最近、人との出会いはつくずく不思議なものだと思う。人間は、出会った瞬間に馬が会うか会わないかを感じてしまう。少ししか会ってなくても、まるで昔から知っている人になってしまう事もある。何故なのだろう…。
 先日、入浴でお世話になっている老人施設の職員であった友人が遊びに来てくれた。彼は、私の入浴担当者ではなかったのだが、時々施設で会った時、『こんにちは!』と挨拶する程度の仲だった。だけど、なんとなく気になる存在であった。ある時、入浴した私を、ベットから電動車イスに移す時、人手が足りない事があった。その時、偶然通りかかった彼に手伝って貰った事があったのだ。それから話をするようになった。話をしてみると、彼は高校で野球をやっており、バリバリの体育会系出身だった。私との共通点がそこにあったのだ。なんとなく、それから急速に親しくなり、楽しい話をするようになった。彼は、高校卒業後、母校野球部のコーチを手伝ったりしながら、福祉の専門学校に通い、老人ホームのワーカーとして働くようになった。結構、体格も良く、いつも明るく元気に施設で働らいていた。しかし、1年前に仕事の影響もあって、腰痛がひどくなり、立つ事も困難になり、やむなく施設を辞めざるおえなくなってしまった。
退職後、彼は6カ月間、リハビリに励んで腰痛を克服した。その彼が、後輩をつれて遊びに来たのだ。今はトラックの運転をして頑張っているという彼は、元気そうで嬉しく思った。2人は、同じ高校の野球部出身。先輩後輩の仲だという。母校の野球のコーチを手伝っていた時に、当時、1年生の後輩と知り合った。名門の高校とあって、野球の練習は厳しく、夜遅くまで続く。守備がうまくなって、レギュラー選手として早く活躍したくて、先輩のコーチにノックを頼んだと言う。練習後のノックはひどく疲れ、辛いものであるはずなのに、全く辛く感じなかったと言う。先輩の彼は、『こいつは、気持ちの良い奴だから…』と何度も私に言いながら当時の思い出話をした。私は、2人の話を聞きながら、2人がノックしている姿を思い浮かべた。その後、後輩は、腰痛のために好きな野球が続けられなくなったと言う。入院となり、その時は死まで考えたと言う。無気力な状態のままリハビリ室に通うようになった時、患者と一緒になって治療をしている理学療法士の真剣な姿を見るうちに、自分も『理学療法士になろう』と思ったと語る。その決心をする時も『先輩』に相談して励まされて、理学療法士の道を目指したのだと言う。高校時代、先輩がノックしてくれなければ、今の自分はなかったとはっきりと言いきっていた。後輩は、体育会系出身だから、今こんなに勉強する自分は初めてだと眼を輝かせながら言っていた。人との出会いによって、目標を持ち、強くなり、成長する事もあるのだと思った。まだ若い2人の姿と話を聞きながら、なんとなく心が暖かく、ほのぼのとした時間を送る事ができて嬉しかった。
 私も何とも不思議な出会いが多くあった。それは、受傷後、手足が動かせなくなった時期に、自分のイライラした気持ちを看護婦さんに当たり散らかしていた。その時、とても信頼していた看護婦さんが私を叱ってくれたのだ。その事で私は、感謝の気持ちに気づかせて貰った。また、突然の大怪我で失意のどん底でもがき苦しみ、死を考えていた時、妻のマリちゃんの支えで立ち直る事も出来た。
 リハビリセンターでも、ある看護婦さんと出会って助けられた。その看護婦さんの長男が、私の大学の後輩とあって、何かにつけ『先輩だから』と、声をかけてくれた。『元気を出して頑張らなきゃ』とか、『奥さんのマリちゃんのためにも辛さを乗り越えなきゃ』と、勇気づけて励ましてくれた。時には、弱音をはくと『しっかりしろ!道和!』と、本当の母のように接してくれたのである。私を精神的にも強くしてくれた大恩人である。また、訓練の時間に体育があったが、そこに私の大学の2年先輩がいたのには驚いた。その先輩は、私が相撲部の合宿所で生活していた頃、よく合宿所に遊びに来ていた先輩であった。こんな事があるのかと驚いてしまった。その先輩からは、頚髄損傷の情報から障害者スポーツなどを教わった。そして、障害を持った多くの知人に紹介して貰い、心強くなった。
 私は、2年前から訪問看護婦さんに来て頂いている。その看護婦さんは、リハビリセンターでよく喧嘩をしていた看護婦さんだったのにはビックリ!。今では、お互いに性格と体系も丸くなり、良き相談相手になってしまった。
 現在の私が、エッセイを書いたり、講演をするようになったのも、不思議な"縁"によって挑戦するようになったのである。思い出してみると多くの方に支えられている自分である事に気がつく。人との出会いは、偶然と言うか、縁と言うか、運命的なものを感じる時がある。素晴らしい事がたくさんあるので大切にしたい。"縁"とは実に不思議で深いものである。しかし、世の中"良い縁"ばかりではないかもしれませんね…!