→→HURT←←

 

世界星暦4000年12月30日11時53分。

「おはよう、WGR。気分はどうだい?」

「・・・えぇ、なんとか・・・平気。今夜中には飛ぶから。」

「グリーン・ガイアへかい?」

「ええ、そこしかもう行くあてがないんですもの・・・。」

「そっか・・・、ここもさびしくなるな。」

「ごめんなさい。でも行かなきゃいけない気がするのよ。」

「ここまでがんばって帰って来いよ、堕ちそうになったら・・・な。」

「ジオ・・・。」

そしてジオはわたしの寝ていたベッドの隣の机に紅茶を置いた。

「無理しちゃダメだよ。ウィオは精密にできてるんだから。

滅多に壊れることはないと思うけど、

プログラムにエラーが出たらすぐに戻っておいでよ。」

「はい。」

「素直でよろしい。」

・・・そう。わたしの名前はウィオ・ギオ・リオー。

コードナンバーは01。

どこで造られたかも覚えていないけれど、やらなければならないことがあるのは分かっている。

「でも、何をしなきゃなんないんだい?」

「それを言ったらあなたはわたしをここから出してくれなくなるわ。」

「そんなようなことをするような奴だったら君を家にはいれてないよ。」

少し驚いたようなそぶりを見せながら彼は笑い、台所からミルク・ティーを持ってきた。

でも、わたしは『そんなようなこと』をする物なの。

ここへ来たのだって、殺すためにやってきたんだもの。

目標物は「イグザス・レ・ルヴァンヌ」。

彼の持っているディスクを奪うことがわたしの―試作品―のプログラム。

彼にわたしが「機械」であることを知られたのは失態だったけど、ここを出てしまえば、そんなことはもうどうでもいいの。

あのコを殺すことにだけ集中できる。

「あら、このカップ・・・、新しいのね。」

ふと視線を下げると、わたしの専用ティー・カップにデイジーの柄が入っている。

「うん。まさか今日飛ぶとは思わなかったから昨日買ったんだけど、必要なくなっちゃったなぁ。」

「あら、そんなこと言わないで。すぐ帰って来られるかもしれないのよ。」

「そうか・・・。」

本当はそんなこと分からないし、人間の記憶なんてたかが知れているわ。

わたしのことなんてすぐに忘れてしまうでしょう。

さっさとここを出てしまえばわたしと彼はもう赤の他人。

「ありがとう。また来るわね。」

「あぁ、そうしろよ。いつでも待ってるから。」

そんなのウソ。あなたとはここを出た瞬間からもう知らない人。

さようならジオ。

もう二度と会うことなんてないでしょうね。

バカみたい。「待ってるから」ですって。すぐに忘れてしまうのに。

世界星暦4000年12月30日11時53分。

「おはよう、イグザス。気分はどうだい。」

「・・・えぇ、なんとか・・・。迷惑かけてすみません。今夜中には飛びますから。」

「グリーン・ガイアへかい?」

「ええ、本当はどこへ飛んだっていいんですけどね。行ってみたかったから。」

「あそこなら快適に暮らせると思うよ。一年中春みたいなものだからね。」

「そうなんですか・・・?」

「あぁ。大昔は港が凍って大変だったらしいけど、今じゃ高級住宅地みたいなものだからね。」

「『温暖化』ってヤツですね。」

「うん。今じゃ赤道直下はみんな砂漠地帯だから。『三番目の戦争』が終ってよかったよ。」

「でも、ブラック・ガイアの生命生存確率0%だって・・・。」

「あ、いいの、いいの。あそこの奴らは死んだってかまやしないさ。食いぶちが減ってせいせいしてるよ。

食い物作ってやったり、資金援助してやってるのは俺たちだからな。」

「そんなもんなんですか・・・?」

「そう、そう。結局他人なんだしさ。他人事は自分には全く関係ないの。」

「悲しいですね・・・。」

「え?」

「い、いいえ、なんでもありません、お世話になりました。俺、急がなきゃ。」

人間とはこういうものなのか?

