クリストファー・ロビンは、いってしまうのです。
森じゅうの者は、どういうわけか、ひとり残らず、とうとうそういうことになるのだということを
知っていました。
クリストファー・ロビンはいいました。
「プー、きみね、世界中でいちばん、どんなことをするのが好き?」
プーはこう答えました。
「ぼくが、世界中でいちばんすきなのはね、ぼくとコブタで、あなたに会いにいくんです。そうすると、あなたが
『なにか少しどう?』っていって、ぼくが『ぼく、少し食べてもかまわない。コブタ、きみは?』っていって、
外は歌がうたいたくなるようなお天気で、鳥がないてるっていうのが、ぼく、いちばんすきです」
クリストファー・ロビンは言いました。
「ぼくも、そういうのはすきだ」
「ぼくがいちばんしてたいのは、なにもしないでいることさ」
「なにもしないって、どんなことするんです?」
「それはね。ぼくが出かけようと思ってると、だれかが『クリストファー・ロビン、なにしにいくの?』ってきくだろ。
そうしたら、『べつになんにも』っていって、そして、ひとりでいって、するだろ?そういうことさ」
「ああ、そうか」
「ぼくたちがいまやってることが、なにもしてないことさ」
「ああ、そうか」と、プーはいいました。
「ただブラブラ歩きながらね、きこえないことをきいたり、なにも気にかけないでいることさ」
ふたりは森のてっぺんにあるギャレオンくぼ地と呼ばれている魔法の場所までまいりました。
ここへすわると、全世界が、空といっしょになるところまで、目のまえにひろがっていました。
また、世界になにがあろうとも、ギャレオンくぼ地にいれば、世界は、ふたりとともにありました。
そのとき、ほおづえをついて、じっと下の世界をながめていたクリストファー・ロビンが、またきゅうに、
「プー」と、大きな声でいいました。
「ぼく あのね、 ぼくプー」
「クリストファー・ロビン、なに?」
「ぼく、もうなにもしないでなんか、いられなくなっちゃんたんだ」
「もうちっとも?」
「うん、少しはできるけど。もうそんなことしてちゃいけないんだって」
「プー、ぼくが あのね ぼくが、なにもしないでなんかいなくなっても、ときどき、きみ、ここへきてくれる?」
「ぼくだけ?」
「ああ」
「あなたも、ここへきますか?」
「ああ、くるよ、ほんとに プー、ぼく、くるって約束するよ」
「そんならいい」と、プーはいいました。
「プー、ぼくのこと忘れないって、約束しておくれよ。ぼくが百になっても」
プーは、しばらくかんがえました。
「そうすると、ぼく、いくつだろ?」
「九十九」
プーはうなずきました。
「ぼく、約束します」と、プーはいいました。
「プー」と、クリストファー・ロビンは、いっしょうけんめい、いいました。
「もしぼくが あの、もしぼくがちっとも」ここでことばが切れて、クリストファー・ロビンは、またいいなおしました。
「たとえ、どんなことがあっても、プー、きみはわかってくれるね?」
「わかるって、なにを?」
「ああ、なんでもないことなんだ」
そういうと、クリストファー・ロビンは、笑って、はねおきました。
「さあ、いこう」
「どこへ?」
「どこでもいいよ」と、クリストファー・ロビンはいいました。
そこでふたりは出かけました。ふたりのいったさきがどこであろうと、またその途中にどんなことがおころうと、
あの森の魔法の場所には、ひとりの少年とその子のクマが、いつもあそんでいることでしょう。
心に沁みるおすすめ本です。