『都会の喧騒を抜け出して、緑あふれる森をのんびり、ゆっくり歩く。鳥のさえずりに大きく深呼吸。風が心の雑音を洗い流して、不思議な元気が湧いて来る。』 先日、神奈川県頸髄損傷者連絡会の主催する、1泊2日のキャンプに参加した。キャンプ場は、南足柄市の"足柄ふれあい村"。そこまで、ボランティアさんが運転するハンディキャブを利用した。遠くから見た足柄の山は、何のへんてつもない木々に見えたものが、森に近付くにつれ力強く息づき、1本1本の樹々から、深く豊かな生命の存在が感じられ、森は、私になにかを語りかけてくるようだった。私は、久し振りに大自然の中に入り、感動する心が再び甦ったようであった。"足柄ふれあいの村"は、身障者対応コテージがあるので、車イスの人でも緑の中で安心してキャンプが楽しめる。私は、怪我をしてから初めてのキャンプで緊張。毎年8月の下旬に、キャンプが行われていたが、暑さに弱い私は今まで1度も参加しなかった。しかし、今年から9月の中旬に変更されたので参加してみる事にした。
 車イス20名とボランティアさんの総勢60名。私達のキャンプは、やはりボランティアの方々の力が必要不可欠。心から感謝したい。その中で9歳になる女の子がいた。最初は、車イスの人に躊躇し、恥ずかしそうにしていたのだが、車イスを押す手伝いをしているうちに、徐々に私達に溶け込んでいった。子供の適応力というか順応性というか、素直で柔軟な心には驚かされる。キャンプ場は、急坂が多く、女の子が車イスを押すのは大変。一生懸命押している姿はほほ笑ましくもあり、嬉しくもあった。私は、ひとり悠々と電動車イスで楽に坂を登った。きっと私の電動車イスを見ながら"いいナ〜"と思った事だろう。連れて来ていたお父さんも、娘にいろいろな事を学ばせようとしているのだろう。ステキな親子に心が熱くなった。オリエンテーリングには、車イスの扱い方や車イスからベットの移動の方法も組み込まれおり、初めてキャンプに参加したボランティアさん達は、『良い経験になった』と喜んでいた。結局、オリエンテーリングで、私達の班が1位となり、賞品まで戴いた。私は、皆の後をついて回っただけなのだが…。
 喜んでいる間もなく、眼の前がグラグラ〜。眼の前が真っ白!私は、身体がマヒしてから血液循環が悪く、普段でも脳の酸欠からくる貧血がよくおきる。電動車イスをリクライニングするだけで、直ぐに回復。しかし、キャンプ当日は、台風一過後で高湿度と高気温。私は、体温上昇からくる低血糖の貧血だった。低血糖で、貧血をおこす事はめったにないが、この日はオリエテーリングのため、直射日光を浴び過ぎてしまった。汗を全くかかない私は、熱がこもり体温がどんどん上昇し、胃もスカスカして脱力感に襲われた。直ぐに、体温を下げて、何か甘い物を食べないと、どんどん貧血がひどくなる。私は、体温を下げるために、水の入ったエアースプレーを顔や腕に吹き付けて貰った。霧吹きの水が、冷たくて気持ちが良いのだが、なかなか体温が下がらない。何度も霧吹きをかけて貰いながら、食べ物を探した。車イスの方やボランティアさんに、『誰か、食べ物持っていませんか?甘い物くださ〜い。』と尋ねていると、ボランティアさんから饅頭を戴いた。早速、まるごとほうばりたいらげた。それでも満腹感がなく、貧血が回復しない。その時、キャンプ場までハンディキャブを運転して戴いた、ボランティアさんがお菓子とコーラーを買って来てくれた。この優しさにまたもや感激。お菓子を食べさせて貰いながら、コーラーをガブ飲み。コーラーの甘さと炭酸で満腹になり、だんだん貧血が回復した。その頃、皆は夕食の準備やら、そよかぜ広場ではキャンプファイアーの準備。食事も出来上がり、野外パーティーの始まり。皆で料理を囲む。私は、雑誌の取材に来ていた奇麗な女性に、食事を食べさせて貰った。ライターであるその女性は、初めての食事介助に多少緊張はしていたが、会話が進むにつれて、カレーを上手に食べさせて貰った。私は、若い女性でドギドキしたせいもあって、料理の味が最高だった。陽が沈むと澄んだ空気が心地よい。電気が消され、キャンプファイアーに火が灯されると、夜空一杯に星が浮かび上がった。久し振りに見る星に感激。楽しいゲームも終わり、高く積まれた薪も崩れ、火が段々小さくなるのを眺めていると、なんだか心が洗われた。
 初めてのキャンプは、ボランティアさんの細やかな気配り、暖かい触れ合い、機転の利いた手助けなどが忘られない思い出となった。ハンディキャブを運転し、一緒に参加して戴いたボランティアさんの田中さんに厚く感謝。