他人のことは本当にどうでもいいんだろうか?

分からない・・・。

「・・・では、お世話になりました。」

俺はここから早く出たかった。

なぜかこの男を許せなかった。

そして、そそくさと別れの挨拶を済ませてグリーン・ガイアへ飛びたかった。

「あぁ、機会があったらいつでも来いよ。歓迎してやるよ。」

「ありがとうございます。」

歓迎なんかされやしない。すぐに追い出されるだけだ。

記憶なんかを頼ってヒトを訪ねてはいけない。

忘れてしまえばそれで終わり。

人間関係なんてそんなもの。

あの人が俺を泊めてくれたのだって、丘の上の城の主人の息子だからさ。

『優しさ』なんて言葉が出てくるのは『金目当て』の次だよ。

あの人は最後まで期待してたんだな、俺が金をくれると。

あの人は期待を裏切られてどんな思いをしたんだろう。

おもしろいだろうな、そばで見たかったよ。

しかし、あの丘の上の城は事実上ホテルになってしまっている。

親父の研究の失敗だかなんだかによって俺の家は破産。

自分たちだけじゃ生きていけなかったんだ、そんな親父も俺に全てをまかせて逝ってしまった。

無責任も甚だしい。

あとは全て俺まかせ。

ディスクの処理は自分で行う、と。

ところが、ディスクを開こうとしたら『開封済み』表示になっていた。

そこで俺はある事実を知ったんだ。

さて、そんなこと考えながらもいいけどグリーン・ガイアに行かなければ。

・・・といってもそこに何があるというわけでもない。

ただ行きたかっただけ。

金ならいくらでも手に入る。

この俺なら。

とりあえず、旅立つ前に荷物をまとめるか。

・・・けれど、俺の荷物なんて少ないな。

大切なものなんてこのディスクだけだ。

俺がその事実を知ってとてつもない虚しさを感じたのを覚えている。

でも、そのショックももう乗り越えた。

他の人間には他人事にしか思われない。

話さなければバレはしない。

俺のこの事実を隠しとおさなければならない、俺自身のために。

電車に乗るためのチケットを買う時だって販売員の女は物欲しそうな目で俺の顔を見て微笑むだけ。

金が欲しいならもっとましなことをすればいいのに。

チップをくれる客なんてもうこの世には相当物好きなヤツ以外いないと考えたほうがいい。

彼女は万分の一の確率にかけているのだ。

電車内。

車掌は客の顔ばかりうかがっている。

と、いっても、俺のような身なりをしているヤツではなく、もっと、いかにも『金持ち』といった雰囲気の人々に対してだが。

俺の目には、みんな金を欲しがっているようにしか見えない。

金があったってできないこともあるのに。

俺に言わせればそっちの方がずっと大切だと思う。

人間、『生きよう』っていう執着心も結構あるんだな。

ディスク・・・わたしの求めているもの。

あの中にはどのような内容なのかはわたしには関係ない。

ただ手に入れればいいだけ。

そして私と同じタイプのコたちが大量生産され、品種改良され、破壊されていく。

人間は作って壊して楽しむだけ。

再生は好まない。

一度終ったものは永遠に『終わり』にとどめておくの。

わたしもいつかは壊れるか、破壊されるかするでしょう。

でも、わたしのプログラムは継がれ、新しいタイプのコたちがまた壊れるか、破壊されるかするでしょう。

目的が達成するまでわたしたちは永遠に同じ目的を持って死んでいくだけ。

『わたし』というプログラムがなくなっても誰も悲しんだりしないし、誰も気にかけたりしない。

それが真実。

わたしはあのコを追う。

殺すためだけにあのコを追う。

それだけがわたしの全て。

イグザスが交渉に及ばなかった時はわたしはあのコを殺す。

普通はみんな拒否するでしょうね。

