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「指輪物語」の中の馬が出てくる詩

「指輪物語」の中には詩や歌が沢山あることは、ご存じの通りです。そしてどれもとても美しい言葉の響きを持っています。また、翻訳者の瀬田貞二の日本語がすばらしい。本を読みながら、詩の部分が出てくると、もううっとりです。ここではその中から「馬」の文字のある部分をそのまま抜き書きしてみました。(必ずしも原文に「horse」があるわけではありません。日本語は新版の物です)
この色の部分が引用です。
 〜の後に各章の題名を入れました。内容は現在のところ順不同です。

NEW
「ホビットの冒険」のドワーフたちのはなれ山の歌と、映画「ホビット 思いがけない冒険」の中の歌について、新しいページを作ってありますので、よろしかったら合わせてご覧ください。
「霧ふり山脈」と「はなれ山の歌」


《王の帰還》
疑念から出、暗黒から出て行き、日の上るまで、
王は日を浴びて歌いながら、剣を抜いて馬を駆った。
王は望みの火をふたたび点し、望みを抱きつつ果てた。
死を越え、恐れを越え、滅びを越えて
人の世の生死をぬけて、永久(とわ)の栄えに上っていった。

Out of doubt, out of dark, to the day's rising
he rode singing in the sun, sword unsheathing.
Hope he rekindled, and in hope ended;
over death, over dread, over doom lifted
out of loss, out of life, unto long glory.

  〜セオデンの葬儀に歌われたローハン語の歌〜「数々の別れ」より

戦が終結して、アラゴルン=エレスサール王の戴冠式が済み、アルウェンとの結婚の祝賀の日々が終わると、旅の仲間たちはそれぞれの故郷を指してまた旅に出ます。セオデン王のなきがらは、旅の仲間やエルフたちともにローハンのエドラスへ帰り、塚山に葬られました。
葬儀では、王の吟遊詩人グレオヴィネの作った歌が歌われました。その歌詞はローハンの言葉でしたが、
ゆっくりと歌う騎士たちの声は、この国の言葉を知らない者たちの心まで揺り動かしました。
セオデンの死は、歴代の王に劣らぬ名誉あるものでした。しかし、緑の塚山の麓には、王を父とも慕っていたメリーが涙をながしていたのでした。

PJ映画にはこのシーンはありませんでしたが、「二つの塔」のエクステンディッド版の方に、セオデンの息子セオドレドの葬儀の追加映像がありました。白い花が咲く塚山と騎士たち、グレオヴィネの代わりにエオウィンが歌う追悼の歌は胸を打つものでした。原作のセオデンの葬儀を想わせるいいシーンでしたね。


《二つの塔》
丈高い草の生い茂る沢地を越え野を越え、ローハンを通って、西風は歩み来たり、城壁を経めぐる。
「おお、さまよう風よ、今宵お前は西の地のどんな知らせを持って来てくれたか?
月光でまた月明かりで、背高き人ボロミアを見かけなかったか?」
「わたしの見たかれは、七つの広い灰色の川を馬で渡って行った。
わたしの見たかれは、人気ない土地を辿り、やがて北の地の闇にかくれて行った。
そして二度とかれを見なかった。
北風がデネソールの息子のならした角笛を聞いたかもしれない。」
「おお、ボロミアよ! 高い城壁からわたしは、はるか西の方を望み見た。
けれど、人気ない土地からあなたは帰らなかった。」

Through Rohan over fen and field where the long grass grows
The West Wind comes walking, and about the walls it goes.
'What news from the West, O wandering wind, do you bring to me tonight?
Have you seen Boromir the Tall by moon or by starlight?'
'I saw him ride over seven streams, over waters wide and gray;
I saw him walk in empty lands, until he passed away
Into the shadows of the North. I saw him then no more.
The North Wind may have heard the horn of the son of Denethor.'
'O Boromir! From the high walls westward I lookd after,
But you came not from the empty lands where no men are.'

