夢日記 第十三夜   果物のサンプル Previous Menu Next
 店長に頼まれて果物のセールスに行くことになった。店長は大丈夫というが、セールスは一度もやったことがなく、今度のは自分も知らないものなので断りたかった。何度か押し問答した。結局、カタログとサンプルを置いてくるだけでいいということと、店長の方から先方に話はだいたいつけてあるので、心配ないということで押し切られ、本屋を後にする。
 取引先は同じ商店会のスーパーマーケットで、歩いて五分とかからない。サンプルは、たぶん店長だと思うが、先に軽トラックで運んで裏口の倉庫脇に停めてあった。荷台を覗いて確認してみると、味と香りのサンプルはあったが、形のサンプルがない。仕方なく本屋に引き返して、書籍や雑誌の返品用ダンボールの山の中から形のサンプルを二箱探し当てて、再びスーパーに向かった。
 歩きながら中を確かめると、真っ白なリンゴやミカンのイミテーションがぎっしり詰まっている。トラックの陰で、ほかのサンプルも確かめる。ペースト状の味のサンプルが一箱、それに分厚い色のサンプルブック。全部抱えるとかなりの重さになった。
 スーパーの通用口から入った。社長室は三階である。途中で一度荷物を持ち替えただけで一気に昇る。社長室のドアは開いていて、奥では社長一人がコンピュータに向かっている。三十代半ばのがっしりした体格の男である。私は黙礼だけして廊下で待った。
 話はついているというが、どういうふうに切り出せばいいのか考えていると、ほどなく社長は部屋から出てきた。少し挨拶を交わしただけで、せかせかと私の前を通り過ぎてしまう。私は彼のあとを追いながら、果物をもってきたのですが、とカタログを示した。社長は生返事するだけで、他のことを考えているらしく階段をどんどん先に降りていってしまう。
 一階の事務室のようなところに来ると、ネクタイ姿の若者たちが廊下の椅子に並んで座っている。どうやら新入社員の面接日らしい。待っている間にまた色のカタログを捲ってみると、これまで見たこともないものだったので慌てて子細に眺める。形と味のサンプルは付録で、色のカタログが売れなければ本屋としては話にならない。本は果物ごとに色見本が並べられた単純なもので、特にリンゴのページが綺麗なように思われた。
 やがてまた社長が忙しげに部屋を出てきて階段を昇りはじめた。後を追いながら話し掛け、途中でようやく社長はカタログを手に取った。ところが、さっき目に止めておいたページがなかなか見つからない。説明するのにかなり冷汗をかいて、何とか取り繕う。
 さいわい社長は果物の色指定のシステムを説明したページを見て感心したようだ。