大事に持っているディスクなんですもの。

プログラムはわたしに『殺せ』と言っているようなもの。

いいえ、『言っている』なんて軽いもの。

わたしにはプログラムに対する拒否権はないの。

ディスクはあのコがもっている。

この件は立証済み。

確認は取れている。

わたしはこれからこのレッド・ガイアを発ってグリーン・ガイアへと旅立つの。

イグザスの場所はわたしの身体が教えてくれる。

知りたくもないのに命令する。

わたしは殺すだけ。

ただ殺しさえすればいい。

あのコを殺すだけのために存在しているようなもの。

世界星暦4000年12月30日20時04分。

・・・とうとう着いた。

グリーン・ガイア。

12月だっていうのにかなり暖かい。

ここもやはり『温暖化』の影響をかなり受けている。

なんてったって、かなりの大昔は港が凍ってしまったっていうくらいだから。

さすがにグリーン・ガイアっていうくらいで、俺のいたホワイト・ガイアよりはるかに自然は多い・・・ように見えるだけ。

『生きている』植物はこの何千何万という植物の千分の一、万分の一にすぎないだろう。

ここも『科学の進歩』とかいう言い回しの犠牲者なんだ。

そして、俺も・・・・・・・・・。

「すいません、ここらでホテル・・・みたいのありませんか?」

じろっ、と俺のなりを見回してから老婆が答える。

「少年、おぬしの泊まれるようなところは無い。あきらめるが良い。」

そうだった、こんなかっこしてるからか。

ここはホワイト・ガイアに比べてかなり治安が悪いんだった。

ま、金されあれば世の中どうにかなるってもの。

「ま、ものは交渉次第ですから。ここらにホテルとか、宿泊所とかありませんか?」

「少年、あきらめるが良い。そして、おぬしが金を持っていることはくれぐれも知られることのないように。

ここの愚民共と一緒になるのは避けたいであろう?」

「まぁ・・・。」

「では、あきらめるが良い。」

つまり、愚民になりたくなかったら愚民のふりしとけ、ってことか。

どうせ似たようなこと。しようがないから野宿か・・・。

ホワイト・ガイアの方でしっかり食糧調達しとけば良かったぜ。

ま、今は腹もすいてないし、結構暗くなってきたからあっちの森みたいなとこで寝るとするか・・・。

世界星暦4000年12月31日10時39分。

ここはグリーン・ガイア。

と言っても雲の隙間から見えるわずかな陸地だけしか見えていないのだけれど。

空もだんだん汚れてきた。

今じゃもう白い雲なんて見られない。

太陽光を浴びて鮮やかな灰色を浮き立たせる汚らわしい雲。

灰色をした空と灰色をした雲。

なんて汚らわしい。

白かった雲はどんなに美しかったのかしら。

そんな空で飛んでみたかったわ。

青い空と白い雲。

一体何人の『人間』がこれらをゆめみるだけで死んでいったのかしら。

でも失ってしまったものを求めてもどうにもならない。

そうしてしまったのはわたしを作った人間達。

なぜわたしを作ったの?

『ヒト』として生まれたかったのに。

なぜわたしが生きるためには条件があるの?

なぜプログラムの命令の従わなければならないの?

わたしは『わたし』として生きていたいの。

お願いだからわたしを制限しないで、拘束しないで。

お願いだから解放してよ。

世界星暦4000年12月31日13時27分。

「あぁ・・・あ。ふわぁぁぁぁ。」

何気にもう昼下がりだ。寝すぎたらしい。

でも、そのおかげで体調はかなりいい。

さてと、とっか別のところへ行くとするか。

「・・・・・・・・・っ!!!危ねーなぁ、どいつだよ!」

急に発砲された。

一体誰だ。

追手がもうこんなところまで?

