★Book Review 9 (41〜)


『Mortal Memory』 Thomas H. Cook 310 pages (1993)

1959年11月19日。僕の父は、母・兄・姉の三人をショットガンで撃ち殺した。警察の検証によれば、まず二階で兄、そして姉を撃ち、最後に地下室に隠れた母を撃ち殺したという。
時間は午後4時前後。しかし、父が家を逃げ去るのを目撃されたのは午後6時。それまで2時間、母の死体を洗いベットに横たえ、ハムサンドをほおばり、コーヒーを飲みながら家で何かを待ち続けた。 おそらく僕を待っていたのだ。僕を殺すために・・・。

邦題「死の記憶」。クックの「記憶3部作」第1作(三部作といっても全く独立した作品なのだが)。
主人公の家族は彼が9才の時、父親によって殺される。40才となり妻子を持つ主人公のもとへ、女性作家が現れる。 彼の父親がなぜ家族を殺したのかを探り、本にしたいというのだ。彼女のインタビューを受けるうち、忘れていた幼い頃の記憶が次々とよみがえる。 それとともに、彼の人生も、家族を殺すに至った父の人生に徐々にオーバーラップしていく。

目に浮かぶような描写と意外な結末。読み終わった私の目には、じんわりと涙が浮かんだ。悲しみの涙か、それとも安堵の涙か。 家庭を持ち、同じ様な毎日を送っている中年の人には、この本はかなりインパクトがあるはず。 平凡な人生を指向する私でさえそうなのだから、退屈な日常から脱却したいと思っている方が読むとかなりヤバイかも。決して家族を殺して逃げないよう、ご注意を。
オススメ度は、"★★★★★"。

2000/08/14読了


『The Chatham School Affair』 Thomas H. Cook 303 pages (1996)

70年前のある日、若い女性がバスから降り立った。 彼女は、暗い湖のほとりにあるコテージに住み、私の父が校長を務めるチャタム 校で教鞭をとった。しかし、彼女の到着は1年後、町中を混乱に陥れた惨劇・ 「チャタム校事件」を引き起こすことになった。
裁かれたのは彼女だった。しかし、何があの事件を引き起こしたのか、本当に裁 かれなければならないのは誰なのか、それを知っているのは、ただ一人、私だけなのだ。

邦題「緋色の記憶」。クックの記憶三部作、第3作。毎回誰もが心の底にある傷・欲望をテーマに事件が起こる。 今回のテーマは、「束縛からの開放」だろう。
話の進行は、前作「Breakheart Hill」に似ている。過去の忌まわしい出来事を 主人公が回想し、読者は何が起こったのかを想像しながら読み進む。 そして終盤「忌まわしい出来事」とは何なのかが明らかにされ、最後に 主人公のみが知る秘密が・・・。

しかし今回は、この最後のインパクトが少なかった。1作目の「えっ!?」という驚き、 2作目の「うーん、良く読めば確かに・・・」という感じが味わえなかったのだ。 確かに目に浮かぶような情景描写は相変わらず素晴らしい。詩的ですらある。 しかし、前2作を読んで期待していただけに、不満足な作品だった。
オススメ度は、"★★★★"。

2000/08/22読了


『Black Notice』 Patricia Cornwell 441 pages (2000)

リッチモンド港に入港したフランス船のコンテナ内で腐敗した死体が発見される。現場には「le loup-garou」、フランス語で「狼男」との書き置きが。 リッチモンドの女性検死官、Key Scarpetta は、死体に金色のうぶ毛のようなものが大量に付着しているのを発見する。そして第二の殺人事件。Key は、Marino 刑事とともにパリのインターポール本部に呼び出されるが・・・。

邦題「警告」。検死官ケイ・シリーズ第10作。
前作で起こった悲劇をいかに登場人物たちが乗り越えていくかを描いた作品。そのため登場人物達の心の葛藤が描かれる場面が多い。シリーズを通してみれば、おろらく本作が大きな転換点になるのだろう。
しかし、それを差し引いてもテンポが遅い、遅すぎる。最後の100ページでやって話が進み出すが、結末は用意に予想がつくし、ありきたりだ。次作に期待したい。
オススメ度は、"★★"。(ちょっと厳しい?)

2000/09/08読了


『A Cold Day in Paradise』 Steve Hamilton 271 pages (1998)

スペリオル湖畔の小さな町 Paradise。そこで私立探偵を営む Alex McNight は、警察官だった14年前 Rose という精神異常者に撃たれ、心臓から数mmに銃弾を抱えたまま。 ある日 Alex は、友人Edwinから、電話で助けを求められる。かけつけたモーテルには血塗れの死体が。ギャンブル好きのEdwinが負け金を払いに来たときには、そのノミ屋はすでに殺されていたという。 警察での取り調べを終えた Alex の元に 終身刑を受け刑務所にいるはずの Rose から犯行を仄めかす電話がかかる。そして第二、第三の犯行が。

邦題「氷の闇を越えて」。1999年エドガー賞(最優秀新人)、シェイマス賞(最優秀処女長編)ダブル受賞。
心臓に弾をもつ私立探偵。精神異常の殺人犯。寒く寂れた辺境の町(Paradiseは実在の町)。設定はいかにもハードボイルドだが、 ハードでない私立探偵Alex McNightは、私の好きなリューインのアルバート・サムスンを思いおこさせる。
英語は簡単で、ほとんど辞書なしで読める。途中までは五つ星の評価だったが、最後に犯人が読めてしまったので減点1。
オススメ度は、"★★★★"。

2000/09/18読了


『Fulton County Blues』Ruth Birmingham  274 pages (1999)

Atlanta の私立探偵 Sunny Childs は、ある日ベトナムで父の部下だった Jerry Reynols が自殺したという新聞記事を目にする。 父がベトナムで戦死したこと以外は母からは何も聞かされずに育った Sunny は、生前の父の姿を求めて Jerry の家を訪れる。 ところが彼の死は殺人だと主張するJerry の妻に、Sunnyは調査を依頼される。 Jerry の死と自分の父について調べていくうち、ベトナムで起こった恐るべき事実が次々と明らかになっていく。

2000年エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞作。
主人公 Sunny はタフだ。 彼女が父のベトナムでの死を調べるうち、次から次へと事実が明らかになっていく。しかも、彼女にとっては酷な事実ばかりである。 しかし、直面した事実にも、正体不明の暴漢から襲われても、車を吹き飛ばされても、めげることなく最後まで父の死の真相を辿っていく。 Sunny Childs はこの一作で、私の中では V.I.Warshawski や Kinsey Milhone と肩を並べる女性私立探偵となった。 この作品はすでに第3作まで発表されているシリーズのうち、第2作という。シリーズとしての評価は他の2作も読んでから下したいと思う。
オススメ度は、"★★★★"。

2000/09/30読了