100周年記念、第26回夏期アトランタオリンピック大会が行われた。盛大な開会式のクライマックス、聖火点火!水泳米国代表のエバンスが聖火台へつながるスロープを駆け上がった所に、スポットライトに照らされているムハマド・アリの姿を見た時は驚いた。アリは、聖火を受け、パーキンソン病の震える両手でワイヤーへ火を移した。ゆっくりと燃焼炉に聖火が届くと観衆はアリに向けて立ち上がって拍手と歓声の嵐。感動の一瞬であった。アリがパーキンソン病と闘っている姿、不自由な体で精一杯手を動かしている姿には、『希望と勇気、そして差別のない世界を!』と世界中の人にメッセージを伝えているように見えた。また、バスケットボール決勝のハーフタイムに、アリへの金メダルの再授与式が行われたのだ。アリは、ローマ五輪で金メダルを獲得しながら、レストランで人種差別の扱いを受けた事に腹を立て、メダルを川に投げ捨てたという。それ以来、36年ぶりに金メダルを受け取った。アメリカの偉大さ、心の広さに感動した。一時代を築いた英雄をいつまでも大切にする精神に歴史の重みを見た。
 選手入場が終わり、黒人解放運動に力を注いだマルチン・ルーサー・キング牧師の肉声テープが流された『私には夢がある』で始まり、『すべての人間が平等である。』と聞いたとき、目頭に熱いものを感じた。現実には、アメリカでも差別はまだ続いているという。黒人の教会が何カ所も放火にあっているというのだ。差別は、なかなかなくならない。日本でも差別がある。実に悲しい事である。
 日本勢の不審を吹き飛ばしたのは、女子柔道61キロ級の恵本選手。決勝、56秒でベルギーの選手を内股一本で金メダル。日本の金メダル1号である。それも女子柔道史上初。恵本選手が『神様がそばにいてくれた』という発言に実感がこもっていた。彼女は最近、家族3人を亡くしているという。悲しみを乗り越えながらの勝利だ!
 男子の方では、中村3兄弟の末子の兼三選手が金メダル。泣き虫だった兼三選手は、5才の時に兄たちに連れられて柔道を始める。しかし、濡れ雑巾のように青畳みにたたきつけられている姿を見た両親は、やめさせようとしたが、兄たちが励まし必死に引っ張った。そして、兄たちにたたかれても文句も言わず、黙々と続けて日本代表となった努力家である。金メダルを決めた瞬間、兄2人の喜んでいる姿に兄弟の絆を見た。
 今回の五輪は、女子の活躍が目についた。その中でシンクロは、日本の細い体は世界と比べて見劣りするため、選手それぞれの体脂肪、筋肉の量を増量するため、のどが渇いたら水の代わりに栄養ドリンク、寝る前には必ずケーキをほおばり、平均女性の2倍にあたる1日4000キロカロリーを摂取した。力士のような食生活を送っている。そして、和太鼓や石笛などの楽器を使い、神秘的でかつリズミカルな曲で、指先の角度まで揃う繊細な動きとダイナミックな演技。特に、最後に祭りの曲に乗って大技の『おまつりリフト』は8人全員がひとつにまとまり素晴らしい集中力で銅メダル。
 そして、日本の全国民が期待した、女子マラソンで比べものにならないほど重いプレッシャーを背負いながら、見事に銅メダルを獲得した有森裕子。さすが私の後輩。レース後のインタービューで『メダルの色は銅かも知れないけれど、悔いの残る試合はしたくなかった。初めて自分の事をほめてあげたい』とホオを伝う大粒の涙を見た時、目頭が熱く、込み上げてくるものがあった。有森選手は、生きている喜びを感じて、生き生きとしてキラキラと輝いて見えた。首にかけたのは、バルセロナの銀にも劣らない、輝きを持つメダルだった。有森選手は、バルセロナ五輪後、苦難の道を歩んだ。スポーツの裏の姿には一人一人のそれぞれの人生がある。
 嵐のような17日間で、胸が熱くなる出会いに触れることができるのが五輪。寝不足と闘いながらも楽しい毎日であった。栄光の裏には、数々のドラマが隠されている。メダルを貰うのは、ごくごく一部の選手である。敗れた選手にも大きな拍手を贈りたい。全ての選手に感謝。
 真夏の祭典が幕を閉じた。この後に、障害者のオリンピック、パラリンピックが続いてある。全ての人が平等に!というように全てがなって欲しい。パラリンピックは、何故、TV放映されないのだろうか…?