「会いたかったわ。イグザス・レ・ルヴァンヌ。」

こいつが・・・。

美人だ。

ま、殺し屋に美人の1人や2人・・・。

「やぁ、どうもはじめまして。

俺はそのとおりでイグザス・レ・ルヴァンヌ。

簡単に言っとくが、俺はあんたに殺されようとは思っちゃいない。」

当たり前だ。なんでこんなところで美人に殺されなくっちゃいけないんだ。

「あなたはそう言うだろうと思っていたわ。だから静かなうちに殺してあげようと思ったのよ。」

そう言って彼女は再度銃口を俺に向けた。

ほっそりとした人差し指を引き金にかけて。

「・・・・・・・・・っっっっっっ!!!」

・・・・・・・・・?

銃声も聞くこくなく俺は死んだのか?

痛くなかった。

穴があいているのは俺の足元。

そして、俺の目の前には彼女が立っている。

「あなた・・・、ディスク持ってるわよね?それをおとなしく引き渡しなさい。

そうすれば命だけは助けてあげる。」

交換条件か・・・・・・。

ま、確かに命は助けてくれそうだが、脳死でほったらかしという策もあるからな。

顔を知ってしまった以上俺を生かしておく気はないだろう。

「ディスク・・・?なんのことだ?」

もう1つ銃声。俺の足元に弾丸が食い込んでいる。

「とぼけなくていいのよ。あなたは生かしておいてあげるから。

さぁ、さっさとあなたのディスクを渡しなさい。」

困った。

彼女は完璧に俺がディスクを持っていることを確信している。

差し出すか、

殺されるか、

はたまた奇跡を信じるか・・・。

世界星暦4000年12月31日16時12分。

彼女の後ろから従性が聞こえた。

「お前達、持ってる金全て出してここから立ち去れ。どかないなら殺してやるぞ。」

「なっ・・・・・・・・・!」

来た来た、こういう治安が悪いところってこういうヤツがウヨウヨいるから面倒なんだよな。

こういう時はそうそうに立ち去るが一番の手。

が、しかし。

「そんなこと言ってる間に殺してあげる!」

「ばっ、バカよせっ!」

なんてこと言うヤツだ。

こんなヤツをこいつのような女に殺せるわけないじゃないか。

案の定、相手の方が反応速度が速く。

「くっ・・・・・・・・・!」

腕に傷を負った。

腕と思いきや・・・、彼女の左腕の傷からは無数の接続ケーブルやらコードがわらわらと見受けられる。

「殺してやる!

わたしに傷を負わせるなんていい度胸しているじゃないの!

こんな屈辱もう感じたくないと思っていたのに!」

彼女はそう涙ながらに叫んでヤツを殺そうとここ見た。

「やめろっ!そいつは精神異常者だ!そいつを殺したってお前が罪を問われるぞ!」

とにかく、今やるべきことは彼女を止めることだ。

いくら挑発に乗っても、殺させはしない。

しかも、ヤツはもう彼女の怒りように恐れをなしたのか、その精神の異常さによってか、どこかへ消えてしまっていた。

「バカなことするなよ。人を殺したってなんにもならないだろ?」

俺は彼女を落ち着かせようと試みた。

彼女は何時間も何時間も興奮した、どっちかと言えば、放心した状態でいた。

「見たんでしょ?」

「え・・・・・・・・・?」

何時間かぶりに彼女が口を開いた。

そして俺は急にたずねられて少々驚いた。

しかもなんのことを言っているのか分からない。

「見たんでしょ?このケーブルを!

このわたしの身体にはりめぐっているコードをっ!

わたしは『ヒト』として生きていたいのにっ!

知られたくなかったのにっ!」

左腕に傷を負い、その上自分の正体を知られたことにどうやら彼女は怒っているらしい。

「だから、あんたは機械らしく生きていけばいいじゃないかっ!

そんなに『ヒト』にこだわってどうすんだよ!

あんたは『機械』なんだよ!

