『伊藤さん、雪が降っていますよ!』エー!雪が…。どおりで寒いと思った。今日は、3月31日でしょう。こんな時期に雪が降るとは…信じられない。平成13年3月24日から4月1日まで、横浜らいずにショートステイに行っていた。当日は、ワーカーさんに起床介助(着替えや電動車イスに移動、洗面など)をしてもらい、部屋の外に出た。冷たい空気とみぞれまじりの雨が私のデカイ顔にかかり、一瞬にして眼が覚めた。私のはく息は、まるでゴジラが口から火を吹くように真っ白になった。私の部屋は居住棟の横、つまり外にあり、居住棟に行くには約4mの屋根のある通路を通らないといけない。居住棟には、自室やリビングダイニングキッチン、お風呂やトイレがある。私の部屋は個室で、天井走行のリフト付き。私のデカイ身体を電動車イスからベッドに移動させるには、とても便利である。また、浴槽にも天井走行のリフトが付いている。このリフトがあるからこそ、ひとりの介助者で私を移動させることができるのである。それに、何と言っても個室は、プライバシーも守れるので嬉しいことだ。
 その日は、午後から本格的な雪になり、パソコンのボランティアさんが2人、らいずまで尋ねてくれる日だった。昨年から、私のホームページ作りに、デジタルボランティア630のメンバーから4人の方に、自宅で講習を受けている。ホームページで、水彩画の作品の紹介やエッセイを読んでもらおうと思ったからである。ボランティア皆様のお陰で、殆んど出来上がっているのだが、この日はデジカメで、桜の木をバックに電動車イスに乗った私を撮ってもらう予定でいた。しかし、あいにくの大雪で、急遽らいずのホールを借りることにした。ホールに入ってビックリ!翌日、らいずの式典のため、壁全体に紅白の垂れ幕が飾ってあったのだ。一瞬におめでたい気分になった。ゴリラがいい顔で写っているかも…?私ひとりでは絶対にできなかったであろうホームページの完成まであとわずか。
 らいずは、ショートステイ中でも自由に外出ができる。川崎市に同じ障害を持つ、美人の友人がやっている障害者地域作業所『手作り工房ウィンドウ』の見学に出掛けた。外出前日まで、ハンディキャブを運転してくれるボランティアさんは決まっていたのだが、付き添ってくれる方がいなくて困っていた。そのとき、らいずで働く職員さんが自分の奥様を紹介してくれたのだ。奥様は、横浜市のガイドヘルパーの経験を持つ、明るくて綺麗な方であった。初対面なのに初対面とか感じられない雰囲気があった。ウィンドウでは、友人の北島さんが握力のない手で、小袋にする布に染料で色使いを考えながら丁寧に着色をしていた。そんな彼女の真剣な姿に、作品への思いと優しさを感じた。『精一杯何かをやってみたい!』と障害者を持った仲間が集まり、手作り品を通して社会参加するための創作活動をしているのだ。立ち上げには、大変な苦労があり、皆さんの粘り強い努力の結果、現在多くのボランティアさんと共にバザーや各種イベントに参加し、地域との交流を図っている。また、街づくりやボランティア講座などの活動も行っているのだ。そこで作られている製品は、手染めエプロン・手染め小袋(大・小)・手染めお弁当袋・手染めランチョンマット・キルティング製品・箱ティッシュカバーなどが作られて販売されている。連絡先は、Tel:044−277−3113 ウィンドウは、閑静な住宅地にあり、私の大きな電動車イスが自由に動けるほど広く、和やかな雰囲気と皆さんの明るさと優しさで居心地が良かった。皆さんも是非、見学に行かれるといいです。
 昼食後、北島さんに川崎大師を案内してもらった。川崎大師は、バリアフリーなので、仲見世や境内、参拝上まで電動車イスで行け、お賽銭をあげてお参りすることができる。帰りにおみくじを引くと"大吉"だった。昔、マリちゃんや家族と歩いた道を懐かしく思い出しながら電動車イスで進んだ。それから22年ぶりだった。
8日間のショートステイ中には、高校1年生の女の子とも知り合った。彼女は、ヤングボランティアに募集をし、らいずに2日間のボランティアとして来ていた。初めてのボランティアにもかかわらず、いろいろな障害を持った方と自然体で接しているのには驚いた。彼女には、全く壁がないのだ!まだまだ、日本もすてたもんじゃない。若い人たち、輝いているヤツが多いのだ。
 らいずは年度末とあって、移動や退職する方もいた。若い人が退職するには、いろいろな事情もあると思うが、職員の勤務状況が過酷すぎるのだ。職員の方は、めいっぱい働いているが、これでは長く続かないのである。福祉の仕事というと、ボランティア精神が必要だと言われるが、精神だけでは生活できない。精神はそうであっても人員を増し、待遇をよくしないかぎり魅力ある職場とはならないのだ。障害者があってもなくても、安心して生活できるような日本であって欲しいものだ。