11 web写真展「岩泉線 山峡の細き道」 12 13

「峠へ」

岩手和井内

夕立が通りすぎると、夏草の香りと蛙の鳴き声が谷中に満ちてゆく。彼方で薄い霧が、山肌を舐めるように立ち上ってゆく。そそり立つ山の端に、夏の日は早々と沈んでしまったが、頭上の空はまだ明るい。深い谷底にあるこの駅に立っていると、真っ青な光が真上から降り注いで来るかのようだ。

今日最後の岩泉行きが、黄昏の峠道を駆け上がってゆく。見る見るうちに、空の色は深みを増してゆく。