞んで見える。疲労から夕食もとらずに何度もそのまま朝まで寝てしまった事があったのである。毎日、嫌と言うほど泳がされ、部活と試合で海にはなかなか行かれなかった。高校の時は相撲部に入部。海にはよく友人とよく行ったが、陽が沈んでからよく泳いだものである。何故と言えば、まわしを絞めると、水泳パンツの跡が白く残っていると、顧問の先生に遊んでばかりいた事が分かってしまう。相撲が弱く見えてカッコ悪いのである。友達にフンドシで泳げと言われたが、その頃は、フンドシで泳ぐ勇気がなかったのである。まわしを絞めるのは平気だったが、フンドシになるのは…。夜の海は、神秘的でかつ無気味で怖いのであるが、とても泳ぎやすい。しかし、何か海から出てきそうで…。キョロキョロ周りを見ながら泳いでいたのである。友人から『そんなまでして、海で泳ぎたいんか』と、何度も聞かれたものであった。
 大学1年生のある日、部活が休日でサウナにいた私は、突然、先輩に呼び出されサウナ着のままバスに乗せられ、江ノ島に連れていかされた。その時に見た江ノ島の海は、何とコーヒー色した茶褐色であった。その海で泳いでいる人がいたので驚いたのである。福岡県から来た私には、海は青く透明だと思っていたので、とても信じられない出来事であった。
 マリちゃんと葉山の海にもよく行った。一度、初めて海上から打ち上げる花火を砂浜から見た。二人で横になりながら見た花火は、私達の真上で花開き火の粉が降りかかりそうで、振動も腹に響くほど迫力があった。海が花火の明かりで光り、とても感激したのである。
 それから、海の好きな私が、大怪我をして15年間海に会えなかった。電動車イスで初めて見た海は、2年前、由比ケ浜の海である。久し振りに会えた海は、心地よい海風が磯の薫を運び、私を優しく包んでくれた。また、ハワイで見た青く透き通った海は、分刻みで色を変え、とても奇麗で感激した。海を眺めていると何故か、私の心を素直な気持ちにさせ、エネルギーを与えてくれる。是非、もう一度、ハワイの海に再会したい。車イスでも、海のそばまで行かれる場所が、多くあると嬉しい。