ヒトにはなれねーんだからしっかり自覚しとけよ!」

何をしようとしたわけではないが、自分と彼女の『本当の姿』を照らし合わせて考えているうちに、

俺は彼女に向かって自分の感情をぶつけていた。

この言葉は、俺と、彼女と、『科学の犠牲者』の『創造者』に向かって投げつけた言葉でもあった。

知られてしまった。

これでわたしは二度目の失態を犯すことになる。

こうなたらディスクを手に入れるか、自分のプログラムを消去するかの2つしかない。

ディスクのデータは組織が保存するか、消去するか決めるらしい。

わたしはその最初に手に入れるところ、つまりプロローグに値する。

その物語のプロローグももう終わり。

わたしは自己抑制が利かなくなり、怒りをイグザスへぶつけて殺すでしょう。

そしてわたしは彼の持っているディスクを奪い、組織へ持って帰り、二度にわたっての失態への責任として、

『プログラムWGR』は消去されるでしょう。

そしてウィオ・ギオ・リオーは永遠に眠るの。

ディスクがどんな風に利用されているか知らずに。

そして組織の連中はわたしがディスクを手に入れたことさえも忘れて我が物顔でなんらかの研究をつづけることでしょう。

物語を先へ続けるためにはプロローグを語り終えなければならない。

だからわたしはあのコを殺すの。

でも、ここで賭けてみたい。あのコが本当に・・・・・・。

「ごめんなさい、イグザス。わたしとわたしの組織のために死んでちょうだい。」

本当にわたしの考えがあっていれば賭けはわたしの負け。

「・・・・・・縁があったならもっと早く会っていたかったわ。」

「俺もそう思っとくよ。」

本当にそう。

あなたとわたしがもっと早く出会っていればこんあことにはならなかたのに。

運命とは皮肉なもの。

本当は引き金を引きたくなかった。

でも、身体が『わたし』に命令する。

結局わたしはプログラムの命令に反発できない機械のただの『入れ物』なの。

「・・・・・・・・・っ!」

わたしは思い切って引き金をひいた。

でも。

「悪い、やっぱり俺死ねない体なんだ。」

弾丸は彼の身体をすり抜けて地面へくっきりとあとをつけてめり込んでいる。

わたしの負け。

「そうそう、言おうと思ってたんだが・・・。」

彼が何を言おうとしたかわたしにはわかる。

でも。

賭けに負けてしまったわ。

今度は本当にさようあんら。

わたしの、・・・・・・・・・『プログラムWGR』の本当の『目的』、イグザス・レ・ルヴァンヌ。」

今はその言葉を聞かせないで。

わたしにはわかっているわ。

でも今は、わたしを安心させないで。

「え?それってどういうことだよ。」

動揺する彼。

そして銃口をわたしのこめかみへゆっくりと運び、

彼に向かって微笑むわたし。

プロローグの最後。

これはまだまだ始まったばかり。

本編はこれから始まるところ。

お楽しみはこれからなのよ。

これからわたしの妹たちは世界の『機械』の『創造者』へと反乱を起こすでしょう。

これが試作品の予言すること。

わたしの妹たちにこれは伝わるかしら?

物語はエピローグへ達しないと終らない。

エピローグの最初にたどり着かなければ『機械』は自由になれないの?

