『皆さん、今日は!私は横浜から来ました伊藤道和です。私は、19年前にマット運動の前方宙返りの失敗して、頚髄損傷になりました。レベルはC4です。自宅では…。』と自己紹介。これは、第2回『はがき通信』の懇親会に初めて出席した時の事。『はがき通信』とは、頚髄損傷による四肢麻痺者の集まり。全国にいる頸髄損傷者から寄せられる生活の工夫、福祉機器の細かな情報や就労問題などをそれぞれが自らのパソコンやワープロを操作して、情報交換をする情報誌の事である。その『はがき通信』を読んで、励まされ勇気づけられた人は数多い。私もそのひとりであった。
 懇親会は、全国から約50名が集まり、半数が車イス。アゴで操作する電動車イスも一度に4台が集まった。頸髄損傷を研究されている浜松医大教授松井先生も出席され、最新の情報を提供してくれる。今回は、カナダ脊髄損傷協会ブリティシュ・コロンビア支部から来日されたアイリーンさんの講演。彼女は、元看護婦でベンチレータ者の医療制度の改革をされた人である。講演は、通訳を入れ、カナダでのベンチレータ(人口呼吸器)使用者を対象としたグループホームや在宅者の生活ぶりをスライドで紹介。それを見て驚嘆した。それは、日本のベンチレータ者はベッドに寝たきりの状態で、気管切開のため会話もできず、何もできないのが当たり前である。自分の要求を社会に伝える事もできない。家族は、在宅では吸引と吸引の間しか自由時間がなく、ストレスに満ち溢れた生活をしている。入院者は、退院勧告に脅えながら、病院スタッフに極度に気を遣い、少しでも入院していられるように願っているのが現状。しかし、カナダのベンチレータ使用者は、日本と全く違う生活をしているのだ。喉からベンチレータの管をぶらさげ、スピーキングバルブを使用して会話ができるようになっている。おまけに、電動車イスにポータブルのベンチレータを積んで、ひとりで外出までしているのである。これは、凄い驚きである。現在、日本でもカナダ製のスピーキングバルブを使って、会話ができるようになった人も数名いるが、まだごくわずかな人だけらしい。スピーキングバルブも知らない人達が殆ど。日本では、ベンチレータの値段が高い。保険適用外なので、自己負担になってしまう。日本でも医療制度の改革が必要だと思う。
 懇親会には、友人の阿部さんと2人で、新幹線のこだまを利用して浜松市に行った。以前、大阪まで新幹線を利用した時は、古い電動車イスだったので車イス用の個室が利用できず、がっかりした事があった。今回は、新しい電動車イスになったので再挑戦してみた。個室には、バックでなかなかすんなりと入れず、通路をふさいで、何度も電動車イスを切りかえていた時、突然、私の両足の上をまたがり乗り越える若い女性がいた。その女性は、なんと新幹線内でお土産などを売る女性だった。個室へ電動車イスの誘導を手伝ってくれていた車掌さんがそれを見て、大きな声で『お客様を乗り越えるとは!』と怒っていたが、その女性は振り向きもせず、走り去って行ってしまったのである。突然の事で『エ〜?どうしたの、若い女性が抱きついてきた』と思ったが…。スカート姿なのに、あまりの大胆さと迫力に驚いて、私は声も出ず。とにもかくにも、新しい電動車イスは小回りができるので、個室にギリギリに入れたのである。初めて入れた事は喜びであったが、窓が小さいので圧迫感があった。私が大きすぎるから?それにしても、あの女性よっぽど急いでいたんでしょうねー。トイレだったのかな?
 実は、帰りにも大変な事があった。午後に静岡県地方で地震があり、浜松駅の新幹線上りのエレベーターだけが止まってしまったのである。そんなに大きな地震があったとは、全く気がつかなかった。エレベーターが動かないと新幹線のホームまで上がれないし、…困った。新横浜駅には予定した時刻にハンディキャブを待たせているので焦っていた。駅員さんからは、『今からエレベーターの業者を呼んで、点検してもらいます。』と言う。絶望感で一杯だ。今日中には帰れないかも…。クスン!ゴリラには涙は似合わないか…。阿部さんとふたりで落ち込んでいた時、駅員さんが『この電動車イスは何sあるんですか?階段で持ち上げましょうか』と言った。私は、『電動車イスと私で200sはありますよ』と話ながら、階段が何段あるのか見ようと改札口に移動。するとエスカレーターがあった。私は、やった!と思った。以前、大阪に行った時、エスカレーターを利用した事があった。早速、駅員さんに説明して、3人の駅員さんに電動車イスを支えて貰いながら、無事ホームに上がった。ホッとする間もなく、こだまが到着し、乗車できた。旅とは、いろんな事が起きるものである。だから楽しい。ホッ!外出するとやはり世界が広がり、自信がついて楽しい。同伴してくれた友人に感謝!一人でも旅に出る勇気が必要なのだが…。街やホテルでも自分から遠慮なくお願いする事も大切ですね。いつか一人旅、実現するぞ!?