   〜ラウロスの滝でボロミアを送る歌〜「ボロミアの死」より

ボロミアの亡骸をロリアンの小船に横たえ、ラウロスの大瀑布と大河アンドゥインにゆだねたアラゴルン、レゴラス、ギムリの3人は、しばらく黙って見送っていましたが、やがて、アラゴルンがゆっくりと、こう歌いました。ゴンドールの白い塔の人々がボロミアを待つ歌です。
この後、レゴラスが南風の歌を歌い、アラゴルンがさらに続けます。

王たちの門から北風は馬をとばせて、轟く大滝を過ぎて来る。
塔をめぐってその高らかな角笛は、嚠喨と冷ややかによびかける。
「おお、力ある風よ、今日お前は、北の国からどんな知らせを持って来てくれたか?
剛勇の人ボロミアの便りはどうか? もう久しく帰らないから。」……

From the Gate of Kings the North Wind rides, and past the roaring falls;
And clear and cold about the tower its loud horn calls.
'What news from the North, O mighty wind, do you bring to me today?
What news of Boromir the Bold? For he is long away.'……

「もう久しく帰らないから」の一節には胸が詰まりますね。そして、北風はボロミアの最後の様子を告げるのです。アラゴルンは、トールキンは、なんと美しい言葉で、ボロミアを送ったことでしょう。
カラズラスの雪の中で、赤角口で、モリアの橋で、彼の剛毅と誠実な思いやりのある行動、そしてオークたちからメリーとピピンを守ろうとした最後の戦いぶり。「一つの指輪」の力に一時屈してしまったとはいえ、やはり彼を惜しまずにいられません。

この歌はBBCのラジオドラマCDにも、PJ映画にもありません。でも、トールキン本人の朗読のCDには入っているのです! 瀬田氏の邦訳も素晴らしいですが、英語の韻を踏んだ響きはまた格別です。
それにしても、PJ映画でボロミアを演じたのがショーン・ビーンで本当に良かったと思いませんか。彼のおかげで、ボロミアの印象が格段に良くなったと思います。この歌の味わいもまた、深くなったのでは…ファンの贔屓目かしら?


あの馬と乗り手とは、何処へいった? 吹きならされた角笛はいまどこに?
兜と鎧かたびらは、風になびいた明るい髪の毛は、どこに?
竪琴をかなでた指は、赤く燃えた炉辺の火は?
春はどこに? 稔りの時と丈高く熟れた穀物は、どこへいったか?
すべては過ぎていった、山に降る雨のように、草原を吹く風のように。
過ぎた日々は、西の方に、影を追う山々のうしろに落ちてしまった。
燃えつきた焚木の煙を集める者があろうか?
流れ去った年月の海から戻るのを見る者があろうか?

Where now the horse and the rider? Where is the horn that was blowing?
Where is the helm and the hauberk, and the bright hair flowing?
Where is the hand on the harpstring, and the red fire glowing?
Where is the spring and the harvest and the tall corn growing?
They have passed like rain on the mountain, like a wind in the meadow;
The days have gone down in the West behind the hills into shadow.
Who shall gather the smoke of the dead wood burning,
Or behold the flowing years from the Sea returning?

     青年王エオルを歌ったローハン語の歌〜黄金館の王

「それはロヒアリムの言葉でしょう?」「何故って、この土地自身に似ていますからね。豊かで起伏があると思えば、ここの山脈のように厳しくいかめしい。」
黄金館のあるエドラスの丘の麓、シンベルミネの白い花の咲く塚山を通り過ぎながら、アラゴルンが歌った、ローハン語の歌を聴いて、レゴラスが言いました。
このあたりが本当の「指輪物語」を読む醍醐味ですよね。言語学者であるJ.R.R.トールキンの言葉への思いがあふれています。特にこの「二つの塔」はエントなどいろいろな言葉に関する事が出てくるパートですよね。
このレゴラスの言葉のあと、共通語になおして歌ったアラゴルンの歌が、上の英語です。そして瀬田貞二でよかった、と思わずにはいられない、日本語訳がすばらしいですね。

