10 web写真展「岩泉線 山峡の細き道」 11 12

「秘境駅」

押角

岩手和井内を出て10分弱。人気のない深い森の中に、ちっぽけな木のプラットホームが忽然と現れる。これが「秘境駅」として名高い押角駅だ。北海道に多く見られた国鉄ローカル線の仮乗降所を彷彿とさせるこの駅の周囲には、民家は全くない。列車が通り過ぎてしまうと、ただ鳥の声と川のせせらぎと風の音が聞こえるばかり。

もちろん、何の理由もなく、伊達や酔狂でこんな人気のない深い山の中に駅が作られたわけはない。今は駅舎はおろか、待合い室やホームの屋根すらない、板張りのホーム一面だけのこの駅は、かつては加速線を備えた堂々たるZ字型スイッチバックの駅であった。石造りの島式プラットホームと立派な駅舎を備えた旧・押角駅は、写真ではホーム先端から右に分岐している側線の先にあり、貨物全盛時代には耐火粘土の積み出しなどで大いに賑わったという。

しかし、今やスイッチバック遺構も、そのほとんどが草木に埋もれてしまい、辿るのは容易ではない。「秘境駅」となり果てた押角の現在の姿から、往年の賑わいを想像するのはもはや困難である。