以前、私は何故、テレビでアトランタ・パラリンピックを放映しないのかと訴えていた。それが不思議と通じたのか、あるテレビ局でパラリンピックの特集をやっていた。本当は、特集でなく、日本人が出場しているその時に放送されるのがもっとも良いのだが、それでも私は嬉しく思った。パラリンピックのパラとは、『もうひとつ』という意味で、障害を持った方々の『もうひとつのオリンピック』である。アトランタオリンピックの後に、世界104カ国から3310名の選手が参加し、10日間にわたる熱戦が繰り広げられた。日本からも81名の選手が参加し、37個のメダルを獲得したのである。 各競技は、障害の程度によってクラス分けされている。男子車イス200mでは、畝選手が一気の飛び出しで26.9秒の世界新記録で金メダル。女子車イス800mでも、田中選手が2分43秒17の世界新記録で金メダル。田中さんは、37歳の主婦で、何よりも走るのが好きという。父親を亡くし、悲しみを乗り越えて手にした重い金メダルであった。 水泳では、成田選手は、女子100m自由型でドイツのカイ・エスペンハーエン選手との熾烈な戦いの末に、1分36秒23の世界新記録で金メダル。その他に金1銀2胴1メダルを獲得。成田さんは、表彰台で金メダルを首にかけて貰った時に、障害になった時に落ち込んだ自分との葛藤や反抗などを思い出していた。そして、水泳のきっかけを与えてくれた仲間達の顔が出てきたそうである。過去の様々な出来事が一瞬のうちに脳裏に浮かび、仲間達と喜びを分かち合っている笑顔は、障害を克服して生き生きと輝いて見えた。その他に、両手がない選手が、背泳ぎやバタフライで泳いでいる姿に感動した。泳ぎを見ながら、何故か自然に涙が出てきた。人が一生懸命に何かをしている姿は本当に素晴らしいと思う。 眼の不自由な方のスポーツも多くあった。全盲男子100m自由型で河合選手が金メダル。全盲選手の場合、泳いでいる途中にコースロープに引っ掛かったり、真っすぐに泳ぐのは難しい。ターンやゴールタッチは、係員が長い棒で選手の頭をたたいて知らせる。たたくタイミングが難しいと思った。その他に、トラックレースでは、ガイド役を努める伴走者と一緒に走る。スピードが上がれば上がるほど2人の息がピッタリと合ってなければならない。フィルド競技(走り幅とび)ではガイドの手をたたく音や大声を聞いて方向と場所を確認する。選手は、上手に踏み切りを合わして飛ぶ。恐怖心を克服している姿に、勇気と心の強さを感じた。私も知らないゴールボールというスポーツがあった。ゴールボールは、眼の不自由な人々を対象にした音だけを頼りに行うスポーツ。ドッチボール大のボールの中に鈴が入れてあり、ボールを転がしながら相手のゴールへ入れると得点となる。3人1組で行い、防御と攻撃に分かれる。防御は、3人が体を横に倒れてゴールを守る。ゲームを見ていると誰もが直ぐにやってみたくなるスポーツだと思った。柔道で眼の不自由な人は、お互いの位置を組んで確かめてから試合が始まる。初の国際舞台で、ロシアの選手を背負い投げ1本で藤本選手が金メダル。 走り高とびでは、片大腿切断者がピョンピョンと跳ねながら190pをクリアーした。また、両下腿切断者が義足で100mを11秒台で走り、車イスマラソンでは、起伏の多いコースを1時間29分で完走するなど、いずれも素晴らしい記録となった。しかし、総ての選手が勝者というわけにはいかず疾走中に転んだり、コースを間違えて失格になったりした選手もいた。今、身体の動かせる限りを尽くしてゴールへと向かう姿は、障害が有る無しに拘わらず、見ている人を釘づけにする。ゴールを切った選手達は、精一杯競技した達成感を身体全体で現していた。笑顔が何とも素晴らしい。乗馬競技では、馬を驚かせないために観客は拍手の代わりに両手を頭上に挙げ、ひらひらと振って見せるのを初めて見た。 パラリンピックを支えたのは、1万人を越えるボランティアである。中学生・高校生、中年の働き盛りの人達までが、ボランティアとして活躍している。中には、車イスの人がボランティアで活動に参加している人もいた。手伝った子供達が、『普通の人と同じだって解った』『この大会に出場している選手の方が、五輪選手よりスゴイと思う。障害があるぶん強くなくちゃいけないからね』と言っていた子供達には、一生忘られない夏になったと思う。パラリンピックは、ボランティアの人が集まらないと実行できない。日本で実施できるだろうか…! 障害者スポーツは、特別なものではなく、障害ない方がスポーツを楽しむ事と同じである。人間らしく生き生きととした人生を送るうえで、当たり前の事である。障害を負ってから、症状が固定し、安定したら、もうその人は普通の健康な人と同じなのだ。人は、大きな感動や想像を越えるものと出会った時、新しい自分自身の発見がある。パラリンピックは、私の魂を揺さぶり、何かを語りかけてくるように感じた。 |
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