第2話 江漢/広重五十三次問題 まとめ目次へ 発端 1995年、岐阜の旧家から、名作「広重東海道五十三次」の原画とされる司馬江漢の五十三次画集が発見された。 |
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55枚のうち51枚までが広重と同じ図柄であり、偶然の一致ではない。どちらかがモデルでどちらかがコピーである。 |
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![]() 広重再刻版「日本橋」 |
大型の絵はがき程度のサイズで、一見水彩画のように見えるが、油彩の洋画である。 江漢司馬峻の署名は真筆とよく似ており、江漢の特徴であるローマ字署名も入っている。 印の一部は実物であることが確認されている。 |
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江漢は広重より70才年上、江漢図は江漢最晩年の作品で1813年の作、 広重五十三次は広重の若いときの出世作で、1833年の作だから、20年の隔たりがある。 もし江漢図が本物であれば、文句なしに広重図のモデルということになり、 美術界を揺るがす大事件である。 ●江漢の晩年に描かれた江漢のホンモノなのか ●広重図をコピーして、江漢サインを入れただけのニセモノなのか |
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「相州於鎌倉七里浜」は、江漢が鎌倉山に隠住していた1813年8月〜12月の作品であることを示す。 江漢が鎌倉に住んだのはこの時期だけ。鎌倉山は七里ヶ浜の裏山に当り、同一の地区である。 |
謎の解明・・・いくつかのアプローチがある。 1.モデル/コピー論 江漢図が広重図のコピーではないことを証明する。現地風景との比較など 2.アリバイ論 江漢図がニセモノである証拠をつかむ。 両図に20年の開きがあるがあることから、江漢の描き得ないはずのものが描かれていないか? 3.広重のナゾ解き 広重東海道五十三次には昔から謎が多いことで知られていた。例:再刻版、異刷り もし江漢図により、こうした広重図の謎が解ければ江漢図がホンモノの証拠である。 4.真贋論 江漢の真物であることの直接証明――証明できれば話は簡単だが、水掛け論になりやすい。 |
当初、江漢図がニセモノである絶対的な証拠をつかんだという情報が美術界に広がり、ニセモノ説が横行した。 (仙女香広告−アリバイ論) この情報は誤報ということが分かり、以後美術界は沈黙を守っている。 この10年の間に本物の証拠は山ほど見つかったが、ニセモノ説の根拠は、今のところ一つも出されていない。 注)岐阜の旧家・・明治時代に「江漢の辞世」が出たところで、「出るべきところから出た」ものである。 「出所不明なものは取り上げない」というのは、美術界怠慢の口実に過ぎない。 |
○大畠見解 広重東海道五十三次は、美術界だけのものではなく、東海道研究/郷土研究の重要な資料である。 消極的な美術界にまかせておけない。 |
司馬江漢の紹介 蘭学者として、天文学、世界地理などの著作が多い。 サイエンスや西洋の器械道具にも関心。交際が広く全盛期には多くの大名を友人に持っていた。 「口が悪い」こと、自己顕示欲が強い「はったり屋」として評判が悪いが、老中松平定信の政策を公然非難したがお咎めがなかったことから「御落胤」説まであり、全国を何度も旅行していることから「幕府の隠密」説まである奇人である。 「江漢西遊日記」の旅(1788)など東海道を何度も旅し、長崎のオランダ出島を訪ねている。 旅の画家であり、富士山が大好きだった。 画家としての江漢は、洋画の先駆者で銅版画/油絵/遠近法を独学で学び、マスターした。 |
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江漢の晩年 1812年には京都に滞在。「和洋中を融和した画風」で富士山の絵を沢山描く。透明感のある富士山。 1812年暮、京都から江戸に戻る。 帰路、写真鏡を使って東海道風景を取材。 1813年6月 世間から糾弾され、突如引退。 引退以後の江漢作品は世に出ていない。 1813年8月以降、東海道53次画帖を作成(遺作)。 1818年死去。 |
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1812年暮れに江戸に戻った江漢は金銭問題(貸し金の回収)に巻き込まれ、世間から糾弾されて1813年の六月に「何もかもいやになった」として「絵画の頒布会」も含めて一切の公の活動から引退してしまう。 その後1818年の死去まで二度と世に出ることはなく、1813以降の絵画作品は知られていない。 「何もかもいやになって」引退したはずの江漢が、引退後も絵を描き続けていたことは資料から明らかである。 これまでの江漢研究は、引退前後の資料の読み方が不十分で江漢自身の書いた書簡や著述の記事を読み落としている。 ★江漢が東海道五十三次を取材したのは1812暮(京都からの帰路)。 描いたのは引退直後の1813年8月以降と考えられる。 |
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江漢の画歴 江漢の生涯の画風は、浮世絵−南画(中国画)−銅版画−西洋画(油絵)とめまぐるしく変わる。 |
![]() 浮世絵 (鈴木春重) |
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![]() 油絵 |
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