ハリウッドのモーテルで発見された麻薬課刑事ムーアの自殺死体。当直だったはずの殺人課刑事、ハリー・ボッシュはなぜか捜査から外される。
しかし検屍の結果、自殺は偽装であることが判明。自分の担当する別の殺人事件との絡みから、ボッシュは密かに事件の裏を探り、ムーアとメキシコの麻薬組織との関係を突き止める。
事件の真相を探るべくメキシコへ向かうボッシュだが・・・ 。
邦題「ブラック・アイス」。ハリー・ボッシュ・シリーズ第2作。
前作のレビューで「今後も彼の「justice」に注目してこのシリーズを読んでいきたい」と書いたが、本作でもハリー・ボッシュは「justice」へのこだわりをみせる。
警察は汚職刑事の死体を自殺として葬ろうとするが、ボッシュは他殺であることをマスコミにたれ込み捜査を続けるのだ。
ハリー・ボッシュは孤児であった。不幸な子供時代を過ごしたボッシュは、自分の生の意味を自問する。その答えを見つけるために、ベトナムではベトコンの地下トンネルに潜り、
帰還後は警察へ職を求めたのだ。ハリー・ボッシュのアイデンティティーを確立するために、「justice」へのこだわり続けるのではないだろうか。
オススメ度は、"★★★★★"。
金髪女性を襲い殺害後の死体に化粧をほどこす連続殺人鬼「Dollmaker」。ハリウッド殺人課刑事ハリー・ボッシュは4年前、この事件の無防備の容疑者を射殺したため左遷された。今度はその男の未亡人から
民事訴訟を起こされる。被告として裁判にのぞむハリーのもとに「Dollmaker」と名乗る1枚の手紙が届き、書かれていた場所から金髪女性の死体が発見される。模倣犯の犯行か、それともハリーは間違って無実の男を射殺したのだろうか?
邦題「ブラック・ハート」。ハリー・ボッシュ・シリーズ第3作。
「Justice is just a concrete blonde.」
これは、ハリー・ボッシュ裁判の原告側弁護士による言葉である。
ここでいう「a concrete blonde」とは、裁判所に立つ右手に剣をかざし、
左手に秤を持った正義の女神像「Statue of Justice」を指す。
「justice」は銅像の如くただ一つのゆるぎないものなのである。
この一文とともに今回、ハリー・ボッシュのjustice(=彼の自己確立)
が裁かれることになる。
裁判中に引用されたもうひとつの文も印象深い。「怪物と闘うものは、
その過程で自分自身も怪物になることがないよう、気をつけねばならない。
深淵をのぞき込むとき、その深淵もこちらを見つめているのだ。」
(ニーチェ「ツァラトゥストラはかく語りき」)ハリー・ボッシュが犯人を射殺した時、正義の警察官であったか、怪物と
なっていたのかが裁判の焦点となる。そして下された判決は・・・。
concrete blondeは、連続殺人犯によりコンクリートに埋められた
金髪女性の死体も示し、非常に意味深いタイトルとなっている。
オススメ度は、"★★★★★"。
スポーツ・エージェントのマイロン・ボライターは、依頼人であるNFLルーキーから相談を受ける。一年前から行方不明になっている元婚約者キャシーの
ヌード写真がH電話の広告としてアダルト雑誌に掲載されていたというのだ。一方、マイロンの元彼女・キャシーの姉ジェシカが現れ、強盗に殺された父親の死が妹の失踪と関係ないか捜査してくれと頼まれる。
相棒ウィンとともに、ふたつの事件の追うマイロンの元に次々と驚くべき事実が現れる。
邦題「沈黙のメッセージ」。マイロン・ボライター・シリーズ第1作。
ミステリとしてのストーリー展開はよかったものの、読了後にややしっくりいかないものが残った。理由は登場人物があまりにも非現実的だからかもしれない。
主人公マイロンは元NBA有望新人で故障後、FBI捜査官を経て今は弁護士の肩書きを持つスポーツ・エージェント。さらに相棒ウィンは「V世」という名に表されるように
由緒ある家庭に育ちながら元FBI捜査官。悪者は、虫けら同然に処刑するという彼のキャラには違和感を覚えた。
最終的な判断は、もう何作か続きを読んでからにしたい。
オススメ度は、"★★★"。
L.A.の私立探偵エルヴィス・コールの元に依頼人が訪れる。学校に迎えに行ったまま息子と伴に失踪したエージェントの夫を捜してくれというのだ。
その直後に彼女の家が家捜しされ、数日後夫の死体が車中で発見される。捜査の進行と伴にその事件の裏に、女とマフィアの存在が浮かび上がる。
邦題「モンキーズ・レインコート」。エルヴィス・コール・シリーズ第1作。
大人になりきないというピーターパン症候群。オフィスにディズニー・グッズを飾るエルヴィス・コールは、どうやらベトナム帰りの症状としてこれをかかえているようだ。
アメリカのホームレスのかなりの数がベトナム兵だったと聞く。それだけあの戦争は、当時の若者の精神を蝕んだということか。
へらず口をたたくエルヴィス・コールと無口な相棒パイクのコントラストが面白い。
オススメ度は、"★★★★"。
この本のタイトルは芭蕉の句「初時雨 猿も小蓑を 欲しげなり」から由来しているらしいが、読み終わった今でもなぜこのタイトルがついているのか、さっぱりわからない。 ご存じの方、誰か教えて下さい。
1964年春、アラバマの小さな町ザファーで暮らす12才の少年コーリーは、
父親の牛乳配達の手伝いの途中、車が湖に転落する事故を目撃する。
車の中には、首を絞められた裸の男が手錠でハンドルに繋がれていた。
助けに湖に入った父親は、その後毎晩夢に悩まされ続ける。
「残虐な殺人を犯した人物がこの町にいる!」コーリーは犯人探しを始めるが・・・。
邦訳「少年時代」。1996年度「このミステリが面白い」第2位。
あらすじを書いてしまうとミステリだが、実はミステリの形を借りたファンタジーである。
川に住む怪獣、自分の意志を持った自転車、カーニバルから逃げ出した恐竜。
不思議な人物が数多く登場し、そして少年達は空を飛ぶことが出来る。
最初のシーンで殺人事件が起こってしまったため、ミステリとしての展開に引きずられ、
途中のファンタジックな逸話の数々は逆にまどろっこしく感じられてしまった。
話が急展開をみせたのは結局ラストの数十ページ。
しかし、エピローグを読んだ後、感想は一気に変わった。580ページに渡る長い話が
あったからこそ生きてくるエピローグだったのだ。実は作者はここを一番書きたかったの
ではないだろうか。
だとすれば殺人事件は話の中盤で出すべきだったと思う。そうすればファンタジーと
ミステリの両面を楽しむことが出来たのに・・・。
オススメ度は、"★★★★"。