無題。

わたしは、誰なんだろう?

ケンイチは、こたえてくれなかった。

いや・・・正確には、聞き取れなかったんだと思う。

答えがわたしの耳に届く間もなく、

ケンイチの姿はみるみる小さくなって消えてしまったのだから。

身体が風を切るブウブウという音に耳を澄ましても、

そこに答えがあるはずもない。

 

わたしは、落ちてゆく。

半身がじくじくと痛むけど、

それも長いことではないと思った。

生身の身体ではないとはいえ、

もう、すぐに、このまま地面に叩きつけられればきっと終わり。

・・・終わり?

雪の広場で動かなくなったアトラスさんのように。

アトラスさんが壊した刑事ロボットさんのように。

壊れたロボットなら、たくさん、みてきた。

きっとわたしも。

 

ケンイチを思い出す。

わたしを人間だと思ってくれた人のことを。

わたしを超人の椅子からひきはがした男の子をことを。

ケンイチ。

ケンイチ。

ケンイチ。

 

声に出すと、とても気持ちいい。

・・・ケンイチ。

 

その時ふっと身体が軽くなったので、下を見下ろすと、

私の身体が小さくなっていくのがみえた。

やがて地面に叩き付けられたそれが四散して、

黒い染みが周囲に広がってくのが見えた。

しばらくそれを眺めていたけれど、あきてしまったので、

ケンイチのところに戻ろうと決めた。

 

とても、身体が軽かった。

 

ケンイチの姿が見えた。

ケーブルを抱きしめて肩を震わせているケンイチの後ろに回りこむ。

「ダーレダ?!」

ケンイチはよく、そうやってわたしをからかったものだから、

こんどはわたしがケンイチをからかってやろうと思った。

でも、ケンイチの頭に回したわたしの指は、

霧のようにすりぬけてしまったから。

わたしの声も、朝日に解ける露のようにきえてしまうから。

 

「アリガトウ・・・」

きっと聞こえてない。

それでもいい。

ケンイチの背中に、そっと言葉を残して、

わたしはもっと高く昇ってみることにした。

どこまで昇れるか分からないけれど、

できるだけ高く昇ってみようと思った。

 

ケンイチも、ジグラットも、もう見えない。

 

昇りだした朝日にちょっとだけ微笑んでみる。

長くなりそうな旅の、たったひとりのお友達に。

 


無差別 流さんが、ギャラリーのTIMA1を見て

Novelを作ってくださいました★

ティマの最期の心情描写ですね。切なくてすっごくステキです。

ティマとケンイチのすれ違い部分が泣けます。

無差別 流さん、ありがとうございました!!