★Book Review 16 (76〜)


『The Black Echo』 Michael Connelly 418pages (1992)

ハリウッド殺人課刑事ハリー・ボッシュは貯水池で発見された死体がベトナムでの戦友であることに気付く。彼らは、ベトナムの地下に張り巡らされた ゲリラ用のトンネルを偵察する部隊に所属していたのだ。 捜査をすすめるうち、彼が1年前に起きた金庫破りと関連があることがわかる。この銀行強盗事件を担当するFBIの女性捜査官と捜査をすすめるボッシュだが・・・。

邦題「ナイトホークス」。ハリー・ボッシュ・シリーズ第1作。
ハリー・ボッシュは有能な刑事だが、組織にはなじまないゆえに内部監査局から目を付けられ、左遷されたりもする。 ベトナム帰りで一匹狼。ありがちな設定のハリー・ボッシュだが、他と一線を画するのは、彼の心の中に「justice」に対する明確基準があ ることだ。そしてこのためにラストにはある悲しい決断が待つことになる・・・。 今後も彼の「justice」に注目してこのシリーズを読んでいきたい。
オススメ度は、"★★★★"。

2001/08/18読了


『The Last Precinct』 Patricia Cornwell 468pages (2000)

「狼男」の魔の手から危うく逃れたリッチモンド検屍局長ケイ・スカーペッタだったが、直後にトラブルに巻き込まれる。「狼男」ことシャンドンが、ケイが自ら招き入れ逆に殺そうとしたと証言しているというのだ。 さらに大陪審が、「狼男」に殺されたはずの警察署長代理の容疑者としてケイの捜査を開始、最大の危機に直面する。果たしてこれらの陰謀の裏にあるものは。

検屍官ケイ・シリーズ第11作。邦題「審問」。
10作目の翌日から始まる本作は、前作とあわせて1つの話となっている。 前作での遅いストーリー展開がうって変わって、今回はケイは数多くのトラブルに次々と巻き込まれていく。そしてベントンの死やここ数作にかけての背後にある大きな犯罪 が一部明らかになるラストを迎え、このシリーズ久々の読み応えのある作品に仕上がっている。とはいえ、またまた結末が次作に持ち越しになったのには不満が残るが・・・。
検屍官を辞職した、今後のシリーズ展開はいかに。オススメ度は、"★★★★"。

2001/08/25読了


『A Maiden's Grave』 Jeffery Deaver 419pages (1995)

3人の凶悪な脱獄囚が聾学校のスクールバスを乗っ取り、8人の少女と2人の教師を人質に古い屠殺場に籠城した。FBI交渉人アーサー・ポッターは亡き妻の結婚記念日に呼び出され、現場へと向かう。 そして犯人との間で息詰まる駆け引きが始まった。

邦題「静寂の叫び」。
リンカーン・ライムシリーズでお馴染みディーヴァーのノンシリーズ。彼らしい緻密なプロットとストーリーテリングで、 ラストまで一気に引き込まれた。原題の「A Maiden's Grave」とはそのまま訳せば「乙女の墓」。 しかし、人質のひとりの女教師が、聴力が失われつつあるときに「Amazing Grace」と兄が言ったのを「A Maiden's Grave」と聞き違えたというエピソードが挿入されており、このタイトルは2重の意味を持っていることがわかる。 「Amazing Grace」は有名な賛美歌であり、デビアスのCMにも使われていたのでご存じの方も多いだろう。この歌は殉職警官の葬儀にバクパイプなどで演奏される曲でもある。 この2つのタイトルが示す意味を考えながら読んでいくのも楽しいかも知れない。
オススメ度は、"★★★★"。

2001/09/01読了


『Archangel』 Robert Harris 415pages (1998)

シンポジウムのためモスクワに滞在する英国人歴史学者ケルソーの元に一人の老人が現れた。彼はNKVD元長官ベリアの部下で、スターリンが死に瀕した際ベリアが秘密のノートをクレムリンから持ち出し、 隠したのを見たというのだ。姿を消した老人の娘を捜し出しノートを手に入れたケルソーは、ノートに書かれている出来事の真偽を確かめるべく、シベリアの町アルハンゲリスクへと向かう。

邦題「アルハンゲリスクの亡霊」。
ベリアの死の謎にヒントを得て書かれた、冷戦後のロシアを舞台にしたフィクション。ベリアはNKVD(KGBの前身)の長官で、スターリンの 死後、フルシチョフと権力の座を争った人物。クレムリンに呼び出され、そのまま反逆罪で処刑された らしい。らしいというのは、ずっと事実は隠されたままで謎として扱われていたからだ。 (こんなことが、あっという間に調べられるインターネットって凄い・・・)
ナチス関係の2つの小説の次にロシアが舞台とは、いかにもロバート・ハリスらしい。しかし話のプロット自体は面白いのに、読了後に何か物足りなさを感じた。もっと面白く出来るはず、という気がしてならない。
オススメ度は、"★★★★"。

2001/09/17読了


『Blue Plate Special』 Ruth Birmingham 215pages (2001)

アトランタの女性探偵、サニー・チャイルズはレストランのトイレで用を足していたところ銃声を聞いた。慌ててパンツを上げ、表に出てみるとティーンエイジャーの強盗が銃を手に立っていた。 そして床には女性の死体が・・・。14人を人質に籠城を始める犯人だが、彼は女はやっていないと主張する。時間稼ぎのために人質相手に「真犯人」の捜査に乗り出すサニーだが・・・。

サニー・チャイルズ・シリーズ4作目。
プロットもしっかりしていて、ユーモアもあり、最後にはどんでん返しも用意されている。それでいて200ページにすっきりとまとめられていて、 読みやすい。やや口語が多いが、それもこのシリーズの舞台がアトランタの下町ならでは。慣れると魅力の1つである。
このシリーズに感心するのは、1作1作トーンが違うのだ。シリーズものは、同じストーリー展開が多く、よもすればマンネリに陥りがちだが、 サニー・チャイルズにはそれがない。次はどんな活躍をみせてくれるか、楽しみである。
オススメ度は、"★★★★★"。

2001/09/21読了