夢日記 第二十三夜 二頭の蝶 |
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私たち家族は広大な敷地にある庭を散歩していた。屋敷へと続く林の小径を歩きながら、両親と二人の兄、一人の姉と優雅に楽しく語らっていると、突然雨が降ってきた。私たちは並木を抜けて芝生を横切ると、温室へと急いだ。屋敷よりはずっと近かったからだ。まだ小さな私にはそんなことも楽しいことだった。 ひさしに激しく雨が打ち付けていた。そこは管理小屋と温室をつなげる短い渡り廊下で、そんな時でもなければ誰もめったに来ないところである。温室は今は使われていない。周囲のガラスはところどころ破れ、見たこともないような不思議な形の枝がほうぼうに突き出していた。 兄たちは陽気に笑っており、埃だらけのテーブルを手早く掃除して母と姉を座らせた。そんなところにテーブルがあるのは知らなかった。白いテーブルで、派手なパラソルまでついている。そこに華やかなドレスに包まれた母と姉が座っているのを見ると、このためにわざわざ用意したようにも思えた。 急に二頭の蝶が雨の中から飛び込んできた。私たちの周りを双子のようにぴったり並んで、まるで同じ飛び方をしていく蝶は、まぶしいほど美しかった。 誰かが「ああ、この蝶は」と言った。 皆が同時にその蝶の神々しさに気がついた。 「まあ、蝶になって!」 姉が嬉しそうに叫んだ。 それが神の蝶であることがなんとなく私にもわかった。誰かがそう説明したのか。それとも自分でそう悟ったのかもしれない。でも、いささかの疑問もなくそれが真実だということが私にはわかったのだ。二体であることと、同一の動きをすることが、神のしもべの徴であった。それにもう一つの徴は変幻自在である。蝶の色彩は見る間に変容していく。 兄が蝶の一頭を指でいとも簡単にとらえた。その瞬間にもう一方の蝶は消えてしまった。指の間のそれは、ごく普通の蝶のように見える。兄はしばらくそれを私に見せるようにしていたが、また捉えたときと同じようにそっと解き放った。するとまた蝶は二頭になる。また捕らえ、また放つ。放つたびに二頭になり、捕らえると一頭になる。そしてそのたびに別の色になっている。 私はいったいどの瞬間に変化が起こるのか見定めようとしたが無駄だった。私の意図に気づいて母がわらう。 「さあ、もう家に入りましょう」 きっと、そんなこと誰にもわかることではないのだろうと思った。私は皆のあとに続いて屋敷に入った。 |