夏の終わりに8名で、千葉県鴨川に1泊旅行に行って来たのである。老人施設で知り会いになった西大路さんから、『1泊でどこかに行きましょう』と、誘われたのである。突然な事で、どこに行こうかと迷ったが、『伊豆で新鮮な魚貝類が食べたいね』と、話が決まった。電動車イスで乗れるハンディキャブは、直ぐに予約できた。しかし、宿泊施設が、がなかなか決まらず、西大路さんと私は、車イス宿泊ガイドや伊豆の宿泊施設を本で調べたり、観光協会にも電話で問い合わせたりした。車イス宿泊できる施設を何十カ所も電話で問い合わせて探したが、予約で一杯や段差や階段、和室、エレベーターの狭さなどで利用出来るところは無かった。私のような大きな電動車イスに乗っていると、宿泊施設を探すのに大変なのを身を以て実感した。こんなにも、私が宿泊できる施設が少ないとは思ってもみなかった。私だけ旅行には行けないと、諦めかけて何気なく車イスガイドを見ていると、千葉県の施設が眼にとまり、早々、電話したところ予約がとれた。ヤッター!万感の笑顔でひとり喜ぶ。段差、エレベーター、洋室と万全である。そこが、鴨川市の『かんぽの宿潮風荘』であった。
 当日、朝早く目覚めた。前日から、心が弾み、修学旅行気分。妻のマリちゃんが支度をしながら、西大路さんの弟、隆文君が運転するハンディキャブがやって来た。途中、皆と合流したが、朝から阿部さんが早くもハイテンション。皆もつられてハイテンションに!私は、とても嬉しくなった。車は、久里浜港へ向かった。久里浜港から金谷港までカーフェリー(35分)で行く。カーフェリーには、スロープがあり、電動車イスでスムーズに乗船。怪我をしてから初めて乗るフェリーに緊張していたが、マリちゃんや菅井さん、海老ちゃんが話し掛けてくれて、私の気分をほぐされた。皆でタコ焼きを食べながら話しているとアッと言う間に、金谷港に着いた。しかし、帰りは強風で波が高く、上下、横と凄い揺れであった。私は、電動車イスが横に倒れるのではないかと心配していた時、海老ちゃんが壁と柱の間に誘導してくれ、私の横にずっと居てくれたのである。何て優しい!それにひきかえ、マリちゃんや皆は座席で横になり、グーグー。私の心配など…?
 金谷港からマザー牧場へ。平日とあって車はスムーズ。マザー牧場で昼食、牛乳、ジンギスカン、ソフトクリームを食べ、一周り。マザー牧場は、スロープが急坂で振原さんや皆が重い電動車イスを後ろから押してくれた。真っ赤なサルビア畑や馬舎、マザーランドと回ると、凄い運動量だ。感謝、感謝。道は、狭いスロープにトラクターやトラックに後ろから追われ、両脇が高い段差で横にも移動できず、とても苦労した。しかし、マザーランドで隆文君が、32mのバンジージャンプに挑戦。彼は、簡単に飛んでしまったが、2人前の小学生4年生位の男の子が鉄塔にしがみつきながら『怖いよ!怖いよ!』と大声で叫んでいた。両親は、『他の人の迷惑になるから早く降りなさい』と、30分間も説得を続け、ついに飛び下りた。周りに見ていた人達が大拍手で男の子の勇気を称えた。私も元気でいたら…絶対に飛ばない!
 マザー牧場から見える海や山並みは、私が登山をしているかのような錯覚を与えた。風が心地よく最高の気分。後ろ髪を引かれながらも鴨川の『かんぽの宿』へ。宿に着き、車から降りた途端、磯の薫りに包まれた。宿の建物は新しく、部屋は広く、料理がまた美味しい。全13品。特に、アワビの踊り焼きと伊勢海老の刺身が旨かった。また、7階の大浴場から真ん前にある鴨川シーワールドのシャチと海が見えるのは、絶景だ。夜、茂原市に住む知人の河合さん家族が訪ねて来てくれた。久し振りに会えてとても楽しかった。
 翌日、鴨川シーワールドへ。鴨川シーワールドには、殆どスロープであり、見られない施設がない。それに比べ、八景島のシーパラダイスは…何を考えているのか?残念である。イルカやシャチ、アシカなどのショーを堪能した。また、水槽の中が見える硝子ごしにイルカが見えたので、私が近付くと、何と、泳いでいたイルカが集まってきた。イルカの優しい瞳と高音の声が、私に『ガンバレヨ』と励ましてくれたのだろう。
 旅の前には、創造すらしなかった大きな大きな感動の波が、今でもおしよせてくる。心地よい自然の息吹、美しい風景が、新鮮な気持ちと素直な心を与えてくれたのだ。一緒に旅行に行ってくれた皆様、ありがとう。