今は忘れられたローハンの詩人が、青年王エオルの事を歌った歌です。メアラスの祖である、フェラロフに乗って北からやってきた、ローハン初代の王様です。彼の、いかに丈高く、美しかったかを思い起こして歌っています。
ローハンの民のことをロヒアリムと言います。「彼らは誇り高く意地っ張りだが、心中は誠実で、思うことも行うことも高潔だ。大胆ではあるが残忍ではない。賢明ではあるが学問はない。本を書くことはせぬが、暗黒時代以前の人間の子らの流儀に従って、たくさんの歌を作って歌う。」とアラゴルンが言っています。彼らは、アラゴルンやゴンドールの民のように、遙か昔にエルフの血が入っているヌメノーリアンではなく、むしろ(私の大好きな「ホビットの冒険」の英雄)バルドや、ビヨルンの方に血のつながりがあるとも。なるほど、王様の性格も、国民性も違うわけですね。
アラゴルンは、ソロンギルと名乗って、ゴンドールやローハンの先代の王様の元で、戦ったりしていた事がありました。この歌も、きっとそのころ覚えたのでしょう。
「過ぎた日々は、西の方に」や「流れ去った年月の海から戻るのを見る者があろうか?」という言葉は、トールキン読みとしては、感慨深いところです。海のない国ローハンの歌にさえ、海の彼方の遙かな地の事が読み込まれているのですから。

ちなみにPJ版映画では、セオデン王が角笛城で出陣の前に、鎧をつけながら詠んでいますね。あのFotR上映後に流れた、予告編を見た時にはものすごく感動しました。


いざ生き者の学をまなばん!
まずあぐるは、自由の民の四族の名前、
はじめに生(あ)れしが エルフの子らよ。
次が穴掘りドワーフ、暗闇住まい。
三が土生のエント、山ほど古し。
四が定命の人間、馬を御したり。

Learn now the lore of Living Creatures!
First name the four, the free peoples:
Eldest of all, the elf-children;
Dwarf the delver, dark are his houses;
Ent the earthborn, old as mountains;
Man the mortal, master of horses:

        『古い名簿』より〜木の鬚

ご存知エントの木の鬚が、メリーとピピンに出会って、彼がこどもの頃(!!)に習った古い名簿を思い出している場面です。この後、ビーバー、熊、犬、兎…といろいろ続きますね。でも、ホビットは入っていない。そこで、ピピンは「小さい人ホビットは、穴住まい Half-grown hobbits, the hole-dwellers 」と人間の次に入れて下さい、と提案するのでした。それからの、メリーとピピンの自己紹介とエントとのやりとりは、とても面白いです。エルフ語やエント語の事も出てきてまた、作者の書きたかった部分はここにあり、の一つですね。言葉を一つ一つ選ぶように話す木の鬚の話し方はとても面白いです。サルマンを若造とよぶあたりも貫禄がありますよね。
「指輪物語」だけだと、さらっと読み流してしまう詩ですが、「シルマリルの物語」を読んでいると、この四行はずっしり重いです。もちろんJ.R.R.トールキンはこの歴史をふまえて書いている訳です。穏やかな木の鬚の言葉の中にも、ロスロリアンの事などが出て来て、意味深長です。エントでさえ、ロスロリアンの森に入って出てきたことを、驚いているのも面白いですね。

エントの他の詩も、自然がみずみずしく輝いているような、美しい詩ばかりで素敵です。

ところで、エルフも馬に乗るし、ゴンドールの人はあまり馬を使わない事を考えると、さすがローハンの森ファンゴルンの「生き物リスト」だなあと思ったのは、私だけかしらん。


《旅の仲間》
そのかみ王は、馬にて去りぬ
いづちにか、知る人ぞなき
むべぞかし、王の星おちて
影の国モルドールに消えたれば

But long ago he rode away,
and where he dwelleth none can say
for into darkness fell his star
in Mordor where the shadows are.

