夢日記 第二夜 インディオの家 |
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ほこりっぽい土道を歩いていた。両側には垣根が続き、小さな家がぽつんぽつんと建っている。誰とも擦れちがわない。人が住んでいる気配を感じる家もない。そのうち自分が道に迷っていることに気づいた。住所を知ろうとして表札や郵便ポストを捜すが、どの家にも表札らしいものはない。ポストも錆びていたり壊れていたりしていて、住所どころか人の名さえ読み取れない。やっと一件の家の脇に朽ちかけた表札を見つけた。 “MAURICIO CRESPO” マウリシオ・クレスポと読むのだろうか。日本風の破屋にいかにも不釣り合いな表札だった。好奇心にかられて裏手に廻ってみた。低い垣根から狭い裏庭が見える。貧相な平屋の木造家屋で、庭は手入れされぬまま雑草が生い茂っていた。縁側には段ボール箱や古新聞が山積みされていて、ぼろぼろのカーテンがかかった硝子戸をほとんど覆い隠している。段ボール箱の上に、角の生えた水牛の大きな頭蓋骨が載っている。ところどころ毛皮が残っていて要らなくなった飾り物とは思えない。自然死したものか、あるいは、肉のほうは誰かの腹におさまったのかもしれない。 急にばさばさ、という音がして見上げると、大きな禿げ鷹が瓦屋根に舞い降りた。空にはさらに数羽、不快な声をあげながら禿げ鷹が輪を描きながら飛んでいる。と、表の方にたくさんの人の気配が近づいてきた。五、六人の男たちがやって来る。上半身は裸で赤い肌をしている。インディオだ。腰には蓑をつけた者もいるが、ジーンズを履いている者もいる。手にはそれぞれ弓矢や槍を抱えている。 とっさに垣根に身を隠したが、彼らが気づく方が早かった。身の危険を感じて私は走り出した。同時にばたばたと足音が追ってきた。みんな裸足だ。道は土から砂利に変わっていて、何度も足をとられる。それでも何とかインディオたちを引き離した。 突然、道がなくなった。遥か眼下に、荒涼とした赤い砂漠が地平線まで広がっている。 禿げ鷹が一羽、目の前をぶわ、と横切った。巨大な鳥は風に乗ってゆっくりと断崖を下降していく。インディオの声が近づいてくる。 |