最近の生活は、毎朝パソコンのEメールチェックから始まっている。そんな中、"障害者の文化活動・レクリエーションに関しての情報ML"から、中区パイフィコ横浜で『ヨコハマ・ヒューマン・テクノランド』のイベント紹介が目にとまった。2日間にわたり、『21世紀の福祉を支えるリハビリテーション&アシスティブテクノロジー「近未来の福祉機器,ロボット,障害者とIT,障害者スポーツ体験」など』と書かれていた。横浜で福祉機器などのイベントとは珍しい。早速、ハンディキャブ(天井の高いリフト付きの車)の予約をした。自宅にいながら多くの情報が得られるパソコンは、現在、私にとって必需品となっている。車イス同様に、身体の一部になる日も近いだろう。
 6月中旬、友人とパシフィコ横浜へ出掛けた。会場に入ると、"ITによる生活支援と可能性"のトークセッションが行われていた。壇上で話している人を見ると、"ごぼうハウスPC"所長の岡村さんだった。彼は、車イスに乗った男前の優しい人だ。ごぼうハウスは、障害を持った人がパソコンの操作を学べる地域作業所である。私もホームページ作りのために、ボランティアさんを紹介してもらったり、口で描いた水彩画の絵をスキャナーで取り込んでもらったり、何かとお世話になっている。ふと、岡村さんの隣を見ると、見覚えのある男性が…なんと私が昔勤めていた高校出身の磯辺君である。以前、彼のことをこのエッセイで紹介したことがあるが、高校在学中、新体操の部活中に首を骨折して、私と同じ頸髄損傷者となってしまった。彼は、握力のないわずかに動く手でパソコンのキーを打ち、ごぼうハウスで仕事をしながらパソコンを学んだのだ。現在、彼女ができ、パソコン関係の会社に勤めていた。彼の頑張りに嬉しく思った。男は、彼女ができると、より一層パワーが倍増するから不思議である。仲がいい2人を横目に、各ブースの展示場を回った。
 最初のブースは、"パラ・スポーツで活躍するテクノロジー"と、車イスが展示してあった。バスケットボールやテニス、車イスマラソンなどのスポーツ用車いすは、軽量でスタイルがよく、種目によって形が違っている。その中に、2002年ソルトレイクシティ・パラリンピックモデルのチャアスキーが初披露されていた。1本のスキー板の上に、流線型の座席が取り付けられていて、それを支えているサスペンションの開発が大変らしい。雪の斜面の凹凸を弾まないように、安定させるのが難しい。長野パラリンピック大会で、日本選手が大活躍の裏には、選手と研究者が一緒なって開発された技術力のお陰もあるのだ。ソルトレイクシティ大会での日本の選手の活躍が楽しみだ。
 次のブースには、大きな三輪のバイクが展示してあった。バイクは白色で、ガッチリして安定感があり、何といっても後輪のタイヤの幅が30cm位あるのには驚いた。F1で使用するようなタイヤのようだ。壁には、『夢を実現させた三輪バイク〜タロのアメリカ横断冒険日記』と書かれていた。旅行中のビデオや写真を見ていると、車イスに乗った本人と話すことができた。彼の通称は、"たろ(服部一弘)"。22歳の時、北アメリカ大陸一周の旅にチャレンジしていた折、事故で半身不随になってしまった。それから14年、2輪バイクを3輪バイクに乗り替え、絶望の淵から立ち上がり、2000年の節目の年に、1900年代にやり残した北米大陸一周の夢に再びチャレンジしたのだ。シドニーからロスアンゼルスまで、59日間をなんとひとりで横断したのである。途中、バイク故障で7度のトラブルを乗り越えている。現在の顔と写真の顔の違いを見れば、旅の過酷さが伝わってくる。写真の顔は、痩せこけて眼がギラギラとして、なにか恐い感じがした。彼が一番恐い思いをしたのは、高速道路でバイクが故障して動かなくなったときだという。たまたま、車を止めて故障を手伝ってくれたアメリカ人の方が、『君は、ラッキーだ、私で良かったよ』と言われたらしい。高速道路で止まると、殺される確率が多いらしいのだ。それを聞いて、アメリカの治安の悪さがわかる。いろいろと話してくれた彼は、顔がイキイキとして自信に満ちていた。彼の行動力は、誰にでも希望と勇気を与えてくれるものだと思った。
 その他、多くの展示やファッションショー、電動車イスサッカーのデモンストレーションや車椅子のままジョイスティックのみで道路を走る自動車の展示など盛りだくさんであった。その中で、目新しいものは、車いすが転倒すると瞬時に膨らむエアバック式のベストであった。また、前日には、パラリンピック金メダル者のトークショーもあったらしい。会場内に、設置されたコースで、超ハイテクの車イス・電動車イスの操縦体験や、ビームライフル・トライアル(10m先の標的をねらってライフルを撃ち,点数を競う競技)、楽しみながら科学的に機能回復や筋力トレーニングができるゲームマシンなど、障害がある・ないにかかわらず誰もが体験できるのが大変良かった。体験することによって、障害を持っていても福祉機器を利用すれば、自立や社会参加などできることが理解してもらえたと思う。来年もこのイベントが開催されることを願っている。