                  『ギル=ガラドの没落』より〜闇夜の短剣

大好きなシーンです。風見が丘に向かう途中、アラゴルンの話中にギル=ガラドが出てきます。それは誰?と聞いたメリーの言葉に答えるように、歌い出したのはサムでした。「ギル=ガラドはエルフの王なりきと、竪琴ひきは、悲しく歌う…」 そして、これはその歌の最後の部分。
サムがどれほどエルフにあこがれていて、ビルボの話を良く聞いていたか、そして歌の才能があることも、良くわかるシーンです。

ちなみに、BBCのラジオドラマのこのサムの歌もとても素敵です。


さあ! 楽しくやろうよ、ラン!
ひょいひょい跳んでこい、皆の衆!
ホビットたちよ! 小馬もおいでよ!
わしらは、会が大好きだ
さあ、ゆかいにやろう!
いっしょに歌おう!

Hey! Come derry dol! Hop along, my hearties!
Hobbits! Ponies all! We are fond of parties.
Now let the fun begin! Let us sing together!

         トム・ボンバディルの歌〜古森

トム・ボンバディルは、柳じいさんからホビット達を助け、家に呼んでくれます。小馬に乗ってトムの家に近づくと、陽気な彼の歌が聞こえてきます。
いかにも、トムらしい陽気な歌です。ホビット達の疲れも恐怖も半ば消えているのでした。怖い思いをしながらも、まだまだ明るいホビット達4人の旅の様子が、のどかでいいところですね。

トム・ボンバディルとゴールドベリって、映画でもラジオドラマでもカットされちゃってるのよね。このあたりのエピソードも結構重要で、とっても面白いのに。トムは指輪をはめても消えないし、裂け谷の会議でも、トムに指輪を託したら?なんて案まで出るくらいの人(?)なのにね。そして、メリーの剣もここで手に入れるのよね。


さても馬丁は、よいどれ猫に、さ。
「月の白馬が、いななきながら
銀の轡(くつわ)を、かみかみ待つが、
そのご主人は、正体がないぞ。
  間もなくお日さまのぼるというのに。」

Then the ostler said to his tipsy cat:
   'The white horses of the Moon,
They neigh and champ their silver bits;
But their master's been and drowned his wits,
   and the Sun'll be rising soon!'

         フロドが躍る小馬亭でうたった歌〜躍る小馬亭で

かの有名な「牝牛は月をとびこした」の歌の一節。この歌といい、指輪のアクシデントといい、馳夫さんの登場といい、「躍る小馬亭」と聞いただけで、わくわくしちゃいますよね。この歌、ビルボ作の歌です。フロドはあまり歌わないけど、集会室に集まった人たちの(酔っぱらい達とはいえ)大喝采を受けているので、きっと上手なんですね。

これも、ラジオドラマの曲がとってもいい感じで好きです。J.R.R.トールキンの朗読の録音もあるのですが、びっくりするほど早口です。


今もエルフの住む、裂け谷へ、
霧まく谷の森の空き地へ、
荒れ地をわたる馬を進めよう。
そのさきの行方は、さらにわからぬ。
    (中略)
行かねばならぬ、行かねばならぬ、
夜の明ける前に、馬にうちのって。

To Rivendell, where Elves yet dwell
In glades beneath the misty fell,
Through moor and waste we ride in haste,
And whither then we cannot tell.
       ***
We must away! We must away!
We ride before the break of day!

       メリーとピピンが旅立ちのために用意した歌〜正体をあらわした陰謀

「陰謀家」メリーとピピンが、フロドと一緒に旅立つのに備えて、作っておいた歌。この「陰謀」のエピソードも大好きです。メリーのしっかりしたところが、よくわかるところですよね。いや、その前にピピン、フロドと一緒に旅をしながら、よく黙っていられたね!
ホビットたちは、エルフに負けずおとらず、歌を歌うのがすきですね。この歌はビルボの冒険の時のドワーフたちの歌と、同じ節回しで歌うようになっていたそうです。こんな風に、指輪物語の端々に「ホビットの冒険」や「シルマリルの物語」に関係のあるところがあるのも、読者としては嬉しいですね。

この詩、ラジオドラマでは「炉端に、火が赤く…」の歌と同じ節で歌われています。


◇テキストの引用元書籍◇評論社 新版「指輪物語」瀬田貞二・田中明子訳 文庫版1〜9
◇Harper Collins Publishers「THE LORD OF THE RINGS」by J.R.R.TOLKIEN

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このページの背景は「QUEEN'S FREE WORLD」さんからいただきました