『勘弁してくだせい。お代官様。もう、食えねえです。』『まだまだ、これからよ!』伊豆高原かんぽの宿での私とウエイトレスさんとの会話。今年もいつものメンバー7人で伊豆に一泊旅行に行った。かんぽの宿は、食事が美味しくてボリュームがあると聞いていたので、皆おなかを空かして行った。『カンパ〜イ!』空腹にビールがしみる。皆、無言で料理を食べ、ピッチが早い。私も負けずに!しかし、会席料理は、1品1品と次から次へと運ばれてくる。冷たい物は冷たく、暖かい物は暖かく、サービス満点!魚介類は、さすがに伊豆とあって新鮮でとても美味しい。『アツ〜イ。ジゴクダー!』と叫びながらアワビが踊る。アワビの踊り焼きは最高!刺身にして食べるより美味しかった。やっと、デザートにありつけた。メロンを食べ終わるとほっと一息。満腹、満腹。これで食事が終わりと思っていたら、それからが大変だった!シャーベット、饅頭、抹茶と、まるで食べる私と運ぶウエイトレスさんとの戦いのようだ。弱音をはきながらも、結局、全部たいらげた。満腹すぎて電動車イスで起きて座っているのが辛い。人間、食べる苦しみもあることが分かったのだが、やはり、それは贅沢な苦しみなのか。食後、皆で花火をした。童心に帰り本当に楽しく過ごした。女性達は、ワァーワァーキャーキャー。ほほえましかった?!
 初めての伊豆高原は、西湘バイパスからの眺めとドライブも最高で快適であった。私がこの日のために用意したサウンド(カセット)も海とマッチしてグー。湘南の海から伊豆の海へと向かうにつれ、段々、海の色が蒼く、波しぶきが真っ白になり奇麗であった。
 宿に向かう途中、2カ所の美術館に立ち寄った。初めに伊豆一碧湖美術館。この美術館は、階段の横にスロープとエレベーターまで完備されていた。車イスの人や体の不自由な人には、とても優しい施設なので嬉しく思った。ただ、私の大きな電動車イスには、エレベーターが小さくてなかなか入れなかった。諦めようとしたが、ここまで来ては諦めきれず、また、カシニョールの絵が私を呼んでいたので、何とかして見ようと、電動車イスのアゴの操作を何度も切り返し、貧血と闘いながら、とうとう執念で横向きにして入った。どこを見てもギリギリ。よく入れたものである。正に奇跡!?ジャン・ピエール・カシニョール作品は、油彩、水彩、リトグラフの作品の数々であった。その中で、ファッショナブルで大きめの帽子を深々とかぶった、細身の女性の絵が多く描かれていた。また、カンパス一杯に広がる花々の作品は、太陽の日差しを浴び、生き生きと輝いている。人の絵を見れば見るほど、自分の絵と比べてしまい、落ち込みそうになる。私は、私なりに楽しみながら描ける作品作りを目指すしかない。開き直りである。
 2階のカフェレストランで一服。マリちゃんが頼んだクリームソーダーのアイスクリームが美味しいと大騒ぎ。私も食べてみたがコクがあり、とてもうまい。皆は、ソフトクリームを注文しに走り去って行った。外にはデザートテラスがあり、皆で移動。木立に囲まれた湖は水面に緑が映えて、安らぎとくつろぎに満ちていた。ずっと眺めていても飽きる事がない。アベックで行くと最高の場所。皆さん是非デート場所としてどうぞ!記念に写真を撮ろうとしたら、突然、後ろにいた老人の男性から『撮りましょうか』と声をかけてくれた。皆で大喜び!優しい気持ちが嬉しかった。その老人は、夫婦で近くの別荘にきているようだった。自然の素晴らしさと人の優しさに感激した。伊豆高原美術館にも行った。NASA宇宙博物館から日本、中国及び西洋に至るまでの幅広いコレクションが展示してある。ここにも車イス専用エレベーターがあったが、ここも小さくてギリギリであった。せっかくあるエレベーターなのに、もう少し大きくしてくれたらスムーズなのに残念。
 帰りに、伊豆海洋公園に行き、奇麗な草花を見た。急な坂道にさしかかる所で、前方から来た初老の男性に『手伝いましょう』と声をかけられ私の重い電動車イスを後ろから押して貰う。ひとりでいた時、東京から観光に来ていた男性に声をかけられ、2人で長く話し込んだ。別れ際に、オジさんが『頑張ってね!』と言われた。私は嬉しく、暖かい真心に包まれたようで、目頭が熱くなった。
 伊豆の施設は、階段や段差が多く、私の見学できる所を探すのには一苦労。車イスに優しい観光地であって欲しい。 旅は、人にいろいろなものを与えてくれる。夢、希望、やる気、感動、興奮、思い出、生きがい。そして、旅先で知りあった見ず知らずの人々とのつかの間の出会いと、別れ、それはやがてかけがえのない思い出となって甦ってくる。食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み、やりたい事をやり、言いたい事を言いまくる。旅だからこそできる。誰もが心の翼が思いっきり伸ばせるような、自由な旅ができる日本にしたいものである。一緒に旅行に行ってくれた友に感謝。