夢日記 第五夜 ナナイロアゲハ |
![]() ![]() ![]() |
自分が書いていた小説の主人公二人を夢に見た。二人とも中学三年生という設定で、夢の中で私は早苗役になっている。ただし、自分ではこんな場面は書いていない。
二俣川の大池公園。池のほとりで早苗は風志を待っていた。明日、北海道に引っ越していかなければならない。 釣糸を垂れた子供たちが池を取り巻いている。好い天気だった。ふと近くの水際を見ると、見たこともないような美しい蝶が土の上に羽根を休めている。早苗は思わず腰をかがめて静かにそこに近づいていった。 それは九頭の大きなアゲハだった。まるでヒョウタンでも沈めたような波紋が羽根の中央から縁にかけて広がり、虹のような光沢を放っている。九頭は羽根をゆっくりと上下に動かしながらストローになった口器を黒土に刺し入れて水を吸っている。すると尻の先にみるみる小さな雫ができて、水玉となって土に落ちる。まるで体の中を清めているように見える。 すっかりそれに見惚れていた早苗は、やがてスカートの裾から見えている膝が気になってちょっと直した。それに驚いたのか蝶はいっせいに舞い上がった。あっ、と思って立ち上がると、いつの間にか捕虫網を持った少年が側に立っているのに気がついた。少年が網を振るって一頭を捕まえた。早苗は思わず、可哀想にとつぶやいた。少年は、なんでさ、と不服そうに言いながら、蝶を虫籠に閉じ込めた。 カラスアゲハだ、やはりいつの間にか来ていた風志が言う。あれえ、本当だ、びっくりした声で少年が言う。早苗が覗きこむと、さっきとはまるで色が違う黒い蝶が暴れている。 |