夢日記 第十六夜 石仏の行列 |
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屈強な鎧武者どもに促されてたくさんの僧兵が歩いている。道の左下方には墓場と大きな寺が見える。丘の斜面を寺へと下る白壁の細長い建物があり、私たち僧兵はその入口に導かれていく。 そこは階段部屋とでも言うべきところである。上から巾一間ほどの木製の階段が百段ほど続いて寺の内部へと続くらしいが、扉は堅く締められている。瓦屋根の天井までの高さも一間ほどで、横の上半分は格子状に木が組まれている。 皆は階段の上に、てんでに胡座をかいて座った。入口の方では鎧武者が見張っている。格子から寺の中庭のようなところが見える。巾一尺、高さ二間ほどの瓦屋根のついた白壁が交錯し、まるで迷路のような造りになっている。 僧兵の間で、以前にここから抜け出してあの壁伝いに山を越えた者があるという話が囁かれる。中庭の向こうはすぐ低い山の斜面になっている。そのあたりには警護の者も見えない。誰かが格子の一部を叩き壊すと、それをきっかけに皆が立ち上がり屋根まで壊すほどの勢いがついた。あっという間に格子のあちこちが破れて、我先にと逃げ出した。 弓矢の攻撃を交わすために迷路の壁の上を走るのは危険そうだった。かと言って、迷路の中は不案内で、鎧武者と直接やり合う武器もない。壁の上を這い、時には壁の片側にぶら下がって矢を交わしながら皆、進んでいく。 やがて武者の数が多くなって来ると、そんな悠長なこともしていられなくなった。壁の上を走り出す者が出始め、私もそれを見習った。 迷路の中庭を突破すると、かなり急な山の斜面になる。斜面には緩やかに蛇行しながら登る道があるが、寺の方では激しいせめぎ合いの声が響き、今にも武者が迫ってきそうである。目立たないように藪の中を選んで、斜面をまっすぐ駆けあがった。 斜面のところどころは平坦にならされていて、そこにも墓石が並び、線香の煙が立ち上っている。途中で振り返ると、どうしたわけか逃げ出せたのは私一人のようだ。寺には火の手があがり混乱状態が手に取るようにわかる。とにかく山を越えればとなりの郷へ行かれると思った。 あとどのくらいで頂上かと見上げると、高いと思っていた山はそれほどでもない。その代わり、左手に山の尾根道を登っていく奇妙な行列が見える。 十数人が二列になってゆっくりと行進していく。それぞれ胸に火のついた蝋燭を携えている。その無表情は人と見えたが、近づいていくと人ではない。石仏である。袈裟を着たもの、錫杖を持つもの、赤いよだれかけを着けた地蔵に似たもの、笠を被ったものもいる。気のせいか、重苦しい唸り声のような念仏が聞こえてくる。 行列の中程に人間が見える。父娘らしい二人で、父らしい男の方はグレイの背広、娘らしいのは赤いワンピース姿である。数珠を握りしめ、何かに憑かれたようにふらふらと歩を進めている。石仏の間にいるためか、まるで幽霊のようにも見える。 私はさらに山道をいくつか横切って登り切り、行列の前に立ちはだかった。石仏は私を完全に無視して通りすぎていく。 山頂にはいくつか塚が見え、その先は崖になっている。父娘はまるで生気のない顔をして、夢遊病者のような足取りで誘導されていくだけだ。私に気づきもしない。そのうち先頭の二体の石仏が崖縁に達した。落ちたと思って見ると、石仏は垂直な崖を地面と同じように下っていく。次の二体も同じように体を真横にしながら、崖をのろのろと歩いていく。 私は恐ろしい直観に駆られて、父娘を行列から引っぱりだした。法力に囚われたように彼らは重く、寸前でようやく救い出すことができた。父娘は私の家族にどこか似ていた。彼らはすぐに正気に返ったが、石仏の行列を見て青ざめた顔になり、何の言葉を残さずに山の向こうに逃げるように消えていった。 追手が山裾に近づいてきていた。私もあと僅かになった山道を再び登りだした。 |