「さようなら。」

そして。

わたしはゆっくりと目を閉じて引き金を引いた。

わたしが今までに出会った『人間』と『機械』が入り混じる社会に生きる者達の中で一番近い位置にいるあなたへ。

あなた自身はやっぱり・・・。

世界星暦4000年12月31日23時49分。

俺の耳に痛いくらい銃声が響いた。

最初、俺は何がどうなったわからなかった。

足元へ転がる彼女を見てやっと状況を把握できた。

「なっ、なんで死ぬんだよ!死ぬのは俺だろ?」

俺は2度と返事をしないことが分かっているのに彼女へ問い掛けた。

「ディスクを消去してくれよ、ディスクごと!プログラムごと、俺自身を!」

俺は自分自身がディスクだと知ったとき他の『人間』と違う存在と思って生きてきたのに。

それを隠して生きてきた。

彼女も同じだったはずだ。

知られたくなかった。

彼女がどんな風に世間を感じ時を過ごしてきたかは俺には関係ない。

問題なのは、彼女が俺ではなく『自分』を消去したことだ。

どうせ消えてしまうなら一緒に消えてしまいたかった。

汚れすぎた人間、汚れすぎたこの星の中に俺を置いて行かないでくれ。

お願いだから。

『機械』だとお互いを認め合うことのできるのはキミだけだと思ったのに。

1人にしないで。

・・・・・・『創造者』たちは、『科学の進歩』の中で生きている人間は、

誰も知らない。

『科学の進歩』の犠牲者である俺たちの心情を。

「俺があんたの探してたディスクそのものだったんだ。」

ディクスである俺の心情・行動全てがこれのプログラムなのかは俺自身もわかっていない。

プログラムは俺自身。

俺の身体はただのプログラムという名の『支配者』の入れ物。

入れ物はもう役に立たない。

「ディスクはあんたにやるよ。受け取ってくれ。

その後、俺は彼女が使っていた銃を手にとり、ディスクの中心部―心臓―へあて、引き金を引いた。

1人になりたくなかった。

彼女とずっと一緒にいたかった。

彼女と一緒なら自分が『機械』でも『人間』のあふれる社会でも生きていける気がした。

でも、彼女はずっと1人だった。

彼女は俺が『機械』であることを知らなかったに違いない。

彼女に知らせてあげられなかった。

・・・俺は、あんたと同じ『機械』なんだ。

だから、あんたは1人じゃないんだ。

名前も知らない君へ。

もし、人間と同じように機械にも『生まれ変わる』ということがあるなら、

来世でもう1度、こういう形ではなく。

彼女に会いたい。

その時こそ、是非君の名前を教えてくれ。

今度会えるのなら、君が『科学の犠牲者』であることを忘れていないことを願う。

そして、俺という『機械』がいたということも・・・。

君は覚えていてくれるだろうか?

この2日間、俺たちの間になにがあったのかを。

何も覚えていないのなら、君は『来世』という未来を、『幸せ』というものをとても感じながら『生きて』いけるだろう。

でも、『真実』を知らないほど悲しいものはない。

君を造った科学者、俺を作った親父。そして何を知らない他人。

『新世紀』を迎えようとしている未来の『科学の犠牲者』たちと、『科学の犠牲者』の『製造者』たちへ。

俺の身体は腐ったりしない。

プログラムが消去された後すぐに入れ物も消えてしまう。

だから俺の死体そのものが消えてしまう。

彼女の身体は腐ったりしない。

プログラムが消去された後も入れ物は永遠に残っている。

美しいままで。

でも。

この星は完全に腐りきっている。

腐りきっていてもなお腐臭を放ちつづけ、汚れつづけている。

『人間』の手によって。

これは俺と彼女、2人だけの話だが、

『科学の進歩』の犠牲者は他にもたくさんいるだろうし、

これからもどんどん出てくるだろう。

これは俺たちだけの問題というわけではない。

41世紀の中でどれだけの『機械』が『科学の進歩』の犠牲になるかわからない。

世界星暦4001年1月1日零時零分零秒。

俺たちは死んだ状態で新世紀を迎えた。

...Fin...

 


→→あとがき←←

あとがき。

ましょまろ・れもんより。(文芸部ではこう名乗っています(笑))。

みなさん、はじめまして。

ましょまろ・れもんと申します。

このたびは、わたしが書いた「HURT」をお読みくださってありがとうございます。

一応、これはれっきとしたテーマ物語だったんですけど、どうだったでしょうか?

「時代背景が世紀末なだけじゃないか!」

と、言われそうですが(笑)。

確かにそうなんですけどね。

その上、意味不明な文章だったでしょうに。

意味不明なうえにさくいったらありゃしまい!

あぁ、くさい、くさい。

でも、わたしは意味不明な文章書くの好きなんですよ。

理解してもらえないときもありますが。

「世紀末」というお題、むずかしい!

