夢日記 第十五夜 大洪水 |
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夢でよく行く街がある。何度も行っているので、駅からどの道をどう行ったらどんな店に出るかまで思い出せる。もちろん、実際にはそんな街は存在しない。 この街にはいくつか映画館が集まった場所がある。駅に一番近いのはアーケード商店街の中の封切館で、ここには商店街を挟んで二館が並んでいるが、ここには入ったことはない。アーケードは吉祥寺あたりの商店街に似ていて広々としている。このあたりまでしか来ないときには映画館には入らず、たいていは本屋やゲームセンター、パチンコ屋などに行くことになる。 さらにずっと先に行くと、アーケードの外れに大きな映画街がある。そこは昔の浅草あたりの歓楽街と似ていて、大小様々な建物が秩序もなく並んでいる。裏側は公園のような広場になっていて、そこからだと全部の映画館が見渡せる。安い料金で古い映画をやっている二流館もたくさんある。ポスターが一箇所にまとまった巨大な掲示板があり、総合窓口まである。 最初から映画が目的でそこに行くこともあるが、たいていは知らずにそこに行き着いて映画を観ることになる。そして必ず二流館の方に入る。 二流館は、どういうわけか地下への階段を下りていく造りのものが多い。家族連れの子供がうるさかったり、広告ばかりだったり、休憩時間がやけに長かったりするのは当たり前。ポスターと上映内容が同じだと期待してもいけない。しかし、必ず一本は上映されるし、三本続けて観たこともある。 映画を観ているうちに、自分自身が主人公に同化してしまい、映画館にいる感覚もなくなってしまうことも多い。夢の中の映画のストーリーは目が覚めるとほとんど忘れてしまう。この夢は、その中でも数少ないストーリーを思い出せる映画の一つである。 世界中が水に覆われはじめている。家族と旅に出ていた男も、いつの間にか別れわかれとなり、次第に沈みゆく大地の上をさまようことになる。人々は飛行機や船で沈まない土地を求めて移動している。男が歩いているところはもともと火山岩質の広い高原だったが、今では遠浅の磯のように水浸しだ。様々な民族が土地を求めて旅を続けているのに出会う。しかし男は独力で旅を続ける。 行く手に飛行艇を見掛けた。食糧を求めて近づくと、中には一人の少女がいた。金髪の長い髪の少女だった。話しかけると彼女の発音から英国人だということがわかる。放ってはおけず同行するように言ったが、初めは言葉が通じにくいこともあって彼女はなかなか男を信じようとしなかった。しかし、やがて彼女はぽつりぽつりと素性を話した。 彼女はヨークシャー生まれで、名をジェニーといった。家族とともにハワイに遊びに来ていたところ、大洪水に襲われ、混乱のうちに家族とも離ればなれになってしまった。ハワイは沈んでしまったという。その後親切な男に拾われて、チベット高原へ行く途中だったらしい。ここへ降りたのは睡眠をとるためだった。そこを、暴徒に襲われて食糧を奪われてしまったらしい。 "So, where's the man?"−「それで、その人は?」 "He died."−「死んだわ。」 彼女は少し離れた場所を指さした。岩陰に白人男性が仰向けに倒れて死んでいた。彼女は男にもたれかかってひとしきり泣いた。 機内に予備のガソリンタンクがあり、全然使われていないことを調べると、娘とともに飛び立った。眼下には果てしなく続く水原が広がっている。 |