『こっちがシャンプーかね?』『前の所にシャンプーと書いてあるでしょ!』『見えないね、リンスと同じ形だし、分かりにくいね』我家の会話。プルプルプル電話のベル『…ハイお待ち下さいね』『マリコさ〜ん電話、どこ押せばいいのー。』72才の母は、2階から1階への電話の転送がいつもうまくできない。ボタンの位置や字が小さく見えにくいので、時間がかかる。父は80才、母は72才、まだまだ元気で家族で仲良く生活している。私が大きな苦労をかけてしまっているのが一番心苦しい。元気といってもやはり年令には勝てない。マリちゃんにしても、頼んだ買い物も忘れてしまうほどである。
 日本は、先進国と言われているが、福祉に関しては後進国である。アメリカやカナダ、スェーデンと比べると、福祉機器、介助、交通機関など、何ひとつとっても比較にならないほどとても遅れている。しかし、そんな日本の中で、唯一胸のはれることがあった。それは、障害を持った子供達のおもちゃである。日本では、18歳以下の障害を持った子供は、10万人位いる。その子供達が今まで遊べるおもちゃがなかったのである。その事に、玩具会社の男性が気がついた。そこで、1年間に1000人の障害を持った子供と接して、一緒に遊びながら多くの商品作りをした。1992年に国際玩具産業協議会で、日本のバリアフリーおもちゃが紹介されて、世界中から注目を集めたのである。それまで、どの国にも障害を持った子供達のおもちゃがなかったらしい。それ以来、アメリカ、イギリス、スエーデンなどの、多くの国で同じような活動が始まったのである。おもちゃには、犬のマークは眼の不自由な方用、うさぎのマークは聴覚障害者用に表示されている。私も、障害を持った子供達のおもちゃがなかった事を知らなかったのだが、おもちゃを使う事によって残された才能を伸ばす事になるのである。
 現在では、バリアフリー化は進んで生活製品にまで及んでいる。皆さんも気がついている方もいると思うが、電器製品の入切の部分の入に小さなポッチがついていたり、ヘッドホーンの左右を間違えないように、点字で左右が確認できるようにポッチがついている。また、缶の中身がビールなのかジュースなのか触って分かるように、点字で表示をつけているメーカーが増えてきている。カードに至っては、皆同じ大きさなので区別が出来ない。そこで、カードをテレホンカード、買い物カード、乗り物カードの3つに分けている。テレホンカードは、カードの右下端を丸く切りぬきされて区別されている。買い物カードは四角に、乗り物カードは三角に切りこまれている。このように決まるまでには、2年間の苦労があったらしい。JIS規格に採用されるまでには長時間かかる。こうして、バリアフリーの製品は、今少しずつ増えて来ている。健常者も、シャンプーやリンスの間違えをするように、眼の見えない人も分からない。そこで、シャンプー容器の横には、ギザギザの凹凸で確認できるようになっているものもある。これから、高齢者社会がやってきた時、誰にとっても使いやすいバリアフリーの物作りが、益々重要になると思う。段々、街が整備されると共に、障害を持った方達が、今以上に街に出られるようになると、そうした時に障害者も高齢者も一緒に使えるものが大事ではないかと思う。そして、健常者の心のバリアを取り除く事である。
 最近、障害を持った方が、国内・海外に旅行する機会が増えている。そこで、各航空会社もサービス機関ができている。日本航空では、『プライオリティゲスト予約センター』がある。プライオリティゲストとは、身体の不自由な方や病気や怪我などをしている方に、航空機を利用する際に早めの手配や準備が必要な方を万全な体制で、迎えるためのセクションである。このセンターは、電話とFAXによる対応だが、9時から17時まで年中無休で、問い合わせに対応している。国内線や国際線の航空機の利用だけでなく、専門外の海外の透析病院の照会や車イスで泊まれる宿泊施設の問い合わせもしてくれる。また、海外の旅先での怪我をした方の医療付きでの帰国の手配までしてくれる。何事も遠慮なく言う事が大切。『プライオリティゲスト予約センター』TEL:0120-747707、FAX:0120-747606。
 元気な人は、福祉と言われてもあまり関心がないと言う人が多いかもしれないが、これからはそういう事を言ってられない時代になるのではないかと思う。誰でも必ず年をとり、身体が不自由になったり、精神の病にかかったりした時、住み慣れた家、住み慣れた地域で、安心して暮らす事ができるかどうかは、ひとりひとりが普段からどんな福祉を望み、どう行動するかに大きく拘わってくるのではないかと思う。