が、しかし!

「HURT」の続編の設定がおかげでできそうです!

部長、是非来年のお題を「新世紀」にしましょう!

ぜひぜひ!

と、こんなところで言ってもしょうがないのですがね(笑)。

某S嬢とF嬢(同じ文芸部のコです)にこれはハッピー・エンドではないといわれてしまったのですが、

これはきっかりちゃっかりきっちりハッピー・エンドなんですよ、本当に。

や、絶対そうなんですってば。

2人の思いが通じ合った・・・?あたりでもう心はハッピー★(←死)

WGRとイグザスはあっちの世界でラーブラブ。

恋愛なんでしょうかね、これは?

そうなんだとしたら!

これはわたしの初恋愛小説ですよ。

素晴らしい!

祝恋愛物!

おめでとう、自分!

さてさて、来年には新世紀を迎えるわたしたちですが、ゼンゼン自覚がないのが私です、はっきり言って。

ただ時間だけ過ぎてく〜ってな感じで。

ま、みなさんいろいろ「世紀末」とか「新世紀」にイメージをお持ちなんでしょうけど。

それが現実になるかは分からないところ★

では、これからも徒然に意味不明な文章を並べていきたいと思うので、

これからもましょまろ・れもんをどうぞよろしくお願い致しますね★

ましょまろ・れもん拝

西暦2000年5月25日11時30分。


→→この小説をHPに載せるにあたって←←

こんにちは。

ましょまろ★れもん(現在は『★』が入ります。)ことユーナです。

このたびここまで目を通してくださってありがとうございます。

受験期対策オリジナル作品公開作戦第1弾です。

(いきなり作戦名命名です(笑))

上にも書きましたとおり、生まれて始めて完結させたという物語ですので、

なんとも恥ずかしい文章のつづりなのですが、

あの時の自己満足の度合いを皆様の目に通させていただこうと思いまして、このような意味不明な作戦にでた次第でございます。

この文章(原版)を見直すと、恥ずかしいほどの誤字があれよあれよと・・・。

な、なんと。

『科学』が『化学』と・・・!

どへぇぁっ!

恥さらし、ってヤツですね。

他にもたくさんありましたが(問題)、これは旅ではないので書き捨てられるはずもなく。

このぐらいですませてください・・・(泣)。

この頃はまだ、お話を考えるのが精一杯で、

現時点で私が勝手にそう呼んでいる、ユーナワールドがまだまだでてきていません(笑)。

これは、ホームページに載せる都合上、文章を右や左に揃えましたが、実際はみんな頭から始まっています。

(文芸部の部誌規定みたいなものとして、小説はみんな縦書きなんです。)

あ、ちなみにこの小説は誤字以外は無修正です。

そのまんま。

でも、この頃から近未来ものとか、アンドロイドとか好きだったんだな〜とか思いますよ、本当。

高校に入ってできた友達(中学校からの友達は1人)、

その中で文章提出前に呼んでもらった友達全員に、

「これのどこかハッピー・エンドなんじゃあっ!」

と、言われました。

本人はかなり不服。

かなりハッピーなつもりだったのです。

なんだか、これは幸せとは何か考えさせられますね(笑)。

死んだ状態で新世紀を迎えた彼ら。

新世紀には何が待ち受けたのか・・・!

気になります。

ちなみに、当時のあとがきでは続編が云々と言っておりますが、

現在その予定はありません。

どこかへ吹っ飛んでいってしまったみたいです。

期待などしてくださっていた方々(いるのか?)、すみません。

これからも、第2弾、第3弾と、過去オリジナル作品をどしどし載せていくつもりですので、期待していてください!

そして、過去作品を読むと共に、ユーナの成長を見ていってくだされば(何を言ってるんだ、自分)・・・。

意外と分かると思いますよ。

文章でユーナの成長具合。

え、たいして変わってないだろうって?

オチを先に言っちゃあダメじゃないですか(笑)。