夢日記 第十九夜 港の祭 |
![]() ![]() ![]() |
港は祭だ。細長い入江を囲む町は美しい積木細工のように飾りたてられ、停泊しているたくさんの船も様々な意匠で着飾っている。景気づけの汽笛。風に運ばれてくる紙吹雪が、甲板にまで舞いこんでくる。 私は客船のデッキにいた。雲一つない空に砲声が三発響く。とたんに港全体に歓声が上がった。あまり隙がなく綺麗なので、町全体がまるでミニチュアセットのように見える。 船体すれすれの海面をいく種類もの鯨が泳いでいるのが見下ろせる。小さなイルカからセミクジラ、コククジラ、マッコウクジラ、シロナガスクジラまでいる。どれも港の中へと泳いでいく。 「何の祭でしょう」 隣のスキンヘッドの黒人が英語で話しかけてきた。 「さあ、船長なら御存知でしょうがね」 「そうですな。訊きいてきましょう」 黒人が去ると、また別の人物から話しかけられた。聞き馴れない言葉だ。 「何の祭ですか」 音楽家のリストだった。私は少々おどろいたが、すぐにハンガリー語で応答した。 「さあ。私は知らないんです。船長なら知ってるかもしれませんね」 海面近くを巨大な鯨の背中が移動していく。回遊しているものか、それとも祭にやってきたものか。いろいろな種類の鯨が次々と入港してくる。 じっくり観察したいのだが、矢継ぎ早に人が話し掛けてくる。みんな同じ質問だ。 リストはしばらく私と一緒に鯨を眺めていたが、やがて行ってしまった。 また別の人物が隣にやってきた。フランスの有名な俳優、ジャン・ギャバン級の俳優だったが、名前は思い出せなかった。やはり、同じ質問をフランス語で話し掛けられ、フランス語で返答した。 次の人物は英語で話し掛けてきた。 「何の祭ですかね」 「さあ」と言いながら振り向くと、船長が立っている。おや、こいつは俳優のジョージ・ケネディだぞ、と思った。 彼が泣き顔で質問を繰り返した。 「何の祭なんだ」 「知りませんよ。しかし、いったいどうなさったんですか?」 「僕は」と、船長は泣きじゃくりながら言った。「僕は、お客さんの質問に答えられない駄目な船長です。もう死にます」 海に飛び込んでしまった。海の中には巨大な鯨がうようよいる。たぶんシャチもいることだろう。 |